美しき狐神はミリーの願いを叶えたい
「……お腹減ったな」
ぐーぐーとなるお腹を手で押さえてみたが、一向に止む気配がない。
わたし……ミリーにはお金がない。なぜなら商人だった両親が仕事帰りに交通事故で死に、家も事業も叔父家族に乗っ取られてしまったからだ。
そして二年前彼らに虐げられる生活に耐えかねて、わたしは着の身着のまま田舎町に出てきた。
――大事な形見まで売ったのに。
生活を整えるため、隠し持っていた母親の形見のブローチを売ってしまった。後悔しているが、生きていくためにはどうしようもなかった。そこまでしても、わたしはまだ貧乏な生活から抜け出せてはいない。
「あーあー、これからどうしよう」
ついさっき内職を終え納品に行ったが、意地悪な女店主に約束していたより安い賃金しか払ってもらえなかったのだ。
『刺繍なんて誰でもできるんだから、仕事をやるだけありがたいと思いな!』
酷いことを言われたが、お金がなければ暮らしていけない。悔しくてもその条件を受け入れるしかなかった。
油断すると涙が出てしまいそうで、空を見上げて帰り道を歩く。
「きゅー……きゅー……」
「猫かしら」
弱々しい鳴き声が聞こえたので、きょろきょろと周囲を見渡した。すると、木にロープでくくりつけられた狐がいた。かなり汚れていて、右手からは血が出ている。
「きつ……ね……」
町に住む子どもたちに虐められたのだろうか? 磔にされた姿はとても痛々しかった。
「助けてあげるからね」
この国では、狐は好かれる動物ではない。昔から狐は化けて出るとかずる賢いとか……童話や物語で悪役に書かれているからだ。
――弱いもの虐めをするなんて酷いわね。
弱った狐は、まるで自分を見ているかのようで苦しかった。わたしはロープを解き、狐をそっと抱き上げた。
「わたしはミリーよ。暴れないでね。あなたを助けるんだから」
「きゅー……」
「家はもうすぐよ。頑張って」
明日の生活もままならないのに、動物を保護する余裕なんてない。だが、どうしても放置はできなかった。
胸に大事に抱えて帰った。そしてぬるま湯をかけて石鹸で全身を洗い、タオルで綺麗に水気を拭いてあげた。
「わあ、あなた真っ白だったのね!」
あまりに汚れていてわからなかったが、この子は白狐だった。
右手の傷を消毒し、薬を塗って、包帯がわりにわたしのハンカチを割いて巻いてあげた。動物用の薬はないので、自分の傷薬を塗る。
「終わったよ。あ……男の子なんだ。綺麗だから女の子かと思ったわ」
白狐を両手で持ち上げると、オスの印がしっかりと付いていた。するとずっと大人しかった狐が、バタバタと暴れ出した。
「ああっ、ごめん。傷に触っちゃった?」
わたしは持ち上げきれなくなり、そっと床におろした。すると部屋の隅に駆け出し、尻尾を身体に巻き付けて丸まってしまった。
――ご機嫌ななめね。
わたしは狐が大人しいうちに、晩御飯の準備に取り掛かった。今日は昨日の残りの野菜スープと、町で買った硬いパンだ。
今日は内職を終えたご褒美として、デザートに一つだけリンゴを買ったが……これは彼にあげよう。
自分用にスープを温めて、硬いパンをナイフで切って焼いた。それから、リンゴをむき小さめにカットして皿に移した。
「ほら、お食べ」
リンゴの皿を目の前に置くと、耳がぴくぴくと動き、尻尾がふさふさと揺れた。
「よーし、いい子」
白狐はシャクシャクと音を立てながら、美味しそうにリンゴを食べている。
「わたしも食べよう。ちゃんとした値段で売れたら他の食材も買えたのに」
ハムの上にとろとろに溶かしたチーズを乗せたパンをお腹いっぱい食べたいな、と思いながらいつもの粗食を口に入れた。
「きゅーん……」
リンゴをペロリと平らげた白狐は、申し訳なさそうに耳と尻尾を下げてこちらに移動してきた。そして、慰めるようにわたしの足にすりすりと頬擦りをした。
――まるで言葉がわかるみたい。
「食べてよかったのよ。困った時はお互い様だもの」
わたしは彼の頭を撫で、そっと抱き上げた。
「なんだか癒されるわね」
ふわふわの尻尾に顔を埋めると、びくりと体が揺れた。
「ごめん、驚かせたね。そろそろ寝ましょうか」
タオルをひいて寝床をつくってあげたのだが、気に入らなかったのかわたしのベッドに飛び乗ってきた。
「ここで寝るの?」
「コンっ!」
わたしは仕方なく彼を抱きしめて眠ることにした。狭いシングルベッドなので、落ちたら可哀想だ。
「おやすみなさい」
お腹は空いているし明日からのことも不安だけれど、彼の温かさのおかげですっと眠りつくことができた。
***
わたしはギシッというベッドが軋むような音で目が覚めた。
――変な音がする。
安価で揃えたため、家具の耐久性には不安がある。でも、昨日まではこんな変な音はしなかったのに。
「あ、起きましたか」
わたしの隣で、この世のものとは思えない程の美青年が片肘をついて寝転んでいた。
――これは……夢?
