この世界の○にはアンモニアが含まれています
その空間には匂いがなく、時間というものが存在するのかも疑わしかった。そこは侵すべからざる静謐であり、侵しえない聖櫃だった。
そんな場所に唯一侵入を許された関係者として、凪はその病室の中に立っていた。光理はいくつかの忠告を残していつの間にか何処かに消えてしまっていた。
「一つ、雇い主の顔でも見てみるとするか」
大きく息を一つ飲み込むと、凪はいきおいよく自分の舌を噛み切った。瞬く間に口からは鮮血が溢れ、彼の意識は暗闇へと疾走する。
死の境界線。
常人では一方通行のその境を、まるで詐術のように往復して、睦月凪はそこにある■へと触れた。
面会のための時間は極端まで制限されている。
光理の話に拠るなら、この究極無比の拒絶の中で、凪が存在できるのは彼の特性をもってしても最初の一回だけだという。二回目からは扉をノックすることすら許されないだろうとのことだった。
黒々とした■の中は意外なほどに広かった。テニスコートほどの面積のその空間には天井が無く、あるのは何処までも真っ白な虚空だけだ。
そん空間の中心に、真っ白な一台のベットがあった。その上に眠っているはずの誰かめがけて凪は躊躇いなく疾走する。
だが、時の氏神は凪に対しては厳格だった。彼に手が届いたのは、ベットの上から地面に垂れた長い黒髪の一房に過ぎなかった。
彼が、それに触れた瞬間、
──触るな
彼の中にある夜のイメージが流れこんできた。
一人は両断され、一人は四肢を切り取られた後に首を飛ばされ、最後は児戯のような手付きで発狂させられた。そして、残った一人は嘲弄を浮かべた■色の──
そこまで視たところで、今代の最高の死神ですら刈り切れなかった凪の命は無造作に掻き消えたのだった。
………
……
…
「いや、いやいやいや。ここで死なれたら全てが台無しだった話だからね」
──五月蝿い
どこからともなく像を結んだ光理の身体が消えて、また現れた。そして、また消え、すぐさま現れる。
「いいかげん慣れてくれないものかな」
チカチカと点滅する自分の身体を眺めながら、光理は疲れた風に呟いた。実際のところ、彼女にしてみれば生死の境をコンマのペースで行ったり来たりするのは、近所のコンビニに買出しに行く程度のことに過ぎないのだが。
──失せろ
それを合図に、点滅のペースは一気に加速、光理はその場から遂に消滅してしまう。
「恐るべきは、これが無意識下の防衛機構に過ぎないってことだよね」
消されにくいように「存在」そのものを再構成した光理は、つい先ほど世界から消滅した自分自身に両手を合わせて哀悼の意を表した。
その手が左右に離れるのと同じくして、光理の右手に一振りの刀が出現する。
鬼切。
つい先ほどまで凪たちを黄泉の国に送らんとしていた今代最高の魔剣である。
むろん、オリジナルはこの場所には無いので、光理の手にはあるのは本物と寸分違わぬ性能を有したコピーに過ぎない。
「ていっ」
気の抜けた掛け声と共に、光理の手で強制的に励起された鬼切がベット目掛けて「切断」の力を発揮する。
「やっぱ、この程度じゃ、どうにもならないか」
手の内で砕けるどころか無へと還元された鬼切を眺めつつ、光理は次の手を急いだ。また身体が点滅し始めていたのだ。
ニ、三の存在構造を潰されたところで、光理には痛くも痒くもないが、馬鹿馬鹿しいイタチごっこではある。彼女はさっさと奥の手を出すことにした。
光理が取り出したのは、先ほどまで四葉の元にあったあの守り刀だった。
呼び出したのではない。あの場から物理的に持ち運んだのだ。アーカイブスによって再現できる程度のものでは、この部屋の主の寵を得ることなど望むべくもないからだ。
──|Cognosce te ipsum(我、全てを智る)
