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魔王と幼馴染 ~夕と夜が出会う場所~  作者: 寿歌
第三章 夕と夜が出会う場所
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第三章 夕と夜が出会う場所 1~6

第3章 夕と夜が出会う場所


1、

淀んだ暗闇の只中で、消えたかと思えば再び燈り、輝いたかと思えばまた消えてしまう。

古び黄ばんだ街灯の、明滅する光に照らされて、うらぶれた町の風景は二重三重にも揺らいで見えた。

そんな裏通りの、舗装のはげかかった道を、作業服の男が歩いている。

もとは青一色だった作業服も、ペンキに汚され混沌とした色彩と化していた。

体中に老廃物が沈殿しているような、そんな疲労感を抱えながら彼は足を引きずっていた。

「疲れたな…」

彼の微かな呟きも、沈滞する空気の中に飲み込まれていった。

ここは連邦の首都、エナスの東郊外である。

北方から流れ込んできた、大勢の出稼ぎ労働者が住まっている。

重い古鞄に左肩を傾けながら、とぼとぼと夜道を歩いている彼も、そうした匹夫たちの一人だった。

彼の名前は、ケレンと言う。


壊れかけた看板が風に揺れた物音に、彼はふと振り返る。

誰かに見られている錯覚に、微かな身震いが走った。

…以前、ケレンは奇怪な人影とすれ違ったことがあったのだ。

自分と同じほどの背格好で、装いも良く似ていて、顔つきまでもが自分にそっくりだった。

思わず声をかけたとき、その姿は黄昏の中に消えていた。

蓄積された疲労が、幻を見せたのかもしれない。

だが、彼の同輩たちと話をしているときにも、模糊とした違和感がたびたびあった。

自身は覚えのない時分や場所に、彼が確かにいたと仲間たちは思い込んでいる。ケレンが真顔で否定すると、下らない冗談を言っているとばかりに目配せして笑いあうのである。

(まるで、俺がもう一人いるみたいだ…)

そんな言葉を口にしてしまい、彼は慌てて首を振った。

幼い頃、彼の母親が話してくれた、気味悪い話を思い出していた。

(まさか、ただのお話だよ、お話)

自分に言い聞かせ、彼は歩き出す。それでも、自分そっくりの姿をした何者かが、背後からじっとみつめているという悪寒を、拭い去れなかった。


重い空気の向こう側から、野犬の遠吠えが聞こえてくる。

「飲みに行くか…」

無意識のうちに気持ちを切り替えたかったのだろう、彼はそんなことを思いついた。飲めば稼ぎの多くを費やすことになるが、だからといって数少ない楽しみを諦めることなどできはしない。

通いなれた酒場の、楽しい喧騒を思い浮かべると、先ほどまでの疲れや、奇妙な胸騒ぎも薄らぎ、明日に待ち受けている労苦のことも忘れることができるのだった。

浮かれた足取りで道を歩いていた彼は、ふと立ち止まる。

目の前を人影が歩いていた。彼と同じように、青い作業着はペンキにまみれ、羽織った上着は夜風にゆらめいている。

後ろからしか見えなかった。それでもケレンには、奴が自分に生き写しと見えたのだ。

「あ、あの」

彼は声をかける。

目の前を歩く人影が立ち止まったようだった。

後ろから見える口元が、たしかに笑ったように見え、奴は再び歩き出す。

「待てよ! ちょっと!」

ケレンは思わず叫び、目の前を歩く男を追いかける。前に回りこんで、その顔を見たくてならなかった。

だが、相手は普通に歩いているだけなのに、追いつくことはできない。

悪い夢の中で、決して追いつけないと分かっていながら、何かを追いかけている、そんな奇妙な心地の中にいた。

やがてケレンは男を見失ってしまい、しゃがみこんでため息を尽いた。

ふと振り返ると、背後の石垣に、求めていた人影が立っているではないか。

同じ服を着て、腕組みを着ている男。電灯が逆光となって顔が良く分からない。

無数の蛾が巡り飛びかう街灯のたもとで、その影が伸びては消えた。

闇の中を密やかな笑い声が響く。老人のしわがれ声のようにも、少年の擦れた声のようにも聞こえるのである。

灯りが瞬いた時、眼前の影は闇に溶けるように消えさっていた。

ケレンは呆然とたたずみ、そして物の怪にでも化かされたような気持ちで歩き出すのだった。


おぼつかない足取りで進むケレンは、先ほどまでの妖しい光景に心とらわれていた。

奴の顔を確かめられなかったことが心残りで、前すらよく見ずに歩いていたのである。

だから、行く先で腕組みをして立ちはだかっている屈強な男たちに、警戒心が働かないのも当然だった。

ようやく気づいたのは、ドスの利いた声に「おい」と呼び止められた時である。

「何でしょうか…?」

彼がおずおずと顔を上げた。目の前にいる男たちが、ゆっくりと迫ってくる。彼らの背が、いやに高く見えて、わけも分からずに震えてしまう。

「その訛り…北漠人だな。お前の名前は、ケレンというんじゃないか?」

彼らの口調は下品で粗野ではあったが、まぎれもなくこの土地で生まれ育った者の言葉である。東町は北方出身の労働者が多かったが、川向こうは連邦出身の労働者の居住区となっていた。

北方人たちの中にひどく柄の悪い連中がいるのと同様、連邦人の中にも徒党を組み暴力を振るう者がいないわけではない。目の前にいるのは、まさにその類の連中たちだった。

「そ、そうですけど。いったいなんでしょうか?」

ケレンは後ずさりしようとして、後ろにも別の男が回り込んでいることに気がついた。

一般に、北方人のほうが連邦人よりも、筋骨たくましく粗野だと思われがちである。だが、この状況を見たものは、それが必ずしも真実で無いことを認めることだろう。

仲間内でもひ弱な体つきのケレンは、全身が暴力の塊で出来ているような男たちに囲まれ、惨めに萎縮していた。

彼らの中でも一段と背の高い男が親分らしく、今にも食い殺しそうな勢いで詰問してくる。

「お前、さっき俺のダチを殴ったそうじゃないか。それも、へらへらと笑いながらさぁ。

その落とし前、どう付けてくれる気だ?」

「何のことでしょう…私は、そんなこと…」

震えて首をふるケレンに、別の男が詰め寄る。

「嘘だ! 俺をバカにしたじゃないか。チビ、チビってな。それも、たった数時間前の話だ! 北漠人のくせに、生意気だぞ!」

そうだ、生意気だ! との罵声が、別の男たちからも上がる。

「し、知りません。人違いじゃあ、ないでしょうか…」

震えて間延びのした声が、不運にも相手には挑発と響いてしまった。

「なにぃ! 今更、白を切るのか! やっちまえ!」

子犬のような悲鳴をあげて、ケレンは逃げだした。否、逃げ出そうとした。数歩いったかどうかというところで、たくましい手に捕らえられてしまう。

「何、逃げるんだよ!」

罵声とともに、彼は固い地面に叩きつけられた。彼はがっくりと打ち伏せて、それきり動けなくなってしまう。

男たちは、そんなケレンの両手をひっぱり、道を引きずるように連行していった。

「まだまだ。

北漠人の分際で、俺たちを虚仮にしたらどうなるか、思い知らせてやらなきゃ」

「だが、殺しちまったら…」

「なーに、かまやしねえよ。どうせこいつは北漠人だ。お巡りだって、真面目に調べなんかしないぜ…」

助けを呼ぼうとして、またも殴りつけられる。ケレンの体は荷物か何かのように道を引き面れていた。

(こ、こんなときヴァレンがいれば…)

いつもはそりの合わない兄が、このときだけは来て欲しかった。妖しげな暴力団に属している彼だったら、こんな状況のとき役に立ってくれたかもしれない。

だが、都合の良いことなど起こるはずも無い。引きずられる途中、風に乗って声が聞こえてきた。

酒場で男たちが談笑する騒がしい声。この落書きだらけの壁の向こうに、行きつけの酒場があったことを思い出す。

本当だったら、彼も今頃はあの場所で、仲間たちと騒ぎ会っているはずだったのに…。

ケレンの目は悲しみにくらんでしまい、涙が頬を滴り落ちた。

男たちは、どっとはやし立てる。

「見ろよ、こいつ、子どもみたいに泣いているぜ」

「さすが北漠人。やること為すこと幼稚だな」

「北漠人だからバカなのかな? バカだから北漠人なのかな? キャハハハハ…」

そんなことを口々にわめきながら、一人が手にした棍棒でケレンをどやしつけた。

殴られた頭が響くように痛くて、引き摺られる皮膚が焼けるように熱い。

これは悪夢だ、悪夢に違いないと、苦悶によじれた心は悲鳴を上げた。

むなしい慰めであることは、彼自身が良く分かっていることだった。

絶望に見開かれた彼の瞳が、儚い救いを求めて虚しく彷徨う。

道脇に放置されたドラム缶のそばに、作業服を着た男が立っていた。

ケレンと同じ装い、同じ背格好。

まさしく自分と同じ顔が、彼の破滅を眺めている。彼自身が口元をゆがめ、死地へと連行される彼を笑いながら見送っているのである。

『自分と同じ姿の幻を見るときは、人生の最後』…そんな言い伝えをぼんやりと思い出しながら、視界も意識もどろどろの血に閉ざされていった。




ケレンの遺体が発見されたのは、翌朝のことである。

壁と壁にはさまれた、細い小道に捨てられていた。

兄のヴァランが酔いも吹き飛ぶ思いで駆けつけたときには、すでに黒々とした人だかりが出来ていた。

ほとんどの連中は、顔見知りの北方労働者たちだった。

「かわいそうになぁ…」「真面目な奴だったのに…」

ひそひそとささやきを交わしながら、どうして良いかも分からず遠巻きに眺めていたが、彼の存在を認め、あわてたように道をあけた。

「おい、おい…」

しゃがみこみ、手を取って声をかけたが返事などあるはずもない。人形みたいにピクリともせず、だらりと垂れる手の感触に、ヴァランは背筋の冷える感触を味わうのだった。

殴られすぎた顔は水ぶくれに膨れ、物言わぬ口の端からは僅かな鮮血が滴り落ち、地面を汚していた。

もはや鉛色の空しか映さない瞳には、人生の悲惨な幕引きに味わいつくした断末魔の苦悶、恐怖、絶望、その全てがありありと残っているようで、兄も思わず顔を背けてしまう。

「いったい誰が?」

「決まってるだろ…」

東町に居るのは北方出身者だけではない。昔から連邦にすんでいた、それでいて底辺に暮らしている者たちも多かった。彼らはとりわけ、北方からの人間たちを憎みさげずんでいた。普段から散々に軽蔑されていた彼らは、そのお返しというわけでもなかろうが、自分たちだって誰かを見下したくてたまらないのだろう。

