差出人
続きです。少し長いですが、ゆっくりと読んで頂ければ幸いです。
とうとう、自分の番が来た。乱雑になった頭の中の思考を整理し、どんな質問にも対応できるように、何回も頭の中でイメージトレーニングをしながら、先生のいる廊下に向かった。
廊下はまだ少し肌寒く、静寂に包まれていて、その傍らに机の上に一人一人の生徒の進学先や就職先の情報が書かれているであろう資料が整頓され、まるで会社の上司のように佇んでいる先生の姿が見えた。
「お前、進路はどうするんだ?」
「クラスで、お前だけだぞ。進路がまだ決まてないのは」
それは今の自分にとって耳に痛い話しだった。
「まだ、時間はあるから、ちゃんと進路を決めとけよ」
「わかりました」
思ってたよりも話しは早く終わったが、とても不快に感じた。
将来のことなんて、簡単に決めれたら僕だって苦労しないのに、先生を恨めしく思った。やっぱり学校が嫌いだ。早く卒業したい、卒業して何も考えずに人生を謳歌したい、そんな淡い感情を抱きながら教室に戻った。
進路相談も終わり、下校時間になったが、今日は自分の掃除当番だった。
帰れるのは、4時当たりだろうか。今日に限って、もう一人の当番がお休みで自分一人で掃除をしなければなかった。がやがやしていた教室も次第に静寂に包まれていった。
でも今の自分にはこの瞬間が、心地よく、心が安らぎ、穏やかになれた。
全員分の机を教室の後ろに運び、ほうきを手に取り、床を掃き、集めたゴミを塵取りで回収し、机を元ある場所に戻し、掃除を終わらせた。
時計に目を向けると約束の時間まで、あと1時間しか残っていなかった。
僕は急いで、鞄を掴み、教室の鍵を閉め、職員室まで、息をするのを忘れるぐらい走りカギを返して、そのまま学校を出た。
約束まで、あと45分、僕は無我夢中で走っていた。
だが、僕は肝心なことを忘れっていた。手紙に書いてあった、僕の好きな場所について何も考えていなかったのだ。一つだけ、頭の中の奥まった記憶にうっすらと白い靄がかかっている、その場所がきっと自分の好きだった場所なのだろうが、思い出せない。昔どこかで行った場所だろうが、そこは本当に実在するのだろうか。ただの蜃気楼ではないかと自分でも己を信用できなかった。
畦道で立ち尽くしていると、道の奥の方で危機なじみの声が聞こえた。
声の正体は、母だった。赤みがっかた空、奥の道に母が手を振りながら、僕が来るのを待っていた。僕には時間が無かったが、何かヒントがもらえるかもしれないと思い、走って母のいるところに向かった。
「あんた、息が切れてるけど大丈夫?」
「あぁ、、、大丈夫、大丈夫」
「今日、仕事が忙しいんじゃないの?」
「思ってたより早く終わったのよ。今日はパートさんがたくさんいたから、早く上がってきたのよ」
「今日は運がいいわ」
久々に会話をするのか、とても楽しそうにしゃべっていたが、申し訳なかったが、僕には時間がなかった。
時間はあともう35分しか残っていなかった。
僕は母の話を遮って、僕が昔好きだった場所について聞いてみた。
「ねぇ、小っちゃい頃のことでもいいんだけどさ。俺がすごく好きだった場所とかってある?」
僕は狼狽しながら母に聞いた。
「そうねぇ、だいぶ昔だけど、あんたが幼稚園の時、私たちがよく行ってた公園とかかしらねぇ。昔、お父さんと一緒に滑り台を滑って、ブランコに乗ったりして、ずっとこの公園好き。ここでもっと遊びたいって言ってたわよ。」
僕は母の話を聞き、銅像のように固まってしまった。
母から父親の話を聞くとは思ってもいなかったからだ。父親がいたのは知っていたが、顔も覚えていなければ、背丈も覚えていない。僕からしたら赤の他人も同然んだった。
「あんた、聞いてるの?」
「ごめん、別のことを考えてた」
「え?あんた大丈夫?なんか悩み事でもあるの?」
「別に大丈夫だよ。そんなことよりその公園ってどこにあるの?」