光理が求めるのは、この守り刀の本来の姿。童子切の誉れを受ける遥か手前、無銘をもってその権能を誇った一本の槍の姿であった。
柄と刃、その両方が同じ素材で仕立てられているその武具は、紀元前において候補者の一人であった鍛冶師が、神に相応しい武具を造りたいという願望を物象化させた一品だった。
刃に映した森羅万象を再現してみせるその槍は、比べるものが無い卓越した力が故に、ただ「槍」と呼ばれ、使い手の非力が故に、大陸如きと引き換えにその身を砕いた。
「とはいえ、詠唱とか中二病が過ぎるか」
──以下略
光理の声と共に投じられた槍は、地球の運行の質量を再現しながら、かの人が眠るベットに直撃した。
空間のどこかで微かに、金属を金属で擦ったような不快な音が響いた。この部屋の主の宮廷に、光理がやっと傷を負わせたという証だ。
──■■■■■■■
狂ったように唸りをあげる声と重なるように、気の抜けたあくびの音が聞こえてきた。光理のノックに応えて、やっとこの病室の主が目を覚ましたのである。
「おはよう、光理ちゃん」
甲高い少女の声で、主は爽やかに起床の挨拶をした。
「おはよう、ご主人様」
光理は身体をベットの横に再出現すると、目の前でまだ横になっている主の鼻を指で摘まもうとした。
光理の身体がまた掻き消える。
伸ばされた手を煩わしそうに払った■の細枝のような腕に触れてしまったからだ。■が望まなければ、遍くものを通さない絶対の宮廷は、裏を返せば通ろうとしたものを根絶しようとする凶悪な矛でもあった。
「もう、光理ちゃん、わたしがこういうの好きじゃないの知ってるでしょ?」
「まあ、さっきから、ずっと殺されてるしね」
ベッドの逆サイドに身体を再構成させた光理は、自分を見ずに発せされた警告に飄々とした答えを返した。
「いらない手間をかけさせるんだから」
そう言いながら、■は自分の身体をベットからゆっくりと起こした。そうしないと、他のものが触れた気色の悪い部分を上手く引きちぎれないと思ったからだ。
「殺されたのは、貸しにしとくよ」
■は自分の右側を無造作に引きちぎると、病室の隅の方へと放り投げた。
「いや、せめて反応くらいして欲しいんだけど。二人してなんて言うか、終わってるよね、君たち」
「二人?」
滂沱のごとく流れ落ちる血液は、■の白い病院着に染み込まず、床を素通りして因果の外へと落ちてゆく。
それを無表情で眺めながら、■は初めて光理がいる範囲に視線を投げた。
「何を不思議そうに言ってるんだか。さっき自分で殺したばかりのくせに」
ベットの付近の床に横たわっている凪の遺体を、光理は呆れたように指差した。
刹那。
ベットの上にあったはずの真の身体が、怪我一つない状態で凪の死体の横に転移していた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
安らかにも見える笑みを浮かべた凪の顔を、■はそう言いながら何度も何度も踏みつけた。
──戻れ
もはや踏みどころがないほどまで踏み抜くと、■は全てを無かったことにして、その作業を再開する。巻き戻しの回数が那由多に近くなったとき、ふと真は自分の近くに光理がいたことを思い出した。
「まだいたんだ?」
「この扱いに慣れてる自分が悲しいね。惜しむらくは、この理不尽に耐える薄幸系美少女キャラを見せる相手がいないことくらいか」
普段なら他の者の言葉など、歯牙にもかけず言い放しを貫く■だったが、このときは珍しく光理との会話を成立させた。
「理由ならあるよ、顔がむかつく」
「ざんーねん。この顔、ご主人様の完コピでした」
■は即座に自分の頭をもぎ取ると、何処へでもなく放り投げた。
「それほど、それほどのレベルかいっ」
首から上が無くなった■の身体からまた大量の血が床へと流れ出した。だが血は光理の足には触れもせず、凪の遺体を汚しもしない。