ケレンも、そんな連中の餌食になってしまったのである。

「警察呼ぶか…?」

後ろから、ヴァランの友人が声をかける。

「だけどよ…、サツがまともな捜査してくれるのかよ」

別の友人が、やるせなく言うのだった。

彼は、ひざまずき、しばらく何も答えられなかった。兄弟と言ってもいつも争いごとばかり、幼い日々においてすら、乏しい食べ物を奪い合った記憶ばかりであった。だがそのような弟であったとしても、このような無残な死を見せ付けられたのは流石に衝撃だった。

彼がようやく立ちあがり、何か言おうとした時、別の一団が足音も大きく入ってきた。

ヴァランにとっては仲間たち、妖王教団のメンバーだった。日の照らす今は、彼らも牛馬の仮面など付けていない。

昼間の間は、彼ら団員も他の者と混じって労働していた。恐怖や軽蔑、あるいは羨望や尊敬といった実に様々な視線で眺められながら、しかし大声でそのことを話題にするものなどいない。

野次馬たちも、殺されたケレンの兄が、教団の幹部であったことを改めて思い出したのだった。信徒ではない北漠人は、係わり合いになるのは御免とでも言いたげに、後ろへと引いていく。先ほどまで声をかけてくれた友人も、逃げるように路地の向こうへと去っていった。

そんな彼らを尻目に、団員たちはヴァランの周りに集まる。

「兄貴…今回のこと、お察しします。弟さんがこんなことになっちまって…」

一人が頭を下げながらささやく。

「このようなときに言いにくいですが…、アジャハ様(妖王の部下の一人。教団の上級幹部)が今回のことであなたをお招きです。何でも、弟さんの葬儀のことで」

葬儀、それを聞いてヴァランは肩を震わす。考えてみれば、まともな葬儀をしてやるにあたっても、彼の厳しいふところではままならぬことだった。

「葬儀を、団の方でやってくれるのか?」

彼は思わず問い返してしまった。先ほど死んだばかりの亡骸を前に早くもそんな話を、と思わないでもなかったが、やはり費用のことは切実な問題だった。

「はい、恐れ多くもおやかたさま自らのご意向だそうです。

それと、なきがらをいつまでもここに放っておくわけには行かないです。取り敢えず、団の拠点に運びましょうか」

彼らは穴だらけの地面に御座を引き、その上になきがらを乗せた。今までなきがらのあったところは、薄茶色の粘っこい血がべったりと広がっていた。

彼らは自分たちの手や服が、血で汚れるのに顔をしかめながら、それでもケレンの体を麻袋で包み、4人がかりで持ち上げる。

曇天の空の下、落ち葉の流れる大気の中を、彼らの行列は進んでいった。

生まれ育った故郷の風習に従って、大声を上げて死者を痛む。

乱雑に立ち並ぶみすぼらしい建物群のはざまで、その叫びは空気を震わし、住民たちは何事かと顔を出す。彼らはそっと、行列の行方を見守るのだった。



2、


後の史書は、この日が始まりだったと伝えている。

この日までは一介の犯罪者に過ぎなかったセーニス=ディンケル…妖王3世が、幸薄き群衆の間に、呪うべき権力を振るい始めるようになった。

彼が世界に撒き散らした数々の災厄、その幕開けとなる出来事だったのである。


東町のスラム街、北方出身者の数多く住む地域で、住民たちは憂鬱な日常を過ごしていた。

太陽が西に傾き、黄昏が忍び寄った時分、薄い影の向こうから葬儀の列が姿を現した。

大きな棺を、無貌の仮面を被った男達が十人ほどで運んでいた。

周りにはもっと大勢の男達がつき従う。

東町の狭い道を、ゆっくりと行進した。彼らが口々にとなえる鎮魂の呪文が、黄昏の町に憂鬱に響いていた。


道行く人々は、目を寄せ、口を寄せて囁きあう。

「おい、あれ…」「もしかして…」「いや、偽者なんじゃね?」「でも…」

みなが不安そうに囁きあう。葬列の周囲には薄い霧が渦を巻き、その中心に尋常でない姿があった。

彼にまつわる漠然とした噂は、口から口へと伝わっていくうちに誇張されていき、伝説の光彩すら帯びるようになっていた。人々の心の裡にある妖王の姿は、いつしか摩訶不思議な影をまとうようになっていたのかもしれない。

その当人が今、現実の姿となって目の前に現れているのである。

灰色のジャケットを風になびかせ、容貌はフードの陰に隠されていた。

彼の足取りは悠然としたもので、背筋に恐怖とも畏敬ともつかぬ感情に、見るもの全てが痺れたように身をこわばらせていた。

いつか、列を追い始めるものが現れた。はじめは一人二人。だが列が膨らむにつれ、加速度的に加わるものが増えていく。

倦み果てた日常からの脱出口があるかのように、恍惚とした顔つきで妖王の姿を追いかけた。

その先に、何が待つかも知らなかった。

現実に倦み疲れた彼らを、未知なるものへの期待がいざなったのか。

暗さがいやます空の下、鎮魂の呪歌が響く中を、妖王はゆっくりと進んでいく。

多くの人影が、彼の姿を慕っていった。

目的地が近づいてきたときは、追随者の群れは群衆とよんでも良いほどに膨れ上がっていたのだった。




いびつな木々が身を寄せ合う雑木林。

その向こう側に、巨大な広場があった。かつて、公園であった場所。しかし、スラム街の只中にあって、いまはならず者や不浪人と巣窟と化していた。

その場所にあって、今夜はいくつもの大きな篝火が、赤い舌をちりちりと、暗い天に向かって伸ばしている。

パチパチと炎が爆ぜるとき、火の粉の群れが闇を飛び交い、宙を舞いつつゆっくりと消えていくのだった。

大勢の人間が、広場の中にうごめいていた。彼らはどよめきざわめき、彼らをここまで連れてきた妖王の姿を求める。

と、広間の中心に新しい明かりが灯った。

篝火の赤く勢いのある炎とは全く違い、青白く、瞳を突き刺すような、それでいて冷めた光。

光の下には、フードを被った男が立っていた。

その者が、不幸な世を騒がす北漠の魔王、ラグナス3世であると皆が気ついたとき、ざわめきは納まり、弦を伸ばしきるような緊張が空気を満たす。

妖王はゆっくりと進んでいった。

群衆があわてて道をあける。潮が引いていくさまにも見えた。


広場の中心に、ひときわ高い祭壇が築かれていた。白い布をまとった遺体が横たえられて、黒々とした衣の妖王が、静かに見下ろしていた。

「この男のことを、君たちは知っているかな?」

妖王は祭壇を囲むように集まった群衆を振り返り、穏やかな声で語り始めた。

「彼は、君たちと同じ境遇だった。

貧しい北方からやってきて、ささやかな暮らしを夢見て、勤勉に働いてきたまじめな青年だった。まずは君たちの友、君たちと同じく貧しさにあえぎ続けたケレン君について語らせていただこう」

