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がらんどう姫が愛を知るまで  作者: 海城あおの


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21.自分が知らぬ間に

 


 早めに起きて、庭の野菜たちに水をやり、スープを作った。いつもならアレクの起床を待つが、彼と顔を合わせづらく、小屋から出てしまう。朝の光が満ちる森の中、私は早足で歩いていく。

 登城するまで、あと2日。それまでに、やらなくてはいけないことがあった。


 ロトゥスの朝も早いらしい。すでに何件かの店が開店しており、呼び込みする声が聞こえた。私は呼び込みの声に応えず、路地裏に入り、タンダの店へと向かった。

 古びた扉を開くと、「やぁ、今日は早いね」と片手をあげて出迎えてくれた。小さく頭を下げる。



「魔道具を作ってもいいですか」

「どうぞ~」



 椅子に座り、テーブルの下に置いてあった箱を開いた。そこにはターコイズ色と乳白色のいくつかの石と、革の紐が入っていた。石と紐を机の上に置き、魔法陣をテーブル上に展開する。石に魔力を込め終わったら、革の紐に通す。完成まであと2割というところだった。


 私が今作っているのは、アレクに渡すアクセサリーだ。

「戦闘で使えるもの」というリクエストは、数日間、私を悩ませた。属性への耐性、魔術の威力を上げるバフ、状態異常を無効にするもの……様々な効果が考えられたからだ。


 私は彼が戦っているところを見たことがない。

 魔術や精霊魔法を見る限り、全属性が使えるオールラウンダーだった。魔物との戦闘を見れば、何の属性に特化しているか分かったかもしれないが、見る機会はなかった。


 困り果ててタンダに相談すれば、「アイツは何でもできる器用貧乏タイプだね〜」と褒めてるのか貶しているのか分からない言葉が返ってきた。そしてアレクに何か魔道具を作りたい旨を伝えると、一瞬びっくりしたあと、「それなら」と口をニンマリと上げて言った。



「回復系の効果がいいんじゃない?」

「回復……」

「うん、敵に斬られてもお構いなしのタイプだからね。傷に関してもツバで舐めときゃ治るとか思ってそうだし」



 けらけらとタンダは笑っていたが、私は内心穏やかではなかった。

 切り傷でさえ放置すれば、悪化し、死に至る場合もある。アレクが傷だらけになり倒れているところを想像すると、呼吸が浅くなり、立っていられなくなるくらい苦しくなった。

 自分の魔道具で、少しでも命の危険が減れば──。そう思い、アレクに渡す魔道具作りがはじまった。


 効果が決まれば、次はデザインだった。

 タンダ曰く、短剣を使って戦うことが多いらしい。剣を握るときの違和を考え、指輪は候補から外した。戦闘中に外れる可能性があるためイアリングも選択肢から外れた。

 最終的に、小さな石を組み合わせたブレスレットになった。


 ターコイズと乳白色の石を組み合わせ、魔力を込めていく。

 ひび割れてしまうこともあったが、私は諦めずに魔力を込め続けた。


 額にじんわりと汗がにじむ。

 頭に浮かんだのはジャックの「ロトゥス浄化作戦」という言葉だった。自分が計画を止めるのを失敗した場合、王国で選ばれた魔術師や精霊使いが、ロトゥスに向かってくる。アレクにも危害が及ぶ可能性が高い。この2日間でできることは限られている。何としてでも完成させたかった。


 店に入ってから険しい顔で作り続ける私に、タンダは一つため息をついた。



「最近は楽しそうに作ってるなーと思ってたのに」

「……」



 若干呆れながら言われるが、唇を噛み締めることしかできない。

 彼の言う通り、アレクへのアクセサリー作りを通じて、魔道具作りの楽しさが少しずつ分かってきたところだった。


 石一つにしても、同じものはない。魔力の許容量も変わる。

 目の前の石を慎重に観察し、魔力を丁寧に込めていく。疲労は大きいが、達成感もある作業だった。


 何より、このブレスレットの完成が楽しみだった。

 アレクは喜んでくれるだろうか、身につけてくれるだろうか。渡したときの反応を考えるだけで、胸の内は喜びで満ちあふれた。

 だが──


「浄化作戦」の文字が、頭の中を駆け巡る。

 テーブル上にぽたりと汗が垂れた。早く完成させなければ。焦りが集中力を乱していく。目の前の石がピシリとヒビが入った。3個連続で失敗したとき、タンダから名前を呼ばれた。



「一回休憩しよう」

「いえ、私は」

「ひどい顔だし、そんなんじゃ一生完成しないよ」



 いつもの口調の中に、鋭さを含ませる。目の前にはひび割れた石が並んでいた。

 コーヒーをテーブルに置かれ、香ばしい匂いに少しだけ気持ちが安定する。礼を述べれば、「世間話でもしようよ」と笑いながら言う。タンダの言葉に頷き、マグカップを両手で包むように持って、一口だけ飲んだ。



「そういえばリディアちゃん、アレクから昔の話を聞いたの?」

「いえ」

「え、聞いてないの」



 目を丸くするタンダ。



「『昔の仲間と約束した』って言ったんだよね? 聞かなかったの?」

「……触れてはいけない気がして」

「あー……」



 椅子の背にもたれかかるようにして、天井を見上げた。


 刺客に襲われた自分を助けた理由を尋ねたとき、アレクは「昔の仲間と約束したから」と答えた。

 誰だったのか、どんな約束だったのか、知りたくないと言えば嘘になる。しかし彼の苦しそうに歪んだ表情を見て、私は口を開くことができなかった。



「聞いてもよかったのでしょうか」

「いいんじゃない? 過去を聞いたくらいで、リディアちゃんのことを嫌ったりしないよ。一緒に住んでるくらいだし」



 そう言って、首を左右に倒しながら伸ばす。コキコキと骨が鳴る音がした。

「嫌ったりしない」アレクの昔からの友人であるタンダからお墨付きをもらい、安心する自分がいる。


 同時に胸が苦しくなる。


 自分を助けた理由も、自分が封印していた過去を話したときも、アレクの言葉には「昔の仲間」を感じさせた。私は拳を握りしめる。この胸の苦しさの正体を、何日もかけて考え、私はひとつの感情に辿り着いていた。


(これは、嫉妬だ)


 アレクが語る「昔の仲間」への嫉妬。過去のフィルターを通さず、まっさらな状態で、あの灰色のまなざしを向けてもらいたかったと望んでしまう自分に気づき、愕然とした。



「アレクさんには、大切な方がいらっしゃったのですね」



 自分の言葉が嫌になる。

 アレクに大切な人がいることを、理解し、受け入れているような言葉。心は醜い感情で埋め尽くされているのに、口からは着飾った言葉しか出てこない。



「……そうだね、アレクにとっても、僕にとっても、大切な仲間だった。


 もう、死んでしまったけれど」



 タンダの言葉に、顔をあげて、目を見張る。

 彼は悲しそうに微笑んでいた。



「僕はね、君に感謝しているんだ」

「私に……?」

「うん。アイツが過去と向き合おうとしたのは、きっと、君のおかげだから」



 私は自分が小屋に運ばれてから、今までの出来事を振り返ってみた。

 衣食住を与えてもらい、精霊魔法について教えてもらい、様々な人との関わりを繋いでくれた。アレクからはもらってばかりで、自分は何も返してこなかった。


 首を横に振る。



「私は……何もしていません」



 自分の無力さに落胆し、声が沈んだ。そんな私とは反対に、タンダは笑い飛ばす。



「救おうとして、救えないこともたくさんある。

 でも、自分が知らぬ間に、誰かを救うこともある。そんなもんさ」



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