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レムドの村にて

 肺一杯に空気を吸い込んで、大きくゆっくりと息を吐き出した。

 昇り初めのお日様が朝露をキラキラと輝かせている。今日も一日いい日になりそうだっ。

 井戸から汲んでおいた冷たい水で顔を洗って、犬みたいにぶるんと首を振る。ハンカチとかタオルとか持ってくればよかったなぁ。


「何はともあれ、今日も一日頑張ろう!」


 気合い一発、宿屋の部屋から持ってきた鞄を抱えて私はこの村、レムドの村を走り始めた。

 鞄に入った紙がかさかさ音を立てるのを聞きながら、一軒一軒家を回っていく。

 私、フォートリーナは配達屋である。

 読んで字の如く。考えても字の如く。矯めつ眇めつしたって字の如く、だ。例え商売道具が自分の身体と鞄の二つだけだとしても。

 大抵の配達屋は大量の荷物を長距離運ぶ為、馬か馬車を持っている。馬を持っている配達屋はスピード重視。手紙や各地の情報、小包をメインに扱う。馬車を持っている配達屋は重量重視。重い荷物や大きな荷物、人の運搬なんかも扱う。

 私は馬車や馬を持てるようなコネも財力もないので、この身体と鞄だけで配達屋を営んでいる。もちろん他の配達屋に比べれば活動範囲は狭いし、量も届けられないからお客様は少数だ。その全てが固定客であることは私の自慢の一つである。

 レムドの村は、村全体が私のお客様でもある。大きな荷物は他の配達屋任せだけど、手紙は全て私に託されるのだ。多分、娘とか孫娘を可愛がる心境で。


「これで、おしまいっと」


 全部の手紙を宛先の手紙受けに入れ、私のお仕事は一旦終了。後は村のみんなが返事を書いたり新しく手紙を書いたりするのを待つだけ。一週間後にでも受け取ればお仕事再開だ。

 それまでは暇なので、いつもは村の中でちょっとしたお手伝いをさせて貰っている。

 今回はどんなお手伝いがあるかな、と思っていたら、


「ああ、フォル! いいところに」


 早速お声が掛かりました。


「おはよう、レナミアさん!」

「おはよう、朝早くからご苦労さん」

「えっへへー。昨日着いたのがもう遅い時間だったからね。朝一番で届けたの」


 レナミアさんはこのレムドの村で村長代理をしている。本物の村長さんは、自分は纏め役に向かないから、と大事な決断をしたり責任を取ったり、っていう立場だけ持って、いざこざの解決とか集会の音頭とかは全部レナミアさんに放り投げているらしい。……因みに、村長さんはレナミアさんの旦那さんである。

 そんな村長代理レナミアさんが私に用事、だなんて。何かあったのだろうか。


「所でさっき、いいところに、って。何かあったの?」

「あー、なんだ。何かあったって言えばあったって言うべきかねぇ」


 歯切れが悪い。珍しいこともあるものだ。出発するときにいい天気だといいけど。

 立ち話も何だから、とレナミアさんから朝食にお呼ばれした。断る理由はないし、寧ろ美味しいご飯だ万歳! って感じ。

 レナミアさんの家へ行くと美味しいサラダとオムレツを食べさせてくれた。村長さんはまだ寝ているらしい。


「フォルは村外れのカナエを知っているかい」

「カナエさん、って、病弱だっていう?」


 名前は何度か聞いてるけど、本人に会ったことはない。手紙の配達を頼まれたことはないし、配達してきた覚えもない。多分、天涯孤独、って奴なんだろうなとは思っていた。でもレムドの村は村全体が家族だから大丈夫だろう、とも。

 そんなカナエさんが話題に出るって事は、カナエさん繋がりで何かお願い事があるんだろうな。


「つい一週間前に、ね。…………亡くなったんだよ」

「…………それは、お気の毒に」


 何とも言えない表情で私は返す。

 誰だって何時か死ぬ。避けられないことだって解ってる。でも、誰かが死ぬのは哀しい。知り合いでもない私がそうなんだから、レナミアさん達村の人はもっと哀しいだろう。慰めの言葉は、見つからなかった。

 空になったお皿の上で視線を彷徨わせていると、レナミアさんが私の頭に手を乗せてわしゃわしゃと髪をかき混ぜてくる。


「そんな顔をするんじゃないよ。それでね、あんたに頼み事さ」


 ぐちゃぐちゃになった髪をそのまま背筋を伸ばす。


「フォルはこの後王都へ向かうだろ?」

「うん。私が行けないところへのお手紙も預かると思うし」


 王都には配達屋組合がある。

 一人で全地域なんてカバー出来ないから、配達屋は組合に入ってお互いに助け合う。

 どの方面のどの地域、ってのを一人一人申請して、その申請した場所にあう荷物や手紙を運搬方法に合わせて預かるのだ。私ならばレムドの村周辺地域行きの手紙を預かる。

 馬車の配達屋が出る場合、複数人で組んだり冒険者を雇ったりして道中の安全を図るんだけど、その手配も頼めば組合がやってくれる。ちょっと仲介料割高らしいけど。

 だから行くのはいつものことだし、今更確認されるような事じゃないと思う。


「カナエの一人息子がね。王都で一ヶ月後に行われる『託宣の儀式』を見に行きたいんだって」


 ついでに連れていってくれないかい、なんて。

 青天の霹靂。

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