そして、妖王は祭壇の直ぐそばに控えていた男に声を掛ける。

「ヴァラン君は、彼の兄であったね」

「は…、はい」

「弟を、愛していたかい?」

思わぬ言葉に、ヴァランはうろたえ、広場に集まった者たちも怪訝そうにささやきを交わす。

妖の王はフードの下、ゆっくりと言葉を吐き、

「君はまだ知らない。ケレンがどれほど、兄である君を愛してきたか。

私が代わっておしえることにしよう…」

そう言って、彼は懐から通帳を取り出した。

「これが、何か分かる?」

「それは…」

「そう、銀行の通帳だ。今ここに横たわる彼が、君のために蓄えたものなのだ」

妖の王の声は、ヴァランに話しかけているものだったのに、広場全体に、それよりも遠く響き渡る。

「まさか…」

ヴァランは声を呑んだ。妖王の低い声が響く。

「ケレンは、確かに君と折り合いが悪かったかもしれない。だが胸の奥では、君を心から案じていた。その真情が、この通帳に込められているのだ。

1月には3万、2月には4万、3月には5万…彼の報酬を考えると、実に重い支出だ。だが、彼はそれを厭わなかった。兄を思う心ゆえ、兄弟の愛ゆえだ。分かるかな?」

「あいつが…あいつが」

顔を真っ青にするヴァランに、妖王はふっと息をつく。

「ケレンもまた、君たちと変わらない。

君たちだって、忘れられない肉親の情というものがあるだろう。

ケレン君もまた、我々と同じ。 

思いやり、やさしさ…暖かい心を持った一人の人間だったのだ。

だが、連邦人たちは、この暖かさを欠片も持ち合わせていないのか。

彼らは、ケレンを無残に殺した。

つまらない憂さ晴らしのために、彼は死ななくてはならなかった。やりきれない、やりきれないことだ」

妖王の語気はわずかに強く、揺らいだようにも聞こえるのである。

「だがこれは、ケレン君に限ったことではない。

これまでも、連邦人たちは我々を散々に苛めさいなんできた。

君たちの中にも、知っているものがいるだろう。缶詰工場で起きた悲劇だ。連邦人の雇い主が、我々の一人を何日も殴り続け、挙句の果てに殺してしまった。

殺された男の友人が、決死の思いで警察に訴えた。だが警察は雇い主を罰するどころか、なんとあべこべに友情厚いその男のほうが罰せられる羽目になったのだ。

正義と秩序を守ると自称する連邦が、なぜこのようなことをするのだ? 私にはどうしても分からない。分かるものがいれば、どうか私に教えてほしい。


それだけではない、これも我々北方人の話だ。

夫を事故で失い、幼い子どもを抱えた母親があった。子どもたちは幼くて、一番下はまだ乳飲み子だった。どうしても子どもたちを飢え死にさせたくなくて、母親は恥をしのんで福祉局に救いを求めた。

だが、連邦の鬼役人どもは、彼女の涙をせせ笑い、あざ笑ったのだ。

誰からも見捨てられた母子は、日に日にやせ細っていった。(どうかその光景を想像してくれ!)乳をねだるこの声さえ、だんだんとか細くなっていったのだ。

ある寒い冬の日、薄暗い部屋の真中で、母親は最期まで出ない乳を子どもに含ませながら、息絶えた。子どもは死んだ母親の乳房にすがりついたまま、冷たい骸となっていた。

これを悲惨と言わずして、いったい何と言うのだろう!

その一方で、正義と秩序を守る連邦の役人どもは何をしていた? 公金を使って宴会に酔いしれていたのだ!」

北方人たちは、いつしか目を見開いていた。

と言うのも、事実を語り続ける妖王の頭上に、光の粒子が集合し、おぼろげな光景を織り成していたのだ。

工員を殴り続ける雇い主の、残酷な笑み。殴られる男の、苦悶の表情。

子どもを抱えながら土下座する若い母親、彼女をせせら笑う小役人たち。

そして、薄暗い部屋の中でやせさばらえた母子の遺体と、ドンちゃん騒ぎを楽しむ役人たちの軽薄な有様が、恐ろしいまでの対比となって虚空に浮かび上がるのである。

魔術が作り出した映像だったのか。それとも妖王の囁くような言葉が、集団幻覚を生み出したのか。

闇の空に浮かび上がるイメージは、人々の網膜をつきぬけ、心の奥底まで突き刺さっていくようだった。

「これだけで、もう十分だろう? だが、まだあるのだ。

去年の暮れの話だ。我々北方人の、いたいけな少女が車に踏み潰された。愚かな連邦人の、人の命をなんとも思わない殺人ドライバーによってだ。

運転手は逮捕された、だが裁判で執行猶予などとふざけた刑がくだされ、彼は釈放された。人の命を奪ったと言うのに、彼は人生の一部すら奪われることは無い。ひどすぎる話じゃないか。

しかも、嘆き悲しむ少女の両親に、男は銭一文の償いさえ果たさなかった。

この世の正義は、いったいどこに行ってしまったのか!


…これくらいでやめておこう。これ以上続けてしまっては、君たちの心は怒りで張り裂けてしまう」

すでに手遅れだった。

次から次へと挙げられていく連邦の非法に、怒りのざわめきがあがり始めていたのだ。妖王は群衆を一望し、彼らの瞳がギラギラと輝きだしているのを見て取り、さらに口を開いた。

「我々北方人は、生来のお人よしだ。土に額づいて働き、利益を上げるにしても、一つ一つ積み上げる遣り方しか知らない。

だが、連邦の奴らは違う。人のものをあつかましく自分のものと主張して、恥じることは決してない。

この恥知らずこそ、彼らの文化。生まれついての習性。

彼らは歴史のはじめから、自分では何も生み出してこなかった。

サムライ蟻が略奪しか知らないように、連邦人という種族にとって、奪うことこそ本能なのだ。

次に彼らの犠牲となるのは、いったい誰なのだろう。バカで無ければ、誰でもわかること」

そして、妖王はここで疲れたように声を落とした。

「君たちの心を悪戯に煽りたくはない。

それでも、私は語らずにはいられない。口下手で愚かな私だが、それでも言わない訳にはいかない。

私が話していることは、揺るがしようも無い事実だから。

ケレンの哀しい運命は、いつ君たちに降りかかっておかしくない。

…実は、この魂は無念を抱えている。

その思いは未だ、彼の亡骸にまとわりついている。

君たちにも、見せていいだろうか」

はやくみせろ、そうした声が、群衆の中から巻き起こる。

「…そう思うのか? だが、私は未だに迷っている。

これを見せてしまえば、君たちの心は怒りで狂ってしまうかもしれない。

ケレン君は必死になって働き、連邦の連中に吸い取られ、挙句の果てに、殺された。

何も彼だけではない、我々北方の民は、この土地にきて、毎日毎日奴隷のように働かされている。

ろくな休日も与えられない。寝る間さえろくに無い。その苦労に見合うだけの報酬も無い。

故郷の飢えた両親に仕送りもできない。妻を向かえるゆとりもない。

その怒りを、君たちはきっと思い出してしまうだろう」

群衆はじらされて、却ってどうしようもなく妖王の隠す何かを見たくなった様子であった。

「見せろ! 見せろ!」の大合唱が湧き上がる。

「そうか、どうしてもみたい、と言うのだな? ならば、仕方が無い」

妖王はゆっくりと右手を暗黒の虚空へと掲げる。

暗闇の中、わずかな光が生まれ、それがはっきりとした映像になるのにそれほどの時間はかからなかった。

先ほどの幻などよりも、はるかに明晰な映像だった。

衣服が破れ、傷だらけになったケレンが、地面に横たわっている。その周りを、連邦出身の男たちが取り囲んでいた。彼らはのたうちまわるケレンをあざけりながら、次々に彼を足蹴にしていた。

『おら、死ね! 北方の豚!』

『何もできないのか? この意気地なし、キャハハハ!』

「や、やめろ!!」

そう叫んだのは、むごたらしい光景を呆然と見つめていたヴァランだった。

「こ、こんなものを見せて何になるんだ…」

目の前に立つ男の黒衣に、すがるが如くしがみつこうとした。しかし、妖王に触れることを指が恐れたのだろうか、彼の両手は衣をすり抜け、がっくりと地べたにつくのだった。

妖王は彼の頭をやさしくさすりながら、

「もし、これが私の作り出した幻というのなら、いくらでも私を恨むが良い。

だけどこれは、本当にあったことなんだよ。どう目をそむけようとも、事実を消し去ることは、できないんだ。

…この私につかみかかることに、何の意味も無い。分かるだろう?」

妖王の声が低く響き、その間もおぞましい光景は続いていく。

身動きひとつしなくなったケレンの亡骸に、男の一人が唾を吐きかける。

すると別の男が

『やめとけ、やめとけ。そんな奴に。唾液がもったいない』

一同はどっと笑い、意気揚々と去っていった。

妖王の声が響く。

「彼らは、我々を無残に殺す。亡骸を前にして、唾吐きかける価値すらないとあざ笑う。

なぜ、それほどまでに我々を見下せる? 彼らはいったい何様なのだ…」

虚空の映像は消えていき、何人かの男はもはや気でも狂ったかのように身を震わせている。

「泣いているのか、震えているか?

それも当然。心あるものならば、仲間がむざむざ殺されて、平気でいられるはずがない。君たちの怒りは、正義心の発露である! そして、君たちの涙は、愛の心なのだ!」

妖王の断言が、高々と闇の虚空に響き渡った。

彼は横たえられた亡骸へと向かう。すこしずつ、体に覆われた衣を取り外し始める。

「見るがよい、この傷だらけの体を。

幾度も大地に叩きつけられ、できた傷だ。我々も痛めつけられてきたのだ。土足で踏みにじられたのだ。

あぁ! こんなところまで…。

最早、どれが致命傷か分からない。

いったい幾度、殴られた? いったい幾度…」

妖の王は祭壇の上に両手をつき、がっくりとうなだれ、小さなうめき声を上げていた。驚くべきことに、妖王の漆黒のフードの下からは、幾粒かの水滴がきらきらと輝きながら亡骸の上へと落ちていったのだ。その涙を見て、群衆は今にも詰まってしまいそうなため息を漏らすのだった。

「分からない…。

我々はみな、あまりに蹴られ殴られ罵られ。

その回数すらも、すでに覚えてないのではないか?