その血の一滴に到るまでの完全な孤律世界。
それが■■■という現象の本質なのだ。
「まっ、記憶なんて無いはずの兄さんもこの顔を見た瞬間、バットで強打しに来たから、遺伝的なものかもしれないね」
「お兄ちゃんが?」
頭の無い身体から声が響いた。
「そこで嬉しそうにするとか──」
光理のツッコミを無視して、■はまた凪の遺体を足を用いて陵辱し始めた。これは真からすれば戯れに過ぎない。本来なら■■に触れたものは、かつてのイーストマンのように、この世界から完全に消滅するからである。
「お楽しみのところ悪いけど、こっちの話も聞いてくれるかな?」
「やだ」
「そう言うと思ったから、勝手に話すけど、誰かさんが手荒に扱ったせいで、マスターと睦月凪との間にあったパスが断裂してるんだよね。わたしが張り直してもいいけど、そうするとまた固定化されるまでに半年かかっちゃうんだよ」
「やーだ」
「だから出来れば、マスター本人が二人の間のパスをつなぎ直して欲しいんだよね。何ってことはない。そっちの体液を与えてくれれば、後は水は低きに流れるという寸法でリンクが回復するはずだからさ」
その言葉を聞いたのか聞かないのか、■は自分の足によって肉塊へと変貌しつつあるものに付属していた穴の一つを眺めた。人間で言うなら口に該当する場所である。
──消えろ
光理を自らの空間から排除すると、■は自分の穴の一つを、凪のそれに近づけていったのだった。
………
……
…
凪が覚醒して最初に気になったのは口内にある違和感だった。
次に気になったのは、自分の顔を見下ろして奇妙な笑みを浮かべている光理だった。
三番目の、後頭部にあった柔らかな感触を気にしたところで、凪は自分がどのような体勢にいるのかを把握し、何も言わずに光理の膝枕から起き上がった。
凪が寝台代わりにしていたのは、腰掛がない三、四人が連なって座れそうな黒革のソファだった。前後のどちらかでも座れる待合室などでよく見られるタイプのものだ。
凪は自分がいるのが病院であることを確認すると、四人がけのソファの端に座っていた形になる光理の横に自らの身体を置いた。
「で?」
「いや、死ねって連呼されるよりはマシだけどさっ」
光理がよく分からないことを叫んでいるのは意味が伝わらなかったから故だと判断して、凪はもう一度丁寧に彼女に問いかけた。
「ボクはあの病室に入ったと思うんだけど?」
「そこまで覚えてるなら話は早いよ。手ひどく拒絶されたのさ、つい殺されちゃうほどにね。それで意識を失った兄さんを、わたしがここまで運んできたってわけ」
「なるほど、それはどうも」
「どういたしまして」
馬鹿みたいに頭を下げあったところで、凪はある文句を一つ口にした。
「だが、今どき、着つけ薬にアンモニアは無いんじゃないだろ。口の中が何か気持ち悪いんだけど」
「気つけ薬ね。なるほど、そういう考え方もあるか」
「どうかしたのか?」
「いや、兄さんは幸せ者の資格があると思っただけさ」
「意味がよく分からないんだが」
「ところで兄さん、ご対面の感想はどうだった?」
光理の様子は少し気にかかったが、その言葉で凪の意識はすぐさま切り替わった。彼が体験したものがそれだけ歪だったとも言える。
「あれは、駄目だ。話にならない」
刹那のうちに読み取った三人の末路を思い返して、凪は怒り混めて言い放った。彼とて自分のことを聖者の類だと思ったことはないが、あれに比べれば間違いなく数倍マシな人間だと断言することが出来た。
「と、いうと?」
相応しい笑みを浮かべる悪魔に、凪は先ほど触れたものへの評価を口にした。
「言ったな。この茶番の勝者は世界を変えると。お前は、あれが世界を変えたらどうなるのかも分からないのか?」
「破滅が訪れるだろうね。全世界規模の」
「お前らだって、ただじゃ済むか分からないんだぞ」