鼻がスッと通り、目は切れ長の美しい琥珀色。白く長いサラサラの髪は銀色にも見える。その上、なんかいい匂いだ。
「おはようございます」
その青年は、まだ思考が追いついていないわたしの頬をペロっと舐めた。
「うわぁっ……! あ、あなた誰?」
いきなりのことに驚いて、大声を出した。夢かと思ったけど、舐められた感触がある!
しかも、この男……服を着ていないではないか。
「なんで上の服を着てないのよ!」
知らない間に家に忍び込むなんて、この男はおかしな奴に違いない。いくら顔が良くても、許せない。
「上だけじゃないです。ほら」
にこりと微笑み、シーツをペロリとめくり大事な部分を恥ずかしげもなく見せてきた。
「な……っ!!!」
芸術的な彫刻のように均整のとれた裸体を見せられ、わたしは声にならない悲鳴をあげた。
――うゔっ……生まれて初めて見るのに。
わたしは涙目になりながらシーツでぐるぐる巻きにし、男をギロリと睨みつけた。
「変態っ! 警備隊に通報するわよ」
「昨日は凝視してたじゃないですか。僕は恥ずかしかったんですよ。でも……あなたならいいかなって思ったんです」
男は照れたように頬を染め、長いまつ毛を伏せた。綺麗な顔だと何をしても絵になるのが憎らしい。
――昨日見てた?
「意味のわからないこと言わないで」
「僕は本当のことを言っているだけですよ。ちなみに、舐めたのは挨拶です」
美しい青年は悪びれることなく、そう言った。
「な、何が目的なのっ!」
わたしは声を震わせながら質問をした。正直に言えば怖いが、弱気な姿を見せてはいけない。
「昨日は、助けていただきありがとうございました」
「……え?」
「僕は怪我をしていた狐です。ほら」
美青年は嬉しそうに目を細め、シーツから右手を出した。
――……このハンカチ。
手に巻かれた物は、昨日狐を手当てした時のものだ。
「きつ……ね……」
「はい。ほら、この通り」
大きな声で「んーっ」と唸ると、彼に耳と尻尾が現れた。
「うわぁっ!」
「信じていただけましたか?」
ぴこぴこと耳が動き、尻尾はぶんぶんと揺れている。
「こんなことって……あるの……?」
狐は化けて出るなんて噂されているけれど、本当に変身するとは思わないではないか。
「五百年前に僕の祖国に行商に来ていたブラッドという青年と仲良くなり、一緒にこの地にくるため分霊してもらいました」
「ぶんれー?」
「はい。元の神様から分かれて、僕も神様になったんです」
「あなた神様なの? しかも五百年からいる……」
情報が多すぎて、頭がパンクしそうだ。
「はい。ブラッドはいい友人でしたが、五十年ほどで死んでしまいました。その後、年月が経つほどに徐々に存在を忘れられ、力を無くしていきました。僕は普段は森の社に住んでいて、お供えをもらうと力が宿るんです」
白狐の耳がへたりと下に垂れ、哀しそうに俯いた。
「このままでは消えてしまうと思い、最後の力を使って狐の姿に化けました。子どもに助けを求めようとしましたが『狐は悪だ』と言われ、石を投げられたんです。僕はこの百年何も食べてなかったので、力が出なくて捕まってしまいました」
「百年何も食べてないの?」
友人がいなくなった土地で、彼は孤独に過ごしていたのだろう。しかも狐には厳しいこの国で。
「ええ。だから、ミリーがくれたリンゴとても美味しかったです。あなたの大事な食料だったのにありがとうございました」
彼は美しい顔でにこりと微笑んだ。
「いいの。たったリンゴ一個よ」
「おかげさまで力が戻りました。是非お礼をさせてください。何か願いはありますか?」
「願いって……なんでもいいの?」
もし本当に叶うのならば、形見のブローチを取り戻したい。
「僕は五穀豊穣神ですが、大抵の願いならば叶えられると思います」
「ごこくほーじょー……」
聞きなれない単語に、わたしは首を傾げた。
「ええーっと……僕は作物を育てることや、商売を繁盛させることが得意です」
「それなら……二年前に母のブローチを質屋に売ってしまったから、取り戻したいの! どこにあるかもわからないんだけど」
わたしが恐る恐る聞くと、彼はきょとんとした表情をみせた。
「そんな簡単なことなら、僕の力を使うまでもありません」
「えっ! じゃあ、可能なの?」
「はい。ミリーが手伝ってくれるのであれば、協力しますよ。僕への願い事は、もっと壮大なことに使わないと勿体無いです。ゆっくり考えていただいて構いませんので」
「わかったわ、ありがとうっ!」
わたしがぎゅっと抱き着くと、彼はふさふさのしっぽをぶんぶんと振った。壮大なことなんて思いつかないけど、とりあえず良かった。