いつか、我々は殴られ続ける運命から、解放される日が来るのだろうか。

それは遠い目標、だが目指し続けなければいけない目標だ。

我々が誰からも殴られることもなく、罵られることのない日がくるために、罵るやつ等と戦っていくしかないのだ!

無残に殺されてしまった、ここまで痛めつけられてしまった、われらがケレン君のためにも!」

そう言って、妖王は死体を覆う衣をすっかりとはずしてしまう。

茶色く乾いた血にまみれた姿、それがいまや白い光にはっきりと照らされていた。

広場を覆う闇の中で、ただそこだけが光に包まれて、誰もがむごたらしい有様を見ずにはいられなかった。

『許せねえ!』『連邦人めぇ!!』『八つ裂きにしてやりたい!!』

群衆の中で、とうとう声が爆発した。それは人の叫びというよりも、夜空に向かう獣の咆哮だった。

誘われるように、群衆のあちこちから怒りが湧き上がる。

「なにをしているんだ!」

突如、場違いな声が響いた。

公園の入り口に、警官隊が立っていた。

見渡す限りの群衆を目の前にして、彼らも気おされたようである。それでも勇気を奮い起こし、大またに広場の中心に進んでいく。

群衆は沈黙していた。隊長は、静けさの背後にあるものなどに、気づいていない様子だった。

「いったい、なんだというのだ。こんな夜更けに。ちゃんと集会の許可は得ているんだろうな?」

いかにも尊大な態度で問いかけるのだが、頑固な沈黙だけが返事であった。

もし隊長が敏感な心の持ち主であったなら、四方八方から降り注ぐ視線の、刃のような鋭さに、震え上がらずにはいられなかったことだろう。

だが、彼は鈍い男だった。

「おい、どうした、早く解散しないと逮捕するぞ!」

何も気付かず、考えもなく叫んでしまう。

「私が、許可したのだよ」

警官たちが振り返ると、そこには黒いフードを被った男が立っている。頭上にある青白い光に照らされて、衣がひらひらと舞っていた。

「お、お前は!」

そう叫んだとき、フードの下に赤い光が輝き、警官たちは身をすくませた。体の力が抜け、へなへなとその場にヘ垂れ込む。

「これが、連邦の警察だ。

我々の仲間が殺されても、少しも取り締まろうとはしない。

それなのに、我々のささやかな葬儀すら妨害する。

この連邦がケレンを殺したのだ…。この連邦が我々を殺すのだ…」

妖王はつぶやき、ゆっくりと身を引いていく。

「やっちまえぇ!」

と叫び声が沸きあがった。

獣のように目を見開いた誰かが、脱力している警官たちに襲い掛かった。後から何人もの男たちが続き、たちまちに大勢の人間が殺到していく。哀れな警吏達は荒ぶる群衆の渦に飲み込まれ、その姿が見えなくなる。

怒号が響き、いくつかの断末魔と、そして大勢の歓声が上がったとき、妖王の姿はすでに木陰の向こうへ消えようとしていた。

オズルとアジャハだけが妖王の後を追う。

「あ、あわわ…。あれでよろしいのですか?」

アジャハは真っ青になって、妖の王に問いかけるのだった。彼は答えず、代わりにオズルが

「お主が行って、彼らに暴動など起こすな、といってやればよい」

と言い放つ。

「ぼ、暴動…。この状況ではありうる!」

一人合点したアジャハは、再び広場へと乗り込み、

「み、皆のもの。やめろ、これでは暴動になるぞ!」

声をからして呼びかける。

「おう、そうだ暴動か! その手があったなあ!!」

「暴動上等! これから町に乗り出すぞ! 復讐だ!」

「連邦などぶっ潰してやるぜ!」

「まずは交番、役所! そして俺たちをこき使う工場! 全部を消し炭にしてやる!」

「おい、誰か武器になるものもってこい! 火をつける道具も忘れるな!」

「やめろ、やめろというに…」

族長の一人であるはずの、アジャハの声は、かき消されるばかりだった。


そんな状況を尻目に、妖王とオズル族長は足早く公園を去っていく。

みすぼらしい家々にはさまれた小道を、無言で歩いていく背後からも暴徒の雄たけびが聞こえてきた。

妖王、すなわちセーンはゆっくりとフードをはずす。

疲れたように息をつく彼に、

「見事でしたな」

ねぎらいの声をオズルはかけた。少年の薄い唇が、一瞬だけほころんだように見えた。だが、次の瞬間、彼は怪訝そうに振り向いた。

「何のことだ…?」

と問いかえす。

「全く、世の中なにがおこるか分からないね。私はただ、あの哀れな男の死を悼もうとしただけなのに。それが、あんな騒ぎになってしまって。全く、大変なことをしでかしてくれたものだ」

少年は憂いの表情をうかべ、吐き出すようにため息をつく。どこか芝居がかった仕草である。

「この機会を生かせばよいのですよ。

これで東町全体が大暴動となれば、そこにあなたが付け入る隙が生まれる。そうは思いませんか?」

「…君もワルだなぁ」

「いえいえ」

妖王様には敵いません、と言いたげな上目遣いが、オズルの眼鏡の下でにやついていた。

二人は声に出さず、目だけで陰険な笑みを交し合うのだった。

彼らは、公園からすこしはなれた、高台の階段を上がっていく。石造りの土手、その上からは東町を見下ろすことができた。

高いところに上がったためだろうか、少し夜風が強くなった様子だった。

叫び声やわめき声が途切れ度切れに聞こえてくる。鼓膜を不快に突き刺すサイレンの音も、暗い風に運ばれてくるのである。

「綺麗だ」

そういったのはセーンだった。

町を覆う暗闇、それを突き破るように、紅蓮の光が輝いていた。炎の周りは光に照らされ、燃え落ちる建物の輪郭まで見て取ることができる。

だが、その勢いは未だ弱く、炎の数もまだまだ少ない。

もっともっと、広がればよいのに。あらゆるものを、焼き尽くしてくれれば良いのに。

少年はこぶしを握り締めながら、物足りなく思うのだった。

「一度起きた炎は、新たな炎をうみだすものです。そして、どこまでも広がっていくのです」

オズルが呟く。

「陳腐な喩えだな…」

「陳腐なのは、それは誰でも分かる真実だからですよ。けれど、本当の意味で理解している人は、案外に少ないのかもしれません」

そのとき、遠くで轟音が響いた。爆竹のはじける音に似ていた。

町の一角で新たな炎が湧き上がり、闇を引き裂くように赤い閃光を広げていく。

「お前は、行くがよい。私はしばらくこの光景を眺めている」

「御意…」

オズルはかしこまり、退いていった。

一人残されて、セーンはフードをはずす。折から吹いてきた夜風に耳まで伸ばした髪が揺られた。

また、闇の一角を炎が引き裂いた。彼は冴え冴えと白い歯をむき出しにして、哄笑を上げていた。

闇深い森に蠢く夜鳥の呼び声、あるいは年老いた女のむせび泣きにも聞こえる響きは、暗い天空へとたち上っていくのだろう。

夜の空気に髪をたなびかせ、瞳を真紅に輝かせ、狂ったように笑う少年の姿。

もし誰かが見たとしたら、冥府から亡者がさまよい出たのかと怖気を奮ったに違いない。

彼の姿に気付くものは、しかし、今は誰もいないのであった。



3、


男達の血走った眼球……炎上する車……飛び散るガラスの破片……闇に明滅するパトカーの警告灯……

恐ろしい光景が、回り灯籠のように現れては消えていった。

無限の地平の向こうから、怒れる者どもの群れが際限なく溢れ出してくる。

皆が拳を振り上げ、何かを叫びながら、大河の流れのように巨大な行進となって歩いていく。

彼らの背後には、無明の闇がどこまでも広がっていた。

闇の奥底に笑い声が木霊して、一つの人影が見え隠れしていた。

フードを被り、双眸を真紅に輝かせ、いつまでも哄笑をあげていた…。


オーレル導師は瞑想から醒め、ゆっくりと目を開いた。自分の今いる場所が、協会本部の顧問官室であることを確認して、一息ついた。

水を飲み干し、物思いに沈みながら小さな地球儀を両手でまわした。

こうやって遊ぶのは彼の癖なのだが、他の誰も知らないことだった。

扉がノックされたとき、彼は地球儀を置き、「どうぞ」と声を掛ける。

ドアをあけ入ってきたのは、ゼスタ総理事長であった。

「これは理事長。呼びつけてくださればよかったのに」

オーレルは立ち上がり、会釈をした。

「いや、会議室の近くだったものでな。オーレル顧問官、知っておるか」

緊張で声が上ずっている。

「東町での暴動のことですかな?」

「まずは、そうだ。今までとは比べ物にならん規模だ。

相当の被害が出ている…」

「起こるべくして、起こったことでしょう」

オーレルは相変わらず冷静である。

「とりあえず、おかけください。

治安権限を協会に移行させる法案は通りましたが、施行まではまだまだ日数があります。それまでは軍と警察の責任です」

「それは、そうなのだが…」

ゼスタは顧問官に口を寄せ、

「あのディンケル(妖王Ⅲ世、セーンのこと。本名:セーニス=ディンケル)が大地の裏側を抜け出したらしい。族長たちと仲違いしたようだ」

「それで?」

顧問官は先を促す。

「どうも、私には偶然とは思えんのだよ。今回の暴動では、妖王の信徒たちが加わっていたとの目撃証言も入っておる。暴動の少し前には、黒いフードを被った彼の姿が東町で確認されているのだ…。

