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 託宣の儀式。

 十年に一度行われる、「託宣の勇者」を選び出す為の儀式だ。正確に言えば、託宣により勇者を選定する為の儀式。

 でも私が知る限り、勇者は一度も選ばれたことがない。どこそこにいる、という託宣もないらしい。だからこそ十年に一度行われているとか。百年以上前からの伝統だ。

 それが一ヶ月後に迫っている。……それはいいんだけど。


「ええっと、レナミアさん?」

「うん?」

「私、馬車持ちじゃないですよ?」


 人を運ぶのは馬車持ちの配達屋の仕事。私みたいな徒歩の配達屋だと不測の事態に対応出来ないから、普通の人を同行させるなんて出来ないのだけど。

 例えば、街道に出る盗賊とか魔物とか。そんなのが出たら、私の腕じゃ自分の身を守るのだけで精一杯。

 不安になりながらレナミアさんを見ていると、きょとん、とした顔で私を見る。


「そりゃ、いつも徒歩で村に入るの見てるから解るよ」

「人を連れて行くのは馬車持ちの配達屋ですよ?」


 私の言葉に漸く飲み込めたのか、レナミアさんがからからと笑う。


「ああ、そういうことかい。大丈夫さね、リムは自分の身ぐらい守れるよ」


 ひらひらと手を振りながら問題ない、と言うけれど。

 私としてはそのリムって人がどれだけ自分の身が守れるか解らなくて不安だ。

 いやそれ以前に、全く面識がないから見た目も性格も知らないわけで。……それって、凄く凄く、危ないんじゃなかろうか。性格の不一致に気付かずに王都へ向かって、途中で喧嘩してとんでもない事態に陥っちゃう、とかは勘弁して欲しい。

 ちょっとした喧嘩とかがとても危険に繋がりやすいからこそ、人を運ぶのは馬車持ちの配達屋が一手に引き受ける仕事なのである。


「むぅ。私その人のこと知らないから、お引き受け出来ないですー」


 そりゃあ、レナミアさんのお願いだから引き受けたい。引き受けたいけど、私とその人両方の安全を考えたら、安請け合いなんて出来ない。しちゃいけない。

 片付けられたテーブルに伏せながら唸る私の頭を軽く叩き、


「なら知ることから始めたらどうかな。今までの経験上、一週間は村にいるんだろう?」


 いつの間にか起きてきていた村長さんが柔らかくそう言った。


「おはようございます、村長さん」

「お早う、フォルさん」


 身体を起こしながら挨拶をすると、村長さんが椅子に座りながら挨拶を返してくれる。

 手際よく空いたテーブルにレナミアさんが村長さんの朝食を準備して、もう一度椅子に座り直した。


「そうだね、それがいいわ。フォル、あんたさえよければ、この後リムの所に案内するよ」


 確かに、問題は私がその人を知らないことだけと言ってもいいかもしれないし。逆にその人が私を見て断る場合もあるし。そう思うと、やっぱり一度会った方がいいんだろうなぁ。会って損するわけでもない、気がするし。

 ニコニコと笑みを浮かべて私の返事を待つレナミアさんに頷き返す。


「うん、じゃあ、会ってみる」

「よぉし、じゃあちょっと待っといておくれよ。この人の朝食が終わったら案内するからね」


 それからは他愛ない話をした。

 私が前にレムドの村を訪れた後、どんな物を届けに何処へ行ったのか。私が昨日来るまで村でどんなことがあったのか。最近見た面白い物。村に来た馬車持ちの配達屋が持ってきた商品。

 いつもと同じような光景で、私はすっかり緊張が解れていた。

 知らない人に会う、というのがレムド村では久々すぎて、どうやらちょっと緊張していたみたい。村長さんとレナミアさんに感謝感謝。


「さ、行こうか」


 食器を片付け終えたレナミアさんが私に振り返る。

 頷きながら立ち上がって、村長さんに挨拶してから一緒に家から出た。


「リムの家は村外れにあるんだよ」

「え、と。カナエさんって人、病弱だったんですよね?」


 それなのに、何故村外れ。


「そっちの方が都合がよかったのさ。カナエの身体にいい薬草が生えてるのがその辺りでね。リムが摘みさえすればカナエ自身が調合出来たから」


 普通の薬では駄目だったんだろうか、と思わないでもない。ああでも、成分が強すぎるとかで逆に体調を崩した、という話を聞いたことがあるから、それと同じなんだろう。かなり苦労をしたんだろうな、と漠然と思う。

 村や町など、人が住む場所は魔術でぐるりと囲まれている。魔の力を蓄えし物、魔物が存在しているからだ。

 魔物の多くは人間の血肉を好み、時に単独で、時に群れて人を襲う。その魔の手が村や町に伸ばされないよう、魔物除けの魔術が張り巡らされているのだ。魔物除けの魔術は固定式で、一度敷いたら壊れるまでその場所から動かせない。だから村から村へ行く為の街道では、配達屋や放浪者が襲われて生命を落としている。

 レムドの村だって例外ではない。魔物除けの魔術のお陰で村に入ってこなくても、その周りの森には沢山いる。比較的弱い魔物だろうけど、それは魔物の中でであって、私達にとっては脅威以外の何物でもない。

 そんな森に薬草を摘みに行くなんて。……確かに、自分の身は最低限守れるのかも。

 うだうだ考えながらレナミアさんに付いて行っていたら、不意に彼女の足が止まる。


「ここがリムの家さ」


 示されたのは小さな家。と言っても村長さんの家に比べてであって、普通に暮らす分には何の問題もないと思う。

 それでは噂のリムさんとやらに会おうか、と思った時、偶然にも家の扉が開いて中から人が出て来た。

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