「ねえ、名前は何というの?」
「宇迦之御魂大神です」
「ウカ……マノ……カミ? ごめん……何て言ったの?」
わたしは彼の名前を聞き取れなかった。この国にはない響きの音ばかりだ。
「呼びにくいですよね。母国でも滅多に呼ばれなかったので、カミサマとかキツネと呼ぶので大丈夫ですよ」
「そういう訳にはいかないわよ。じゃあ……ブロンはどう? 白って意味だからそのままだけど、ニックネームってことで。だってあなたの白い毛並みとっても美しいもの!」
「ブロン……僕にこの国らしい名前が貰えるなんて。すごく嬉しいです」
彼はもじもじしながら、照れている。どうやら気に入ってくれたようだ。
「では、周囲の偵察に行ってきます」
「でもまた捕まったら大変よ」
「大丈夫です。力が戻ったので、この前のような失敗はしません」
彼はくるりと周り、狐の姿に戻った。コンと鳴いたと思ったら外に一気に駆けて行ってしまった。
一晩待っても帰ってこないので、心配で早朝から玄関の周りをうろうろしているとブロンがわたしの姿を見て駆けてきた。なぜかすごく大きな荷物を持っている。
「待っていてくれたのですか?」
「た、たまたま外の空気を吸ってただけよ」
わたしがそう言って誤魔化すと、彼は目を細めて眉をへにょりと下げた。
「ふふ……嘘が下手ですね」
「う、嘘じゃないわっ!」
彼は地面に紙袋を置き、わたしの顔や首を舐めはじめた。そして、そのまま押し倒されそうになるのを必死で阻止する。
「ブロン、やめて」
「狐の親愛の印です」
「今は人間でしょうが!」
狐だと頭ではわかっていても、彼が美しい男性には違いない。そんな人に抱きしめられたり、舐められたりしたら動揺するのは仕方ないだろう。
「ミリー、顔が真っ赤ですよ」
そんなことは言われなくてもわかっているが、一体誰のせいだと思っているのか。
「はい、これ。森の果物を売って食料を買ってきました」
地面に置いていた紙袋を見ると、中には白くて柔らかいパンやチーズ、ハムに卵……野菜もたくさん入っている。
「ええっ……! 高かったでしょ?」
「大丈夫です。僕の力で育った果物はとびきり甘くなるので、高値で売れました」
正直、食べ物をもらえるのが一番嬉しい。神様ってすごい!
「とっっっても嬉しい!」
「良かったです」
「その姿の時は人間の食べ物でも平気なの?」
「はい。でも、この前ミリーからリンゴをもらったのでしばらくは食べなくても平気です」
ブロンはそう言ったが、わたし一人で食べるのは寂しい。
「一緒に食べましょう! 準備するから待っててね」
「いいのですか? 大事な食料が減りますけど……」
「もちろんよ。二人で食べた方が美味しいわ」
そう伝えると、ブロンの顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、僕も手伝います!」
そして狭いキッチンに二人並んで、食事の準備をした。
「んんー、ハムと溶けたチーズが美味しい」
わたしは両頬を押さえ、幸せを噛みしめていた。これこそ、わたしが食べたかったふわふわパンのハムチーズ挟みだ。
「ほら、ブロンも食べて」
「は、はい」
ぱくりとかぶりつくと、彼はキラキラと目を輝かせた。熱かったのかハフハフしながら食べている。
「初めて食べました。いい塩気ですね」
「そうでしょう?」
「こんなに美味しいものが、この世にあるなんて!」
パンを見つめながらぱちぱちと瞬きをしているブロンはとても可愛らしい。
「それに……ミリーと一緒にご飯を食べれて嬉しいです」
「わたしもよ。ありがとね! ブロンのおかげだわ」
お礼を伝えると、ボンっという音と共に耳と尻尾が現れた。ぶんぶんと大きな尻尾が揺れているので、喜んでいるようだ。
「すみません。感情が抑えられず、耳と尻尾が……」
「誰も見てないし、好きにしてていいわよ」
よしよしとふさふさの耳を撫でると、ブロンは気持ちよさそうに目を細めた。
「もっとあなたの役に立ちます」
「ふふ、ありがとう」
ブロンは情報収集だと定期的に出かけ、夜には必ず帰ってきた。一緒にご飯を食べ、お風呂に入って、眠る。そんな当たり前の毎日は、両親が死んでから孤独だったわたしにとっては幸せな日々だった。
寝るときは狐の姿になる約束をしていたのに、起きたら人型になっていて叫び声をあげることも度々。何度怒ったかわからないが、そのたびに「許してください」と美しい顔が近付いてくる。至近距離で見る綺麗な顔に負け、なし崩しに許すことになるのも日常だった。
「も、もういいから。許すわよ」
「ありがとうございます。ミリー、大好きです」