もしかしたら、これはディンケルが裏で糸を引いているのではなかろうか。どうも…」

「あの幼い少年が、ですか?」

オーレルは薄く笑う。

「確かに彼は強い霊力の持ち主ですが、それほど大勢の人間を妖術で操ることなど出来ないでしょう。私にとっても不可能なことです。東町の不安定な現状を考えれば、今回のことは不思議ではありません」

「しかし、ディンケルは日々危険な存在になりつつある。早めに手をうたんと…」

「あの少年が、怖いのですか?」

ゼスタは言葉に詰まったようだった。

「いずれは、彼を討たなくてはならないでしょう。

ですが、まだ早い。もし彼が、暴動をそそのかしているとしましょう。

あなたにとって、それは都合の悪いことですか?」

「いや、必ずしもそうではないな…。

軍部や警察に恥をかかせるにはむしろディンケル君に暗躍してもらったほうが良い。

東町での暴動を完全に鎮圧するのは、困難だろうからな…」

「ものは、考えようですよ。

彼らが苦戦している間に、我らは施行の日に備えてしっかりと対策を練っておけばよいのです」

「それも、そうか…。実は、マーベル導師(治安部の副部長)にも同じことを言われたのだ。だが…」

総理事長はなおもためらっているようである。

オーレルは、何か思いついたように手を打ちならし

「では、私は彼に会ってみることにしましょう」

「何のためにだ?」

「安心させるためです。『君を害するつもりはない。私は、自分の野望のために君を利用したいのだ』と」

「おいおい」

「むろん、ディンケルを騙すための方便です。そして、彼を私に懐かせてみせましょう。そうすれば、いざという時、いかようにもできます」

「なるほど。君は悪知恵が働くなあ…」

ゼスタは呆れた様子である。

「誠実に値する相手に対しては、いくらでも誠実になりましょう。それだけの価値が無いものに対しては、誠実など必要の無いことです」

オーレルは相手をじっと見据えながら、非情な言葉を口にするのだった。

総理事長はともかく納得し、部屋を去ろうとした。

去り際、顧問官室の質素な部屋を振り返り、一つのものを目に留めた。

机に置かれた、古びた時計だった。

以前も見かけて、どこかで見たようなと首をひねった記憶がある。

「以前、あなたが送ってくださったものですよ」

「私が…」

ゼスタは首をひねる。そういえば、そんな記憶がかすかに残っていた。

「はい、もはや40年以上前のことでしょうかな。まだ苦学生だった私に、あなたが送ってくださったものです。

幾度と無く壊れてしまいましたが、捨てるに捨てられなくて」

少ししんみりとした口調でつぶやくのである。

「そんな昔のものを?」

ゼスタの方もオーレルから贈り物をもらったことは幾度かあるが、それらをどうしたのかさえ覚えていない。

「あなたは、私が貧乏学生だったころに、最初に友達になってくれた方の一人ですからな。

…といっても、修理を繰り替えましたから、中身はほとんど別物ですがね」

何という変人、とは思う。同時に、感動を覚えずにはいられなかった。

オーレルは、何を考えているかうかがい知れない男ではある。一方で、昔から恩を忘れないところもあって、それが彼の魅力なのだと、ゼスタは改めて思うのである。

以前、『いざとなればオーレルに責任を擦り付ければよい』と言ったことを、流石に後ろめたくも感じてしまうのだった。



4、

レーナにとっては、うんざりする日々が続いていた。

彼女は、地下室に捨て置かれていた。

地下と行っても、あの『大地の裏側』ではない。おそらくはエナス市の何処かにある、地上からわずかに下っただけの地下室であろう。

地底と同じように、バスルームと手洗い、洗面所だけが備え付けられた部屋である。

部屋の外には空ろな顔をした者たちがうろうろとしていた。彼らは男も女も居たが、喜怒哀楽のすべてがぽっかりと抜け落ちたような顔つきで、人形のたぐいにも見える。

ただ、時間が来るたび、彼らは無言で食事と水をあてがってくれはした。

(いっそ、逃げ出しちゃおうか…)

そんなことも思うのだが、地上への階段のところには、何らかの力で結界が張られているようである。

その先を望もうとしても、視界は靄におおわれたように何も見えなくなる。向こう側の物音も、彼方から聞こえる山彦のように曖昧模糊とした響きにしか聞こえない。


彼が訪れるのは一月に一度や二度に過ぎなかった。それも何か心配事でもあるのか、少し話を交わしただけで、慌てて出て行ってしまうのである。

(別に、あんなやつの顔なんて、長くは見ていたくも無いんだけどね…)

そう思いこもうとしながらも、見捨てられたような侘しさが、隙間風のように胸のうちに入り込んでくるのだった。

寝台に腰掛けながら、母親から教わった子守唄を口ずさんでいた。

「さびしそうじゃな」

「別にさびしくなんて……!」

振り返れば、そこにいたのは妖王でもなく、彼の下僕たちでもない。腰をかがめ、黒いマントを深々と羽織ったジェダ婆さんであった。

どうして、と尋ねようにも、驚きのあまり言葉も出ない。

「そこまで驚くことも無いじゃろう。あたしはこの街の地下の道を全て知ってるのでな」

そう言いながら、婆さんは断りも無く、レーナの寝台に腰掛けるのである。

薄暗い部屋の中で、老婆の姿だけが妖しい色彩に浮かび上がっているようである。

どうして、この老婆は結界の中に入ってくることができるのだろう。

不思議なことであるはずだったが、今のレーナにはそれほど奇怪にも思われない。夢の中の出来事であれば、どんな不条理な出来事でも受け入れられてしまうよな、曖昧な心地だった。

「何しにきたの?」

「いやいや、近頃は退屈でな。お嬢さんとお話をしにきたのじゃよ。こんなオババと話すのはいやかね?」

「別にいいけど…」

何ヶ月も話し相手も無くて、うんざりしていたところだった。気がつけば、自分ひとりで会話をしていて、我ながら精神のありようを案じていたほどなのである。

老婆はたわいも無い話ばかりをしていた。それは地下の生活の愚痴がほとんどだった。

レーナはわずらわしく思いながらも、いつしか自分自身の鬱憤を口にしていた。

「数えてみたら、も五ヶ月も放っておかれているのよ。信じられないでしょ?

いったい、私のことをどう思っているんだか…」

「お嬢さんは、彼のことをどう思っているのかい?」

婆さんは顔を上げた。老いてくぼんだ眼窩に、瞳はほとんど見えない。それでも、レーナは見据えられていることが分かるのである。

「どうって、むかつくだけよ。

自分勝手で残酷で、どうしようもない奴。全く、人ってあそこまで変われる者なのかしらね?

でも…でも、なんでだろう。時々、あいつが昔に戻るように見えるんだよ。

そういうときのセーンは、昔みたいにとても優しそうな笑みを浮べていて、懐かしくて…」

レーナは感傷に浸っている自分に気づいて、あわてて首を振った。

「でも、わかんないよね。私の思い込みかもしれないし、あいつの狡賢い演技かもしれない。ジェダさんはどう思います?」

無駄だろうとは思いながら、ついつい聞いてしまうのだった。この不可思議な老婆であれば、あるいは何かが分かるかもしれない。

「さてのう? 

人は変わりゆくものじゃ。絶え間なく変質を続け、一秒たりとも同じ存在であることはない。

昨日の彼は、今日の彼とは違う。明日の彼は、今日の彼とは違うじゃろう…。それが、当たり前のことなんだよ…」

うつむきがちな表情で、陰鬱な言葉をつむいでいた。

老婆はふと顔を上げ、レーナを見据えるのである。

「お嬢ちゃんとて同じことだ。

お嬢ちゃんは、果たしてそんなに変わっていないのかね? 昔の嬢ちゃんと、今の嬢ちゃんは、同じなのかい?」

落ち窪んだ眼窩はいまや見開いて、瞳がわずかにのぞいていた。

黄ばみ濁った眼球は、恐ろしいまでに力強くて、天空から地上を凝視する鷹の目のように見えてしまう。

心の中の薄暗い秘密まで射抜かれそうな錯覚に、レーナの息はとまりそうになる。

「どうして、そんなこと聞くんですか?」

レーナの声も、彼女の細い手も震えていた。

「…そんなこと言われたって。…え?」

かすんだ視界に瞳をぬぐって、ようやく自分が泣いていることに気がついた。

(どうしたっていうの、私は?)