「いや、分かるよ。人類が滅びたら、わたし達も到底現在の水準を保つことは出来ないからね。君達と滅びを同じくすることになると思うよ」
光理は眉一つ動かさず、そう言い切った。
「なら、なんで?」
「わたし達の視点から見れば、それは織り込まれた可能性なのさ。その確率は天文学的な数値だったとしても、起こってしまった以上は浮き入れざるえないというのが、わたし達の大部分の結論だよ」
「全会一致じゃないのか」
「あれだよ、上の口と違って、下の口は正直だなって言葉があるだろ。わたし達も似たような機構を備えていないわけじゃないんだ」
「そんな言い回ししなくても、生存本能じゃダメなのか?」
「うーん、その言い方は誤解を招くから避けたんだ。0.000001%が同意しないとか、そういうレベルの話だしね」
「いや、そしたら下の口の比喩も駄目だろ」
「もしかしたら、本当に感じてるかもしれない確率の方の話だったわけさ」
「分かりにくい」
「そんなこと言われても、兄さんたちとこっちじゃ、根本から在り方が違うから、分かりやすくしろってのが無理な話なわけでね」
「どう考えても、無理に下ネタに寄せようとしたのが敗因だろうが」
光理はそのもっとも指摘に表情をいつになく引き締めた。
「このキャラを調整【いじ】るくらいだったら、最初から作り直した方がマシさ」
人間、あまりにもしょうもないことを断言されると、何も言えなくなるのだと、この日、凪はその身で学んだ。
「冗談はさておいて、兄さんは今後どうするつもりなの?」
さておいてくれるらしいので、凪も自分の気持ちを何とか切り替えた。
「言ったよな。千日手は相手がいるから成立するって」
「微小な可能性だよ?」
「あの糞溜めに屈服するより、数倍マシだ」
「それなら、どうぞご自由に」
光理のやる気の感じられない口調に、凪は眉をひそめた。
「止めないのか?」
「最初にそう言っただろ。そっちの役目は、その存在をもって、今回の「選挙」の流れを加速させることだよ。むしろ、兄さんの関与を拒む理由はないんだ」
凪は先ほどまで横たわっていたソファを苛立たしく蹴り上げた。
「ボクが積極的になれば、終結が早まるわけか」
「いちよう言っとくと、兄さんが何もしなかった場合、陣営間の小競り合いによる消耗で、一年以内に勝利の可能性はゼロにまで落ちるかな」
「つまり、選択の余地はないと」
「そんなことはないよ。世界が滅びれば、兄さんの責任を追及する存在もいないんだから、最後の日まで享楽に耽ったって別にかまわないわけでしょ」
「出来るわけないだろ」
「まっ、好きにすればいいさ。とりあえずは、木下四葉を介した皇帝派への食い込みかな。これは兄さんが彼女を手篭めにすれば済む話だから簡単だね」
物理法則を説く様に言われて、凪はそんなものかと思いかけたが、言葉の意味を理解して、思わず咳き込んだ。
「何で、そういうことになるんだ」
「簡単な話だよ。もし兄さんが異なる可能性を望むなら、最低でも現在生き残ってる主だった「感染」者を動員するくらいのことは必要だ。だけど、兄さんにそんな手腕は無いだろ?」
「それはそうだろうな」
「けど、木下四葉は違う。何せ、彼女は腐っても皇帝派の「感染」者だからね。その手のコネクションにはこと欠かないさ。その後ろに、レイ・ウィリアムを易々と屠った兄さんがパトロンよろしく君臨するという寸法だよ」
「そんなめんどくさいことしなくても、皇帝派の本流と話をつければ済む話だろ。停戦を主張してるんだし、通じ合うことがあると思うんだよ」
「無理だね。だって兄さん、ジャップだし」
あまりに力強く断言されて、凪は唖然としてしまった。
「そんなに酷いのか」
日本生まれ日本育ちの彼には、人種という概念でそこまで感情的になりうるという発想がよく理解できないのだ。