わたしの手を取り、彼はふわりと微笑んだ。その笑顔を見て、胸がぎゅっと締め付けられる。
「そういう恥ずかしいことをさらっと言わないで」
「思ったことを言っているだけです」
最近わたしは困っている。初めは顔がいいからドキドキしているだけだと思っていたが、それ以上の感情を抱いてしまっている。神様である彼を好きになってもどうしようもないのに。
わたしは、自分に芽生えた気持ちに蓋をすることにした。
ブロンが力を授けた木からできた果物は、あっという間に美味しいと評判になった。彼は裏の森を使って、計画的に果物の種類や量を増やしている。
最初は最寄りの町だけで売っていたのが、いつの間にか大きな街の有名なスイーツ店に卸すことになった。そのため値段が跳ね上がり、まとまった金額が手元に入るようになった。
そしてわたしが内職でしていた刺繍にも動きがあった。ブロンが「クローバー」をモチーフにした物を作るようにと指示をしてきたのだ。
「人気のモチーフは花よ?」
「知っていますが、来週第一王子が隣国の美しい姫と婚約します。その国の幸運モチーフは『クローバー』です。きっと話題になりますよ」
第一王子が婚約するという話は聞いたことがあるが、相手はどこかのお姫様ということしか平民のわたしはよく知らない。
「貴族に売れるようにいい生地を使い、高級な糸で縫ってください。他の者たちが売りだす前に事前に作ってきましょう。資金は果物を売ったお金を使ってください」
「わかったわ」
わたしは寝る間を惜しんで、色とりどりの高級なハンカチにクローバーの刺繍を繰り返した。丁寧に美しく手を抜かずに作業をする。
「ミリー、少し休憩しませんか? テーブルにホットミルク置いておきますね」
「ありがとう! 嬉しい」
優しい気遣いができるブロンに感動する。わたしはガチガチに固まった身体を伸ばし、カップに手を伸ばした。
「ああ……甘くて美味しい」
一口飲むと優しい甘味が染み渡っていく。
「お疲れでしょうから、ハチミツを入れました」
「さすがブロンね! もう少し頑張れそう」
「無理はしないでくださいね」
ブロンの優しさのおかげで、わたしは一週間かけて百枚もの刺繍をなんとか仕上げることができた。
***
そして、その数日後。ブロンの言う通り第一王子の婚約のことが新聞に載った。しかも姫が『クローバーの刺繍入りのハンカチ』を幸運のアイテムとして王子にプレゼントしたという話まで書いてあった。
「これ……!」
「ええ。読み通りですね。すぐ二つ先の大きな街に行き、買い取ってもらいましょう。貴族が贔屓にしている店も調べてあります」
「準備万端ね」
「ええ。売るためには情報が大事ですから。今回は三分の一持っていきましょう」
「どうして全部じゃないの?」
わたしが首をかしげるとブロンは「僕の得意分野なので任せてください」とにっこりと笑った。
そしてブロンが下調べしていた雑貨屋に向かうと、店主は本当に高値で買い取ってくれた。
「こんなに……いいのですか?」
わたしはつい本音が口に出た。
「もちろんだ。うちの店は貴族相手だから、値段は高くても売れるのさ。君の技術にはそれだけの価値があるし、素材も一級品を使ってくれてるからね」
ちゃんと評価され、適正な料金をもらえたことが嬉しかった。
「むしろ助かったよ。貴族の御令嬢方からクローバーの物が欲しいとたくさん問い合わせがあって困っていたんだ」
「良かったです。でも、貴族令嬢ってみんなご自分で刺繍なさるんじゃないんですか?」
単純な疑問を伝えると、店の店主はハハハと笑った。
「侍女や店に作らせる令嬢も多いんだ。秘密だけどね」
「なるほど……!」
「もし同じ量が二日でできるなら、今日の料金より上乗せするよ」
嬉しい提案に「もうできている」と答えようと口を開きかけたが、ブロンが阻止するかのようにわたしの前に出てきた。
「明日ならどうですか? 今夜寝ずに作ります」
「ほお、明日なら倍出そう。もちろんクオリティは下がらずにが条件だがな」
「わかりました、明日必ず伺います。では作業があるので失礼します」
「ああ、よろしくな」
ブロンは何食わぬ顔で料金を受けとり、店を出るとわたしに向かって嬉しそうにウィンクをした。
「成功しましたね!」
「……さすがね。わたしなんてこの前、一枚五百ゴールドの約束だったのに、四百ゴールドに買い叩かれたのよ」
彼の見事な交渉術には感心する。わたしなんて、女店主に何も文句が言えなかったのに。
「それは許せませんね」
「え?」
「もし今度内職先の店主に依頼されても、きっぱり断ってください」
「依頼なんて来ないわよ。わたし以外にも刺繍できる人間はいるって言われたもの」