「つらいのだろうな…」

老婆はしわくちゃの顔を微かにゆがめた。優しい微笑を、浮べたようだった。

レーナの隣に腰をかけていた。左手で少女の頭をなで、右手でそっと涙をぬぐうのである。

「お嬢ちゃんを責めているわけじゃない。

誰だって、変わらなくては生きていけないのじゃよ。それは、とてもつらいことじゃ。

だが、つらいのは彼とて同じことなんじゃよ。

彼とお嬢ちゃんは、あたしから見れば良く良く似ておる」

「私が、あいつと?」

「そうとも。

自分が変わり果てたにも係わらず、相手には変わらぬ姿を求めてしまう。

それが、儚い幻と分かっていながら…。

お嬢ちゃんが、彼に昔のセーンをさがし求めているように、彼もまた、お嬢ちゃんの中に、昔の幼馴染をもとめておる。皮肉じゃ、皮肉なことじゃ…」

老婆はほっほっほ、としわがれた笑い声をもらすのである。

「あいつが、私に? そんなことってあるんですか?」

「あるとも。だが、もうこの話はやめようか。お嬢ちゃんは疲れておる。

今はゆっくりとやすむことじゃ。明日に備えて…」

いつのまにか、寝台に腰掛けるレーナは眠くなっていった。

老婆はそばに寄添い、レーナの頭をなでてくれているようだった。

干からびた手であるというのにどういう訳か不快ではなく、むしろ暖かくつつみこまれるような眠りへと少女はいざなわれていった。



5、

「誰か、来てたの?」

翌日、セーンが地下室を訪れた。少女は眠たいまぶたをこすりながら、

「いきなり何? 知らないよ」

と寝起きの不機嫌さで答えるだけだった。

「そんなことはないだろう。誰かがやってきた気配がする。これは、男か…?」

たまに訪れたかと思えば、何を言っているのだろうと首をかしげながら、

「男じゃないよ。ジャダ婆さんだって」

言ってから、自分の発言はまずかったかと思う。

「ジェダ婆さん? なんで彼女がこんなところに?」

「さあ、私の夢なんじゃない?」

レーナは首をかしげていた。今になって思い返せば、うつつとも思えない。優しく愛撫された感触は残っているのだから、不思議なことであった。

セーンはしばらく目を瞑り、考え込んでいるようだった。何に思い至ったのか、はっと目を見開く。

「この気配は? いや…」

「どうしたのよ? そんなに青い顔して。あ、もとからか」

少女の冷やかしなど耳にも入らない様子で、

「何かされなかった? 恐ろしいことは無かった?」

と少年は詰め寄ってくる。

「どうしたのよ、いったい。だからきっと夢だって…」

「その様子じゃ、何も無しか…。だが、いったいどうして」

セーンは幾度も首をかしげていた。


「はー。久しぶりのお外だよ」

晩秋の青空が広がり、冷たい風が心地よくてならなかった。

「5ヶ月ぶりよ、5ヶ月ぶり。よく、自分でも耐えられたと思うよ」

皮肉交じりの言葉に、少年は微かに肩を動かしながら、

「悪いな。でも、少しは状況がよくなったんだよ」

彼は不機嫌そうに、というよりは心配そうに眉をひそめ、

「やっぱり、つらいのか。あちこち連れまわされるのは」

当然だろう。

川に落ちた木の葉のように、ただひたすら流されていた。

先のことは何も分からなかった。流されてゆく果てに、漆黒の深淵がぽっかりと口をあけている予感さえして、心臓につめたい震えが走ることもある。

一人ぼっちで冷たい食事を取っているときは、母と穏やかな夕食をとった光景が瞼にちらつき、もはや手の届かぬ過去に涙があふれそうになった。

だが、少年を前にして、今のレーナは屈託無く笑うのである。

「慣れれば、どんなことでも平気になるよ」

実際、レーナは大地の裏側に居るときも、今まで地下室に居たときも規則正しい生活を心がけていた。時間通りに食事を取り、運動し、日記をつける。それだけのことで、不安で退屈な生活も少しはまぎれるのだった。

「それは、誰が教えてくれたの?」

セーンは聞く。

「お母さん…だったかな」

線路沿いに歩いているうち、隣を走る車の数は増していき、建物の姿も大きなものが目立つようになる。中心街に近づいているのだろう。

「ここって、どこ?」

「なんだ、来たことないのか? エナスの東中区だ。あの東町にも近い」

「あ、それなら知ってる」

駅に近づくほどに、黒々とした制服警官の姿までが多くなっているのはどうしたことだろう。

町を巡回する警吏の常として、彼らの顔には厳しさ以外の表情は認められない。

それでも、帽子の影のまなじりからは異様な緊張感が放たれているのである。

彼らの存在のためなのか、町全体が絶えまなく張り詰めているように思われてしまう。

怪訝そうな顔つきで、首をかしげるレーナに「暴動が起きたんだよ」と少年はささやいた。

「東町では、良くある事だって聞いたけど」

「今回は格別だったのさ。

北漠人の無実の男が、無残に殺されてしまったんだ。

参加したのは、主に北方からの出稼ぎ労働者と、その成れの果ての失業者ども。

始めは数百人だったらしい暴徒は、なだれの雪玉のように膨れ上がり、最後は万近くにも達した。

今日までに42箇所の警察署が破壊され、115箇所の工場が焼き討ちされた。

殺された人間は数知れず。損失金額は、980億。おしいね、もう少しで1000億だったのに。

当局もたまらず、エナス全体に戒厳令を出してしまった。軍隊はおろか、術者協会にまでも出動要請が行われた。

ようやく事態は沈静化されたらしいけど、まだ残り火はくすぶり続けている」

目を細めながらの少年の語りぶりは、何だかとても生き生きとしていて、楽しげにさえ聞こえるのである。

駅前の広場に出て、彼は指をさす。

「ほら、みてみろよ」

焼け焦げて潰れた車が、道路のあちこちに惨めな姿をさらしていた。

広場の周辺の店は、ほとんど全てガラスが砕かれ、商品が散乱している。

かつて中央の台座上に輝いていた始祖賢者の彫像は、足元の部分から折られ、無様に地面に横たわる。

白いペンキで汚されていた。汚らわしい悪口、みだらな言葉、言うに耐えない卑猥なマークの数々が、かつての荘厳な像に落書きされているのが遠目にも分かる。

「ここ、どこなの」

立ち入り禁止のロープに阻まれ、レーナは呆然と立ち尽くす。このような暴動の話は本で読んだことはあったけど、まさか世界の中心といわれるこの都市で起こると思っていなかった。

通行人の姿はそれほど多くない。

悲しげな目をした人々が、やはりロープに阻まれたまま、広場の惨状を沈鬱に見つめていた。ロープの内側では、警察官や消防隊が後片付けに追われている。

「嘘みたい、と思うか? だけど、現実に起きたことだ」

「もしかして、あなたが起こした…?」

「まさか、まさか。

俺は一度たりとも、彼らに『暴動を起こせ』とは言っていないんだから…」

最後の言葉は聞き取れないほど低い響きで、たちまち都市の汚れた空気の中に溶け込んでしまうのだった。




川を越えると、街の光景も一変してしまう。

東町と呼ばれる場所、北方出身者達の数多く住む地域だった。

道の両脇に隙間も無くひしめいた、不恰好なアパートの群れ。

家というよりも掘っ立て小屋に近い建物も多い。大風でも来ればたちどころにひしゃげてしまうだろう。

壁という壁は不潔な落書きに満ちていた。路地裏は狭く、しかも砂利がむき出しのところも少なくない。

狭い道には、干された洗濯物が張り出していた。

様々な喧騒が、不協和音に響いている。

取り分け耳を突いたのは、あちこちから流される耳障りなメロディーである。

やたら攻撃的な歌詞に耳を傾ければ、妖王を称える言葉の繰り返しだった。

見れば、家のあちこちには、フードを被った妖王の肖像が掲げられているではないか。

「すごい人気ね」

「ここは、東町でも北漠人が多く住む地区だからな。

今回の事件では、連邦への怒りが高まっている。

奴らの中には、俺を反連邦の象徴と見ている者も多いから、結果的に俺の株は上がるというわけさ」

言葉を交わす、少年と少女に注目するものは誰もいなかった。妖王の魔力が、人々の視線を退けていたのだろう。

空き地を通りがかると子どもたちが遊んでいた。黄色い声で、ひとつだけの黒い布切れをめぐって争っていた。どうやら布を妖王のフードに見立て、みなが妖王の役をやりたがっているようである。

「連邦人の子どもの遊びだと、妖王はヤラレ役なんだけどね。北方出身者の多いこの町じゃ、むしろヒーローになる」

突然、あちこちで響いていた妖王賛歌が鳴り止む。

見ると、ちょうど連邦軍の一団が通りかかる所だった。3台の装甲車が縦に並んでゆるゆると進み、頭のてっぺんから足のつま先まで武装した兵士たちが数十名も随行していた。

妖王の肖像画はたちまちに片付けられ、子どもたちは黒い布切れをこそこそと隠してしまう。

厳しい顔つきの兵隊たちは、あちこちの家を威圧するような眼差しでにらみつけた後、重々しい足取りで去っていった。

彼らが遠くに行ってしまった途端に、去って行った者たちを嘲り飛ばすように暴力的なメロディーが再開された。肖像画は再び掲げられ、子どもたちのガキ大将は黒い布を被って威張りだすのである。

レーナは、呆れるやらおかしいやらで噴出してしまった。

「良い心がけだ」

と少年は満足そうに頷いていた。

坂を降りていき、その先は灰色の霞に包まれている。

霞の先に、大きな建築物が黒くそびえているのが朧にみえた。

ようやく日の傾きかけたこの時刻。建物の影は不吉に揺れる蜃気楼のようにも見えた。

「なんか、霞んで見える」

「結界、って言えば分かるかな? 俺の作り上げた封印が、廃校の敷地全体に張り巡らされている。

誰も、俺の許可なしに、入ることは出来ない…」

セーンはそのまま霧に抜けて歩いていき、少女も後を追った。

たちまち視界が灰色にぼやける。手足もひどく重く、一歩一歩に抵抗を感じてしまうのだ。周囲の空気がゼラチン質と化したかのように、進みがたい状況だった。

こらえて十歩ほど進んだとき、視界は晴れ渡り、体も嘘のように軽くなる。目を上げれば、霧に包まれていたものの姿を、今は明確に望むことが出来た。

かつては学校の校舎であったようである。

高さは5階建てほどだったろうか。

曝されてきた長い歳月を示すように、かつての白壁は一面に灰色く薄汚れている。

数多ある窓も、所々が破れたままになっていた。

正面に取り付けられた大時計は、正午を示したまま、時を刻むのを長いことやめてしまっていた。

狐狸の類でも棲み付きそうな、古ぼけた校舎の有様である。

「ここが、あなたの新しい根拠地?」

みると、すでに暗くなった校庭には、大勢の人々がひざまずいていた。

彼らはみな固い地面にひざまずき、呪文のように妖王への賛美を連呼していた。

「闇の主! 我らの王! 世界の救済者! ささげよ、全てを、ラグナスに!」 

この言葉、取り分け『ささげよ、全てを、ラグナスに!』とのフレーズは、妖王の信奉者たちは挨拶のように使っていることを、レーナは後になって知った。

どうやらこの少年は、自分への賛美を常に唱えるよう下僕たちに強要しているようである。

(ここまで権力亡者だったなんて…)