「皇帝派そのものは規模が巨大だから、人種差別は少ないよ。それでも、彼らの本拠地である欧州の地域から”肌の汚れた”「候補者」が出たという話は一件ない」
「偶然じゃないんだよな」
「もちろんさ。昔からあそこの評議会は、選民思想の上に被害者意識をデレコレーションして百年単位で発酵させましたとでも言うべき代物で、今となってはかなりの人数が組織からもたらされる利益が無ければ、唾をはきかけてやりたいと思ってるんじゃないかな。そういう意味では、上の方を全員殺すって手もあるね」
「なるべくなら平和的な方法でに行きたいよ。というか、別にボクが何もしなくても、相手の方で勝手に勘ぐるんじゃないか。四葉さんにはレイは倒せないってお前言ってたじゃないか」
「そりゃそうだけど、兄さんだって性欲くらいあるわけだし、別に顔が好みじゃないとかじゃないんだろ?だって昔は──」
「それ以上言ったら、怒るぞ」
「前から思ってたけど、そこら辺のボキャブラリー貧弱だよね、兄さん」
凪は何も言わず周りを見ました。廊下には不自然なほどに人がいなかった。光理が何か細工をしているのかもしれない。
「だけど四葉っていい名前だと思わない?彼女にぴったりの」
クローバーの葉は一般に日光が当たらない場所ほど増える傾向にある。それほどの含意が無いにしても、双葉を単純に倍にしただけにしか聞こえないような名をぴったりと称するのは、凪からするとあまり賛同できなかった。
「自分で選んだ名前とは思えないけどな」
「それは考え方が逆だよ」
あまりにも強く断言されて、凪は怪訝そうな顔をした。
「自分でつけた名前なんて糞みたいなものだよ。まっ、世の中には、人に糞みたいな名前をつける人もいるみたいだけど」
じっとこちらを見つめてくる瞳に、凪は視線を床の方にやった。
「あのときは悪かったよ」
「別に一生許さないからいいけどね。ぶっちゃけたことを言うと、「軍勢」っていうのはかなり安定度の低い力でね。四葉っちもその性質をある程度引きずっているんだ」
「ドッペルゲンガーの都市伝説みたいなことか」
「片方が死ぬというより、ちょっとしたことで分身が混ざり合って消滅しちゃうんだよね。セルフイメージを保てなくて」
「そんなに不確かに見えなかったけどな」
脳裏にあの悪夢のような死体の山のイメージが現れて、凪はそれを振り払うように頭を横に振った。
「実際、四葉っちの「軍勢」はかなり高いレベルでの安定を実現しているね」
「なら問題無いだろ」
「だからね、問題は「軍勢」じゃなくて、木下四葉の精神状態にあるんだよ。彼女の木下双葉への執着はちょっと異常だからね。なにせ、”基本的に記憶を共有”しているだよ。純粋に物理的な手段で」
自分の家に仕掛けられていた盗聴器の類を思い出して、凪は背筋がゾッとした。
「それとボクが四葉さんを手篭めにすることに何の関係があるんだ」
そう言いながら、凪は自分の口の中がカラカラであることを悟らずにはいられなかった。
「それ本気で言ってるんじゃないよね?そっちの方が付き合い長いんだから分かるだろ。双葉さんは本当に毛嫌いしてる人間と食事を一緒に取ったりしないよ」
「それは──」
「別に議論するつもりはないよ。少なくとも木下四葉はそう信じてるってお話さ。兄さんとの関係を保つために、いつでも逃げられると思っていたとはいえ、レイ・ウィリアムの宮廷の中に入ってくる程度にはね」
「とてつもなく卑劣なことを迫られている気がしてならないんだけど」
「わたしは忠告したはずだよ。これがその結果さ。それとも、|今から四葉さんを殺しにいくかい【すべてをなげだすかい】?」
悪魔の顔がいつの間にか■葉の顔に変わっていた。
世界の滅びの日まで家でだらだらとゲームをしている自分の姿が、凪の脳裏に浮かんで、消えた。
ため息が一つ。
それが凪の出した答えだった。