そのまま家に帰ったが、ブロンは再度近くの町に出かけて行った。きっと何かをしに行くのだろう。
翌朝、なんとあの女店主が町中で待ち伏せをしていた。
「ミリー、あんたクローバーの刺繍をたくさん持ってるらしいじゃない。今回は特別に一枚六百ゴールドで買い取ってやるよ」
「……これは他店に売るものです」
「助けてやったのに、恩を仇で返すつもりかいっ!」
大声で怒鳴られ、何も言い返せなくなってしまった。
「ミリー、大丈夫です。僕が付いています」
ブロンはわたしの手をぎゅっと握ってくれた。すると、さっきまでの恐怖心がスッと消えていった。
「こ……これは上質な布で、他店なら一枚三万ゴールドで売れる物です。欲しければそれ以上出してください」
わたしが毅然と伝えると、女店主は激昂した。
「さ、三万だって? ふざけるんじゃないよ」
「物の価値がわからないんですね」
「なんだって?」
「自分の立場を利用して契約より安い金しか渡さないあなたに、売るものなんてありません。さようなら!」
わざと大きな声を出したので、周囲にも店の悪行は伝わっているはずだ。
「ち、ちがうわ。あたしの店はそんなことしてない! 何かの間違いよ」
女店主が必死に周囲に取り繕っている隙に町を去った。
「よく言えました」
「……全部ブロンのおかげ。ここにくるように仕組んだでしょう?」
わざと知らせなければ、あの女店主はわたしたちが二つ先の街で売っていることを知らないだろう。
「ええ。噂話を流したら、簡単に行動にうつしてくれました」
「あー……スッキリした! わたし、この前は泣き寝入りしちゃって悔しかったから」
とても清々しい気持ちだったが、彼はまだ怒っていた。
「ミリーを傷付けた人は許せません。あなたの作った刺繍はとても美しく、価値のある物ですから」
「ありがとう。わたしのために怒ってくれて」
「当然です」
残っていた全ての刺繍を別日に分けて売り、まとまったお金を得ることができた。
「材料差し引いてもすごい金額よ」
「これはミリーの頑張りのおかげです」
「ブロンが考えてくれたからよ」
その日の夜はいつもより豪華な夕食にし、二人で成功を喜び合った。
「次はこの資金を元に宝石を買います。そして、それを売ってまた増やし……形見が出てくるのをひたすら待ちましょう」
わたしには「出てくる」の意味がよくわからなかったが、ブロンに任せることにした。
「これを」
わたしは売らずに残していた一枚のハンカチを、彼に差し出した。
「まだ残っていたのですか?」
ブロンはパチパチと瞬きをして、驚いていた。
「ええ。でもこれは売り物じゃなくてブロンにあげたいの」
「僕……に?」
「あなたのために刺繍を入れたのよ」
モチーフは狐とクローバー。ブロンが幸せになるようにと願った物だ。
「わたしからのプレゼント!」
「……嬉しいです」
美しい琥珀色の瞳から涙が溢れ、耳と尻尾も出てきた。わたしはぎゅっと抱きしめられ、身動きが取れずにいる。
「一生大事にします」
「ふふ、大袈裟」
「本当です。僕の宝物です」
すりすりと顔を擦り付け、顔中にキスされたり舐められたりした。
「ちょっと……離して」
「嫌です」
抵抗しても逃げられないので、されるがままだった。しばらくすると、彼はわたしから離れてハンカチを何度も何度も見つめていた。
――子どもみたいで可愛い。
興奮しているのか、また尻尾と耳が出ている。ぶんぶんと大きく振っている尻尾が、彼の喜びを表している。
それから彼は、まるでお守りかのように肌身離さずハンカチを持ち歩いてくれた。そのことがわたしは嬉しかった。
***
「これとそれをお願いします。あの一番奥の物も」
ブロンは今、質屋を周り手当たり次第に石を買っている。わたしにはどれが良くて、どれが悪いのかなんてわからない。
「どうして質屋さんなの?」
「お宝が眠っているからですよ。宝石店は適正価格が付いていますが、質屋はそうじゃない。僕は審美眼があるので、価値がある物が視えるんです」
「……あなたって何でもできるのね」
「神様ですからね」
彼の選んだ物を大きな宝石店に持ち込むと、購入金額の二倍ほどの値段がついた。
一週間場所を変えて同じことを繰り返し……働かなくても数年は生きていけるほどのお金が貯まった。
「そろそろですね」
ブロンは宝石屋に行くたびに、それぞれの店主に同じことを伝えた。
「彼女の母親の形見であるエメラルドのブローチを探しています。五カラットでSランクのものです。石を囲むように小さなダイヤが散りばめられています。カットはスクエア。土台は純金です。もし見つかれば、あなたにも謝礼を渡します」