やっぱりレーナは呆れてしまうのだった。



6、

あちこちの邸宅から暖かい光が漏れている。人通りは少なく、穏やかな雰囲気に包まれた西区の高級住宅街であった。

街灯の下にたたずむのは、古びたコートの男である。歪んだ眼鏡を鼻に引っ掛け、頬に薄髭を生やした、さえない風貌。

やがて、道の向こうから、高い足音が響く。灰色のフードを被った男が歩いてきた。

「これは…」

現れた妖王に、男は卑屈そうな動作で頭を下げる。

「オズル族長か。待たせたね」

妖王は目の前の建物を見上げた。

「ここがオーレル邸か。

この家の主に、俺は危うく殺されそうになったよ」

「あの方が本気でそのおつもりでしたなら、あなたは生きておられないはずです」

オズルは臆することなく言ってのけた。彼の双眸を覆うレンズは、街灯の光を受け白々と輝いている。ガラスの奥から、まっすぐに少年を見返しているのだろう。

背後に黒々と聳え立つ、五層の屋敷をセーンは仰ぎ見る。

この界隈にそびえたつ瀟洒な家々の中でもひときわ高く、夜空を覆うようにも見えた。

「君の真の主人は、俺に何を望んでいるんだ?」

セーンは目の前の男を見つめながら、静かに問いかけた。

「ご自分で、お伺いになってはいかがですか?」

オズルはあくまでも敬意を崩さない態度である。

門が音も無く開き、中から家政婦らしい人影がゆっくりと手招きをしている。

「導師は、俺との話を望んでいるのか?」

「はい。ですが、何を話されるおつもりかは、私には分かりません。

あの方のお心を読むことは、誰にも出来はしませんから…」

「だろうね」

中に待つのは我が身の破滅だろうか、そう思いながら、セーンは門に向かって進み始めていた。

「行かれるのですね」

背後からのオズルの問いに、答えるのもわずらわしい。

いずれ避けられぬ運命ならば、あえて飛び込んでみても悪くはない。

この屋敷の主は、きっと試しているのだろう。伺い知れない目的のために、俺が利用できるのか否か。

あの導師が、自分の価値を見極めようとしているのならば、逃げることは無益だった。

心の中で様々に思案しながら、門をくぐるときには心臓がすくみそうになるのをどうすることも出来ない。


広々とした庭園である。

もう冬だというのに、丘も窪地も目に鮮やかな緑の芝生に包まれていた。

いかなる技によるものか、草間の影には無数の蛍火がさまよい、夜の帳にほのかな光を添える。

なだらかな丘に囲まれた、青々と水をたたえる泉から、水柱が立ちのぼり、夜空に消えた。

ふりしきる水沫が、屋敷の明かりに照らされて、無数の光の粒子となって輝いている。

あの光のように、自分もここで儚くなるかと思いもしたが、穏やかな水音の響くこの情景は、不吉の予感などとは縁遠いものだった。

ここはいったい何時の季節の庭なのだろう、いぶかしくも思ったが、この庭に入ると不思議と寒さを忘れてしまう。

年老いた家政婦に導かれるまま、彫像の間を抜け、セーンはゆっくりと屋敷の扉をくぐった。


絨毯の敷かれた長い廊下を抜けて、やがてひとつの部屋へと案内された。

古風な雰囲気の漂う、品のよい部屋、それが始めの印象だった。

そもそも貴賓室として作られたのか、床には暖かい色彩のカーペットが引かれ、本棚には時代の重みを感じさせる書物が隙間無く並べられている。窓の無い部屋であったが、天井からはシャンデリラの柔らかな光が降り注いでいた。

古びた、しかしある種の威厳を感じさせる机の向こう側に、彼はいた。

背もたれに悠然と身をまかせ、穏やかな表情でこちらを見ていた。

(こいつ、いくつだ?)

思えば、明るい場所でオーレル導師の顔を見たのは初めてだった。

老いの緩みなどは微塵もない。それでいて、若々しいわけでもなく、成熟した落ち着きの漂う風貌だった。

「わが家にようこそ、セーニス=ディンケル君」

「お招きいただき、ありがとうございます」

少年は胸に手をつき頭を下げ、再び上げた。

オーレルの頭上にある肖像画に目がつく。一瞬だけ写真ではないかとおもった。だが、よくよく見れば精緻な筆さばきで描かれた油絵である。

思わず息を呑む。

出来映えが見事であったから、という理由ではない。

肖像画の中の男と、目の前にいる導師が本当に良く似ているように思われたのだった。肖像画から、たった今抜け出してきたのではないか、そんな馬鹿馬鹿しい考えが頭に浮かび、わけもなくぞっとしてしまったのだ。

「私はずっと、君を待っていた」

男は微かに笑う。

セーンは笑みを返すどころではなく、肖像と男を繰り返し見比べていた。

そしてようやく、

「その肖像は、あなたを描いたものですか?」

初めて言葉が出る。

よくよく目をやれば、肖像の男と目の前のオーレル導師は、やはり別人としか言いようがない。髪型はおろか、顔の輪郭も、鼻の形状も、細部を見比べば見比べるほどに違いが目に付く。

しかしながら、全体からにじみ出るイメージとでも言うべきものが、似ていると思わせる。

とても恐ろしいことに思えてしまうのだった。

部屋の主、オーレルは僅かに笑っている。コーヒーでも飲んでいたのか、机にはカップが載せられていた。

「そう見えるのか?

そのように言ったのはディンケル君が初めてだよ。普通の人間は、彼と私が似ているとは思わない」

彼は一息つき、

「ま、かけたまえ」

と正面にある、空の椅子を指差した。

セーンは腰掛け、挑むように目の前の男を睨み付けた。オーレルは全く意に介さないふうに、彼を見やる。

「ディンケル君、よくこの屋敷に来てくれた。君とは一度、きちんとした場所で会っておきたいと思っていた。

…それで、怪我はどうかね?」

「怪我…? ああ、もう大丈夫です。すっかりよくなりました」

「さすが、北漠の魔王…妖王の血を引くだけのことはある」

「導師こそ、腕の怪我は大丈夫ですか?」

自分で傷を与えたくせに、心配そうに尋ねて見た。

「私は君ほど若くないのでな。まだ、少し痛むのだよ」

導師は、苦笑いを浮かべながらも、屈託なく言うのである。相手に怪我をさせた後ろめたさも無ければ、傷を負わされた怒りもない。この男と命を賭けて争ったのが、まるで夢であるかのような錯覚にさえ、陥りそうになるのである。

実際、雷光を背後にした憤怒の形相が思い出せなくなってしまうほど、今の導師の表情は穏やかだった。

「君が部屋に入ったときから気にしている、この肖像の男は、アクルス=ゲイザーだ。君も名前くらい知っておろう」

「50年前の総理事長ですね。

教科書に書かれていることによれば、彼は名門の出自をかさに、あらゆる悪徳を重ね、術者協会の秩序を乱したと言われています。

一方、彼の行動は旧弊を打破せんとした改革であったとして、再評価すべしと主張するものも現れているとのことですが」

再評価論者の一人が、目の前にいるオーレルであることを、少年は以前に読んだ書物で知っていた。

オーレルは、糸のような瞳をいっそう細め、持っていたカップをすする。

「秩序を乱した、か。

あるいは、そう言えるかも知れぬ。門閥に都合の良い体制が、秩序だというのならばな。

彼の改革は、あらゆる批判を浴びた。その中には的外れな罵声も随分とあったことだろう。

不名誉を一身にまとい、没落の道を辿っていった。

私の知る限り、彼を哀れもうとするものは僅かだった。

それなのに、ゲイザーの為そうとした改革の多くは、のちになって彼を追放した者たちの手により、実施に移された。時勢に対処するには、必要なことだったのだよ。

…皮肉なことだ、彼が最初の提唱者だったにもかかわらず、功績は彼の敵に与えられたのだから」

「あなたの話が本当ならば、ゲイザーも気の毒な人ですね。

でも、遅ればせながらにせよ、夢が実現したのですから、それで良かったじゃないですか」

「そう思うかね?」

オーレルの細い瞳の鋭さに、少年はたじろぎそうになった。だが、決して負けはすまいと、瞳をいっそう見開いて、見返すのだった。

導師は椅子の向きを買え、肖像画を振り返る。

「世に言う英雄など、少し見方を変えれば犯罪者だ。

だが、彼はそうではなかったようにも思えるのだよ。

人々に正しいことを訴えていけば、いずれは分かってもらえると信じていたようだ。

武力で人を脅すようなこともなく、卑劣な陰謀も嫌っていた。

民衆の愚かさにつけこんで、巧みに煽動するようなことも無かった。…君とは違ってな」

「導師は、どうして今は協会に協力なさっているのですか?