「向こうに大きな池があるのよ。看板があるから大丈夫だと思うけど、その看板から見て、左の畦道をずっと行った先に公園があるよ。大体ここから30分はかかるわよ」
「30分か。ギリギリ間に合いそうだな。ありがとう、ちょっと行ってくるよ」
「夕飯には帰ってきなさいよ」
「わかった」
僕は母に言われたとうり畦道を全力疾走で辿った。
もしかしたら約束の場所ではないかもしれなかったが、欠けた希望を胸に走り続けてた。あたりも薄暗くなり、いつもように通っている道が薄気味悪かった。僕の身体を凍えさせるかのように冷たい風も吹いてきた。
差出人はまだいるだろうか。
そんな考えをしながら、僕は畦道を走り続けた。
午後6時、約束の時間から1時間も遅刻してしまった。
周りを見渡すも人の気配すらない、不気味な公園を足早に捜索し、人がいないか色んな遊具を周ったがやはりいない。すでに帰ってしまったのか。もしくは最初からここではなかったのか。相手に申し訳なかった。
僕は諦め、どうせ手ぶらで帰るなら自分が好きだった公園の遊具でゆっくりと、幼稚園児のころのように遊びまわり、今のこの心が躍るような気持ちを優しく抱きながら、僕の中の思い出の1ページに書き込んだ。
こんなしょうもない時間も、僕にとっては宝物でしかなかった。
この時間を誰かと一緒に過ごせればどれだけ幸せなのだろう。
今の自分にはもう遅すぎた感情なのに、一人でいるときにそんなことを考えてしまう自分が情けなくて仕方なかった。時間は帰ってこない、そんなの当たり前なことなのに、時間を戻したくて仕方なっかた。
あたりも闇に包まれ、風で木の葉もなびかれ、空気も少しづつ凍えてきたころ
そろそろ帰らないといけない時間になり、公園のベンチに置いてある荷物を取り、公園から出た時、一人の男がこちらに近づいてきた。
背丈が高く、僕の頭一つ分高い男だった。
「君かい?俺が出した手紙の受取人は?」
「そうですけど」
「いや、よかったよ。まだいてくれて、呼び出しといて遅刻してしまってすまない。なんせここに来るのは15年ぶりだからね」
男はとてもおしゃべりで、息を吸うようにどうでもいい話してきて、僕が聞きたいことが聞けずにいた。
「ごめん、ごめん、無駄話だったね。」
「こちらこそすいません」
何にもしていないのに謝ってしまった。
「あなたはだれなんですか?何で僕の住所がわかったんですか?」
「結論から言うと、俺は25年後の君なんだよね。それと君は俺だし、俺は君なんだから、住所ぐらい知ってて当然だろう?」
僕はこの男が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
何よりこの男の話が詐欺師のごとく胡散臭かった。
「君、もしかして僕のことを詐欺師かなんかだと思っているだろう?」
僕はギクッとなり、その男の顔が見れなかった。
「何で、僕の考えてることが分かったんですか?」
「同じ事を言わせないでよ。さっきも言ったとうり俺は未来から来た君なんだよ」
「そうですか」
僕は納得を仕切れなかったし、やっぱり半信半疑だった。目の前にいる男は本当に未来の自分なのか、はたまた、ただの変人なのか。なぜそもそも未来の自分が会いに来たのかだろうか。そんな憶測で頭がいっぱいになった。
「もう夜も更けちゃったし、車で送っていくよ。早く帰らないと母さんに怒られしまうからな」
その男の車は、僕でもわかるぐらい赤い色の高そうな車を公園の出入り口のすぐそこに止めていた。
「ありがとうございます。でも知らない人の車には乗るなと、母から言われてるので、走って帰ります」
「いやいやいや、俺は未来の君なんだよ?後それに君はまだ子供だろう?遠慮しないで乗っていきなよ。呼んでおいて遅刻した、俺にも責任はあるしさ」
「そんなのどう信じればいいんですか?未来から来たって証拠もあるわけじゃないのに」