しばらくすると、このブローチではないかという連絡がたくさん舞い込んできた。
「これは違うわ」
「こっちも別物ね」
「残念だけど……」
情報があれば確認しに行くが、なかなか見つからなかった。中には条件に似せただけの粗悪な宝石もあったが、ブロンがすぐに見つけ追い払っていた。
そして一カ月ほどしたある日、二度と会いたくなかった叔父と従姉妹のアマンダが家を訪ねてきた。
「叔父さま……アマンダも……なぜここに?」
「やたら稼いでる女がいると噂で知ってな。身体的特徴からミリーかもしれないと思ったのだが、当たりだったようだな」
口髭を生やし、でっぷりと太った叔父は以前と変わらず嫌な感じだ。
「そんなに稼げるなら、我が家でその力を活かしなさいよ。ねえ、お父様」
アマンダはゴテゴテと趣味の悪い宝石を身につけ、まるで品がない。
「そうだ。我々は家族なのだから、お前の稼ぎは私たちの物ということだ」
「その通りだわ」
あまりの自分勝手さに、わたしは怒りで身体が震えてくる。
「ふざけないで。何が家族よ!」
ギロリと睨むと、叔父が恐ろしい形相で手を挙げた。殴られると咄嗟に身体を強張らせたが……痛みはやってこなかった。
「ミリーに触れるな」
あまりに恐ろしい声が聞こえ、そっと目を開けるとブロンが叔父の手を捻り上げていた。
「痛てててて……うゔっ……」
彼は悲鳴をあげている叔父を、乱暴に押しのけた。
「あなた様は誰なの? お名前は」
アマンダは地面に尻餅をついた父親の心配もせず、見目の良いブロンに目を輝かせていた。
「お前に名乗る必要はない」
「私についてくれば贅沢させてあげますわ」
「行くわけがない。ミリーを傷付けるなら、お前たちを許さない。二度と現れるな」
ブロンは低い声を出し、ギロリと睨んで二人に圧をかけた。アマンダは悔しそうに唇を噛んでいたが、父親に手を引かれて逃げるように去って行った。
「ミリー、大丈夫ですか?」
「ありがとう。ごめんね……変なことに巻き込んで」
「いえ」
「わたし、元々は商家の生まれなの。あの人は父の弟とその娘なんだけど、両親が事故で死んだことで家を乗っ取られてしまって。召使いみたいな扱いをされたから、ここへ一人で逃げてきたの」
自分の過去を話すと、ブロンは眉を吊り上げ拳を強く握った。
「僕に願ってください」
「え?」
「あの家族を合法的に消すことも可能です」
「消すって……」
「神の力は人智を超えたことができますから」
ブロンの琥珀色の瞳が光り始めた。きっと、彼に頼めば本当に叶えられるのだろう。
「いいの。両親には申し訳ないけれど、わたしはもうあの人たちに関わりたくないわ。きっと天国の二人も復讐するよりわたしが幸せに暮らしている方が嬉しいと思うから」
「ミリー……」
「ありがとね。わたしの代わりに怒ってくれて嬉しかった」
「あなたは……本当に優しいですね」
ブロンはくるりと一周回って狐の姿に戻り、わたしの頬をペロペロと舐めた。
「ふふ、こそばゆいよ」
「コン!」
「はは、もふもふで気持ちいい」
すりすりと身体を擦り付けてくる。どうやら、わたしを慰めてくれているようだ。
「わたし、ブロンに逢えて良かったわ」
ぎゅうっと抱き締めると、ボンっという音と共に人型に戻った。
「僕もミリーに出逢えて良かったと思っています!」
琥珀色の瞳が蕩けるように細まり、柔らかそうな唇は美しく弧を描いている。太陽に照らされた白色の髪は、キラキラと光って眩しい。
「……ブロン」
彼の姿はとても神々しいが、ひとつ大きな問題がある。
「ん?」
「裸でくっつかないで! しかも玄関の前で変身しないでよ」
わたしは慌てて両手で目を隠した。
「ミリーなら見てもらっていいですよ」
「何馬鹿なこと言ってるのよ。さっさと中に入って」
「わかりましたから、怒らないでください」
家の中に入る前、森の木々がガサガサと動く音がした。
「誰かいるの?」
もし、ブロンが変身したところを見られていたら大変だ。だがそれ以降何も音はしなかったため、わたしはそのまま中に入った。
***
一カ月後、ある宝石店から連絡があった。もう見つからないかもと思っていたが、それはまさしくわたしが望んでいたものだった。
「これです。これ……わたしの母の物です!」
ついに母親の形見が見つかり、念のためブロンにも本物のエメラルドだと確認してもらった。
「探していただいて感謝します。あの持ち主の方は……」
「あなたのお母様の形見だと説明したら、理解してくださいました。購入金額と同じ額で譲ると仰っています」
「そうですか。ありがとうございます」