昔は随分と逆らったこともあると伺っておりますが」

「昔は、随分か」

自嘲めいた響きだった。

導師の微笑に、寂しげな影がさす。

「人はそう思っていたのかも知れん。だが、実際はそうでもない。

…そう言えば、何か飲むかね?」

唐突に話をきられる。

「紅茶でもありますか? ミルクとシュガー両方で」

「産地は、どこが良いかね?」

「…知りません」

紅茶の産地を識別する舌など持ち合わせていない。

目の前の男にとっては、その程度の知識など、極当たり前の嗜みなのだろう。

導師は少し興ざめた様子だったが、すぐに背後を振り向き、

「紅茶をついでくれたまえ。いつものでよい」

と声を掛ける。

家具の陰から、執事の装いに身を包んだ男が現れる。背後の小さな机でお茶を注ぎ、恭しい態度で、セーンのところまで運んでくれた。

男は陰へと退いた。このような召使が、屋敷の中に何人控えているのだろう、そんなことをちらと考えてしまいながら、細長い砂糖の袋を空け、茶褐色の液体の中に粉末を溶かしこんだ。

幾度も幾度もしつこくかき混ぜる。

まるで化学実験でもしているかのような動作に、さすがの導師もあきれ、失笑してしまった様子だった。

自分の所作が滑稽だったことに初めて気付き、少年も思わず頬を染めてしまう。ばつが悪そうに、金のスプーンをテーブルクロスの上に置いた。

導師は穏やかに微笑んで、

「いやいや、その動作を見ていると、昔の人を思い出してな。

あのときの少女も、ちょうど君くらいの年齢だったよ」

「少女?」

「そうだ、もう今から20年前のこと。

ちょうどこの部屋に、彼女を招いたことがあったのだよ」

彼女とは誰かを言わないまま、導師はゆっくりと立ち上がった。

「歳は15を過ぎたくらいだっただろう。

君と同じように、大きな黒い瞳が印象的な子だった。

私を前にして、怯えを必死に押し隠し、強気に振舞う態度のいたいけさが、今もありありと目に浮かぶよ。

だが、緊張とは隠せないものだ。紅茶を飲むとき、つい癖が出てしまったのだろう、何度もしつこくかき回していた」

もはやセーンのほうは直接に見ず、考え込んでいた。

「…いったい誰の話をしているんです?」

「ラグナス2世を知らんのかね?

30年前の北方戦争の際、妖族達に担ぎ出された少女のことだ。

妖王などより、ピアノでも弾いていたほうが似合う娘だったよ」

彼はふぅと息をつき、ゆっくりとセーンを見やった。

「そういえば、君はあの娘に良く似ているな…」

覗き込むように少年の顔を眺めるのだった。

しげしげとみつめられ、恥ずかしい気持ちになってしまう。

導師の優しげなまなざしが、少し不気味だった。

まったく馬鹿げたことだったが、自分に妖しい懸想でもしているのかとさえ、一瞬は疑ってしまったほどである。

だが、このオーレルという男は女性遍歴こそ華やかであったが、男色などとは聞いたこともない。

「私が、少女じみているということですか? 心外ですね」

「そういうことではないよ」

オーレルは微苦笑を浮かべる。指を振り上げ、右の壁に掛けられていたテレビを指差す。

ブラウン管は鈍い音を立てて瞬き始め、フードを被った一人の少女を映し出した。

彼女は広場の中央に一人で立ち、演説を行っていた。

ステージの周囲には雲霞のごとき大衆が集まり、彼女の言葉に歓声をあげていたのだが、白い壇上には彼女以外の誰もいなくて、少女の姿は孤独そのものに見えるのだった。

その画面もすぐに切り替わる。

フードを脱いだ少女が、大勢の兵士に囲まれて、夜空の下の荒地を歩いていた。

疲れきっていたが休むことも出来ず、強いて周囲に歩調を合わしている。屈強な男たちの中にあって、彼女の姿はいかにも細く、頼りなげに見えた。

「エリル=レンという名前だった。

望みもしないのに王とされ、実権もないのに全てが彼女の責任とされた。

不幸な少女だったよ。

救ってあげたかった。できうることなら、幸せにしてやりたかった」

「結局、どうなったのですか?」

セーンは呟く。

呟きながらも、視線は我知らず映像に釘付けとなってしまっていた。

映っている少女の顔が、自分をそのまま女にしたようにも見えて、気味が悪い。

「ラグナス2世の運命は、君も知っての通りだ。

殺されたよ。いや、…私が殺したのだ」

最後の言葉を、深いため息と一緒に吐き出す。

導師は視線を床に落とし、

「人はどう思っているかは知らぬ。私の人生は、失敗の連続だった。

その中でも、あの少女を生かしておけなかったこと、それが痛恨の極みだ」

(可愛い少女を殺すのは痛恨でも、相手が男ならばそれほどつらくないのかな?)

まだ時折は痛む脇腹を押さえながら、セーンは胸中では皮肉にうそぶいていた。本題に入ろうともせず、昔話ばかりする導師に苛立ちを覚え始めていた。

「それで、なんのために私を呼んだのですか?」

相手は愛想の良い笑顔をむけて、

「ふふ。まあ、そんなに話を急ぐでない」

導師の瞳が厳しい光を放っていることに気がついた。

視線は鋭く、こちらに何かを伝えようとしている。

彼はゆっくりと少年の脇にしゃがみこむ。

「気をつけろ。どこに協会の耳があるか知れん」

耳元で囁き、再び立ち上がる。

「君にはまた来て欲しい。だがこの場所ではない。

もしディンケル君が多くのことを知りたいと願うのならば、全ての欺瞞と偽善の象徴、そこに昇る月を望める場所を訪ねればよい。満月の日には会えるだろう」

それだけを言い放ち、再び背後に向かって

「お客様はお帰りになるそうだ。表まで案内しなさい」

そっけなく言う。

セーンは導師の顔を見ながら、ゆっくりと立ち上がった。

背後の肖像画が、再び視界に入る。

「あの。ひとつだけよろしいでしょうか」

「何かね?」

「さきほどゲイザー導師についておっしゃっていましたね。彼は人々を真っ当に説得しようと思っていた。皆の理性に期待をかけていたのだ、と

それでは、失敗するのも当たり前なのでは?」

導師は沈黙で続きを促していた。

「あいつらはバカですよ。

臆病で貪欲で、偽善者な上に嫉妬深い。

そのような連中を理で諭そうとしても、失敗するに決まっております。

あなたのような賢い方が、そんなことが分からないとは思えないのですが…」

応えは無かった。彼の細い瞳からは、あらゆる感情が認められない。

「今日は、君と会えて楽しかったよ」

とだけ、言うのである。

家政婦に導かれるまま廊下を歩いた。ある程度行ってから振り返ると、まだ導師は立ち上がったまま、こちらを見つめているようだった。


屋敷を出て、そこで待ち受けていたオズルと廃校へと帰る。

死を覚悟して屋敷に入ったというのに、終わってみれば実に肩透かしな出会いであった。

昔話を2,3しただけで終わってしまった。

だがそれも、無理ないことなのかもしれない。噂にしか聞かないことではあったが、協会の諜報力は一般人の想像をはるかに超えたものと恐れられていた。

現にセーン自身だって、諜報の網に幾重にも縛り付けられているのだ。

(あの導師も、俺と同様に監視されているのか、だから遠回りの話しかしなかったのか)

そのようにも思ったが、一方で疑いもつきまとう。

オーレルは根っからの協会の手先であり、協会への不満をほのめかすのも、自分をさらなる陥穽に落とし込まんとする罠なのではないか。

(俺を安心させておいて、頃合を見計らって一気に殺すという罠か…くそっ)

これ以上は導師に会うべきで無かった。自ら危地に飛び込んでは、愚か者の謗りは免れない。

(けど…)

物足りなかった。もっと彼と話したかった。奇怪な感情がわき上がり、胸が妖しくうずくのである。

自分でも良く分からぬ感情だった。導師の思わせぶりな語り口に、好奇心が煽られた所為もあるだろう。あのエリル=レン…ラグナス2世が自分と良く似ていたことも気に掛かったが、それらは枝葉の理由である。

導師の若々しくも老成した顔立ち、底知れぬ深みを感じさせる瞳、心を優しくなでるような穏やかな声が、強い力となって心臓を捉えているようだった。

『いつしか、彼と話すことはあたしの楽しみとなっておった。彼と話した人間は、誰しも同じように思うじゃろう』

鍾乳洞でのジェダ婆さんの言葉が、改めて耳の奥に響いてくる。

「君は、どれくらい昔から、どのような理由で導師の召使となったんだ?」

オズル族長に振り返る。

「それを、お答えすることは許されておりません」

妖王の命令には逆らえても、導師には逆らえないらしい。

「ご不快にお思いなら、私をこの場で誅していただいてもかまいません」

もちろん、今は出来るはずがない。オズルもそれが分かって言っているに違いなかった。

(虎の威を借る狐か…)

この男も、どうやら他の妖族達と代わり映えしないようである。ただ、別の虎を主としているだけのことだった。

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