19.迫り来る悪意
デイビット視点です。
とても気分がいい。
コスフォルト国への侵攻を決めたと宣言した時、ほとんどの貴族が反対した。賛成したのはサラティア家の派閥の者だけだった。
「国交問題になります」「隣国から攻められる可能性も」反対派は口々に意見を述べた。
コスフォルト国へ攻めるメリットをいくら語っても、険しい表情が深くなるだけだった。
議会が終わったあと、「王は一体どうしてしまったのか」「カリス様の影響か」と囁く声が聞こえた。血がマグマのように煮えたぎるかと思った。自分への誹謗中傷なら構わない。しかし、カリスのことを悪く言うのは許さない。
王の権力やフレイユの情報を使い、反対する者は城から追い出し、時には王家の影の者に依頼して命を刈り取った。穴埋めの人選はカリスが手伝ってくれた。さすが我が妻だ。
日に日にコスフォルト国への侵攻に賛成する意見が増えてきた。気分が良い。
ただ一つだけ問題があった。
「やはり戦力が不足している……」
他国との戦になる場合、どこが戦場になるか読めない場合がほとんどだ。精霊がいない場合もありうる。
そのため魔術師中心で軍を組みたいのだが、圧倒的に人員が足りなかった。
コスフォルト国への侵攻を反対していた派閥が、ルーンベルト家の派閥が多かったのも理由の一つだった。あの派閥には魔術師が多い。
悩んでいると、慌てたようにフレイユが入室した。よほど焦っているのか、髪の毛が乱れている。
「ロトゥスへの視察隊の報告なのですが──」
「?」
「リディア・ルーンベルト様の魔力を感知したとのことです」
足先から頭まで震えが走った。ルビーのペンダントが浮かぶ。
一体なぜ?今までどこに?と唇が震える。顔面蒼白になる自分に、ノックの音が聞こえた。
こちらの返事を待たず、扉が開かれ、カリスが現れた。
「あれ? なんだか緊急事態ですか?」
「カリス──」
血の気が戻ってきた。
首を傾げる彼女に、リディアが生きていたことを伝える。
すると彼女は手のひらを合わせ、楽しそうに、とんでもないことを言った。
「呼び戻せばいいじゃないですか!」
「し、しかし……」
ペンダントを渡し殺そうとしたのは、この部屋にいる3人だけの秘密だった。
リディアが復讐のため、こちらに危害を加えてくる可能性もある。元王太子妃が戻ってきたとなれば、国が混乱するリスクもあった。
自分の不安を見透かしたように、カリスは言う。
「ロトゥスみたいな汚い街で暮らすより、お城で暮らした方が絶対喜んでくれますよう」
「だが……」
「このお城にリディア様の味方はいないですし、精霊魔法は使えないんですよね? だったら特に危険はないですよ」
ふふふと笑うカリス。艶やかな笑みに胸が沸き立ち、一筋の光が見えた気がした。
現在、城の重鎮はほとんどサラティア家の派閥の者だった。精霊魔法を得意とする者が多い。
城の庭には精霊たちが数多く暮らしており、精霊魔法の威力が強くなる。いくら王国最強の魔術師と呼ばれていたリディアでも、多くの精霊使い相手にケンカを売ることはないだろう。
彼女を中心に軍隊を編成し、ルーンベルト家の者を戦場に送り込めば、戦力不足の問題も解決する。
「リディア様には、国のために働いてもらいましょう!」
カリスの無邪気で愛らしい声。「素晴らしい案だ」と高揚する感情のままに立ち上がり、カリスの肩を抱く。
「きっとリディア様も国のために働けることを喜んでくれるでしょう」
少女のように可愛らしく喜ぶ姿を見て、胸がさらに高鳴った。
立っているフレイユに「視察隊に伝えてくれ」と述べ、命令する。
「リディア・ルーンベルトを呼び戻せ」