わたしは涙がポロポロと溢れてきた。もう二度と戻ってこないかもしれないと思っていたのに。
「あの時、売ってしまってごめんね。戻ってきてくれてありがとう」
わたしはエメラルドのブローチを手に取り、胸に押し当てた。
「ミリー、良かったですね」
ブロンは優しく涙を拭ってくれた。それから宝石店に謝礼とブローチ代を払い、ブローチの持ち主にお礼の手紙を渡してもらえるように店主に頼んだ。
「折角なので付けましょう」
ブロンはわたし前に跪き、胸元にブローチを付けてくれた。
「似合っています。ミリーの美しいグリーンの瞳は、母上譲りなのですね」
「そうなの。ブロン、本当にありがとうね。お金のことだけじゃなく、自分だけだと絶対ブローチは探し出せなかったわ」
「力になれてよかったです」
「ええ。神様って……いえ、ブロンってすごいのね!」
わたしが微笑むと、ブロンは少し寂しそうな顔をした。
「最近僕は、自分が神様じゃなかったら良かったなと思っています」
寂しそうな顔でそんなことを言うので、わたしは言葉に詰まってしまった。
「いえ、すみません。忘れてください。神様だからミリーに出逢えて、ミリーの役に立てたんですもんね」
「ブロン……あの……」
「さあ、帰りましょう。今夜はお祝いですね!」
ブロンは言葉を遮り、わたしの手を取って歩き始めた。
――もう一緒にいられないのかな。
そんなの嫌だ。たとえ流れる時間が違っても、生きている間は彼と一緒に過ごしたい。人間とか神様とか……そんなことはどうでもいい。
生きる時間が違う彼が、どう思うかはわからない。それでも家に帰ったら、自分の気持ちを正直に伝えたいと思った。
わたしたちは無言のまま歩いた。町を抜けるとさーっと風が吹き、サラサラと木々が揺れて気持ちがいい。
家の前に着き、鍵を開けようと立ち止まったその時。
パンッ……!
後ろから大きな銃声が聞こえ、驚いて振り向くと猟銃を持った叔父とアマンダが立っていた。
「この化け狐めっ!」
その言葉と同時に、まるでスローモーションのようにブロンが地面に倒れた。
「ブロン……ブロンっ!」
背中から血が溢れ、海のようにどくどくと流れ続けている。変化を保てないのか、耳と尻尾も現れた。
「本当に狐だったとはな」
「あんたがこんな美青年と暮らしてるなんて、おかしいと思ったのよ! あの日帰ったふりをして森から見ていたら、あの男が狐に変わったから驚いたわ」
あの時の森の中の物音は、彼らだったらしい。だが、わたしはパニックで他の人の声が耳に届いていなかった。
「死なないで。ブロン、ブロン……!」
わたしは傷口を手で押さえ、必死に呼びかけ続けた。
「ミリー……僕の意識があるうちに……願いを言って……」
「そんなのいいから! もう喋らないで」
「よく……ない。僕があげられる……さいごの……もの……だか……ら」
ブロンはこんな状態でも、わたしのことばかり考えてくれている。
「ミリーが狐に執心するなんて変よ。騙されてるのに、馬鹿みたい」
「馬鹿はあなたたちでしょ。どうしてこんなことを!」
ケラケラと笑っているアマンダをわたしは睨みつけた。
「あらぁ、あなたを助けてあげたんじゃない。それ素敵なブローチね。今回のお礼に私が貰ってあげるわ」
アマンダがわたしの胸元に手を伸ばした瞬間、ブロンは完全に白狐の姿に戻り彼女の腕に思い切り噛みついた。血だらけで襲いかかる様子は、獰猛な獣そのものだった。
「グルルルッ!」
悲鳴をあげているアマンダを助けにきた叔父にも同じように噛みつき、激しく威嚇をした。
「うゔっ……痛い……痛いわ……」
「この……化け物め!」
力が入らずだらんと伸びた片腕を押さえながら、二人は逃げて行った。それを見たブロンは、再び倒れん込んだ。
「ごめんなさい。わたしのせいでこんな目に」
わたしは彼を抱きしめ、大粒の涙を流した。
「嫌だ、死なないで。一人にしないで! わたし、あなたが好き」
「きゅー……」
「ずっと一緒に……ブロンと生きていきたいの。ブロンがいなきゃダメなの! お願い」
大きな声で叫ぶと、ブロンの身体が強い光に包まれた。ぶわっと風が吹き彼の体が宙に浮き始めた。
「これ……は」
光がブロンを飲み込み、それが解けるとさっき撃たれた傷が綺麗に治り人型になっていた。
「ミリー……」
「生き……てるの?」
「ミリーが一緒に生きたいって願ってくれたから、傷も治って……しかも人間になれた」
ブロンは嬉しそうに微笑んだ。まさか神様への願いで、彼自身を人間にするなんてこと思いつかなかった。
「良かったぁ……死んじゃったかと思ったぁ……」
「心配かけてすみません」