「過去の俺ってこんな生真面目だったか?とりあえず乗ってってよ
未来の自分が何をしているのか気になるだろう?」
その話を聞き僕の心は少し揺らいでしまった。自分が未来で何をしているのか。どんな生活をして、どんな人たちに囲まれているのか。もし未来のことを既に分かっていれば、どれだけ楽に生きられるか。僕は自分の欲望に負けて、男の車に乗り込んだ。
車の中は、見た目のわりに狭く、トラックに詰め込まれた荷物のような気分になった。それと、この男が無事に家まで送り届けてくれるのかが不安で仕方なかった。少したって男も車に乗り込んだ。
「どうだい?俺の車の乗り心地は?」
「狭くて、とても息苦しいね。僕はあんまり好きじゃないかな」
「まだ、車の良さがわからないか。それじゃあ家に帰るぞ」
男の車はエンジンをふかしながら、僕の家に向かった。
僕にはまだわからないが、高そうな車が畦道を走っている光景は17年生きてきた自分にとっても見たことがなく、少しばかりシュールで口元が緩んでしまった。
「やっと、緊張がほぐれてきたかな?」
僕はハッとして、一番気になっていた未来のことを聞き忘れるところだった。
「僕は未来で何をしているんですか?幸せにくらせていますか?」
男は少し間をおいてしゃべりだした。
「申し訳ないけど、それは言えない」
「どうしてですか?乗ったら教えてくれるって言ったじゃないですか」
外にも響くぐらい、声を荒げて言った。
「すまないけど、本当に言えないんだ」
「何でですか?」
「もし君が未来のことを知ってしまったら、これから君は頑張らなくなるだろう?それとも未来のことを知れば、楽に生きられると思っているのかい?」
僕は黙りこくってしまった。この男が言っていることが学校の先生に似ているからだ。大人が言う言葉はなぜこうも寒々しいのか、僕よりも長く生きているからなのか。僕には分からなかった。少しの間、車内は時が止まったように固まり、空気もどんよりしていた時、男が口を開いた。
「まあ、そう生き急ぐなよ。お前はまだ時間がたくさんある。やりたいこともなくて、周りも見えない暗闇の中でお前はただひとりぼっちなのに、周りは既に進むべき道を理解して走り続けている状況に焦るのはわかるさ。でもその自分が進みたい道って言うのは案外近くにあるもんなんだぜ?」
「そうですかね?でもそんなのわからないじゃないですか」
僕は冷たく突き放した。もし自分のすぐそばにやりたいことがあればこんな苦労してない。そもそも自分のやりたいことって言うのはなんだろうか。
自分には到底理解できそうなことではなかった。
「確かにな。やりたいことが分かれば苦労しないよな」
びっくりして声が出なかった。この男は僕の心を見透かしているのか
もし心の声がずっと聞かれているのなら、僕はあまりいい気分になれなかった。
「何で僕の心の声がわかるんですか?なんかそういう心理現象でもあるんですか?」
「何回言わせるんだよ。俺はお前で、おまえは俺なんだよ。もうすぐ家に着くぞ。準備しろ」
男は少し機嫌悪そうに言った。男の車は僕の家のそばのチラシが貼ってある電柱に車を止めた。
「送ってくれてありがとうございました」
僕は深くお辞儀をした。
「おう、じゃあまた明日、お前の学校終わりにまた迎えに来るわ
やりたいこと一緒に探そうぜ。バイバイ」
「また来るんですか?」
男は既に行ってしまった。僕は玄関んを開け「ただいまー」と言って家に入っていった。遅い時間に帰ってきてしまったせいで、母に少し怒られてしまった。
あったかい夕飯を食べて、風呂に入って、布団に入り、自分が何がやりたくて、何になりたいのかを考えていたら、いつの間にか気を失っていたようで、もうすでに太陽が輝いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次で最後の章にしようと思ってます。