「ごめんね。あなたを巻き込んでしまって……」
「ミリーのせいじゃありませんよ」
「うゔっ……こんな感動的な場面なのに……どうして裸なのよぉ……」
わたしは泣きながら笑い、顔がぐちゃぐちゃになった。真剣な顔と、裸がミスマッチでおかしい。
「すみません。こういう仕様なので」
「はは、なんか間抜けな感じ」
「……ですね」
二人は見つめ合って笑った。そのまま家に戻り、血や土で汚れた身体を順番にシャワーを浴びた。
「完全に人間になったの?」
わたしは彼の顔を両手で撫で、頭も耳が出ないのか触って確かめた。ブロンは頬を染めながら、されるがままになっている。
「ええ。もう狐にもなれないし、耳や尻尾も出ません。でも、ミリーの大切な願いを使ってしまいました」
申し訳なさそうにしゅんとするので、わたしはにこりと微笑んだ。
「じゃあ、わたしの願いはブロンが叶えてくれる?」
「はい。僕はができることなら何でも」
彼の表情が、パッと明るくなった。
「わたしと結婚して!」
「けっ……こん。つ、番になるということですか?」
「ええ。嫌かしら?」
「します。したいですっ!」
ブロンは前のめりになって、そう叫んだ。
「ふふ、良かった」
「ミリー、大好きですよ」
「わたしもブロンが大好き」
彼はわたしを見つめ、ゆっくりとキスをした。何度も舐められたことはあるが、唇へのキスは初めてだ。
――少しくすぐったいわ。
ファーストキスに想いを馳せていると、彼はわたしを横抱きにして寝室に向かった。
「あ……あの……何でベッドに?」
「もちろん、番になるためです」
あまりに爽やかに答えるので、わたしは聞き間違いかと思った。
「ちょっと……待って。わたしたち気持ちが通じ合ったばかりよね?」
「はい。お互い愛し合っています」
甘い声を出し、彼はわたしのおでこにキスをした。
「は、早くない?」
「僕はミリーに助けてもらった日から好きでした。なので、早くはありません」
「でも……あの……シングルベッドだし」
「近くにいられて嬉しいです」
「いや、でも……」
「狐は妻に尽くす性質があるので、安心してください」
そのまま優しく押し倒され、ベッドがギシッと軋んだ。真上から見下ろしているブロンの美しい髪が、わたしの頬に柔らかく触れた。
「愛しています」
そのまま彼に全身を愛された。蕩けるような甘いキスをされるたび、身体の力が抜けていく。
そしてブロンの言葉に偽りはなく、尽くしに尽くされ……こちらが恥ずかしくなるくらいだった。
「ミリー、ずっと一緒にいてください」
「ええ。もちろんよ」
わたしが頷くと、彼は泣きながら笑った。お互い孤独で寂しさを抱えていたけれど、その隙間がピッタリと埋まったような気がした。
心も身体も満たされ、幸せな気分で眠りについた。
***
それから正式に夫婦になり、二人で暮らし始めた。
風の噂で……叔父家族が怪しい投資に引っ掛かり、借金取りから逃げるよう他の国に渡ったという話聞いた。
そしてわたしが内職の仕事をしていた意地悪な女主人の店も、あの日以来客足が遠のき潰れてしまったらしい。
「ブロン、もしかして何かした?」
「さあ、知らないな」
夫婦になったことを機に、ブロンは敬語をやめた。素知らぬ顔をしているが、きっと何か仕掛けたのだろう。
だが彼にはもう審美眼もないし、甘い果物を作ることもできない。つまり、以前のように稼ぐことはできなかった。
なので今はわたしが町で定期的に刺繍教室を開き、ブロンは形見探しの時にお世話になった宝石店で働き出した。
審美眼はなくとも整った見た目と元神様らしい品と先を見通す能力は、貴族を相手にする時に効果があるらしい。店主からブロンのおかげで売上が上がったと、臨時収入をもらってくることもよくある。
「ブロン、おかえりなさい!」
「ただいま、ミリー」
玄関まで出迎えると、彼は幸せそうに微笑んだ。
彼が人間になる前の方が裕福な暮らしをしていたが、今の生活が二人とも気に入っている。
「今日はブロンが人間になってももう十年だね!」
「ああ。何百年も生きてきたが、今がいちばん幸せだ」
目元に少しだけ皺ができた彼を見て、わたしはこれ以上の幸せはないと思った。
「ありがとう。ずっと一緒にいてくれて」
狐の神様だったブロンは、人間になった今もわたしの一番の願いを叶え続けてくれている。
最後までお読みいただきありがとうございました。
一人で頑張っても上手くいかない時、誰かが助けてくれたらいいなという気持ちで書きました。
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