表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がらんどう姫が愛を知るまで  作者: 海城あおの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/27

12.自分で決めろ

 


 全身に血液が激しく循環し、体が一つの心臓になったようだ。どくりどくりと鼓動が止まらない。立っていられない。血の気が引いていく。読みたくないのに、新聞の記事が目に飛び込んでくる。文字の一つ一つが毒のように体に入り込み、私の体を麻痺させていく。

 急に立ち止まった私を訝しみ、目線の先にある新聞にアレクは気づいた。



「タンダ。この新聞、もらってもいいか?」

「ん? どうぞー。もう読み終わったやつだから」



 アレクは新聞を拾いあげる。そして身じろぎ一つしない私を促すよう、手のひらで背中を押した。



「行くぞ」

「……はい」



 答えられたのは、それだけだった。


 帰り道、私の頭には先ほど見た新聞の記事がぐるぐると回っていた。

『カリス・サラティア』『亡くなった前王太子妃』『デイビット王は幸せそうに──』

 心の中では様々な感情が渦巻く。



「おい」

「……」

「……おい」



 強めに呼びかけられ、私はハッと顔をあげる。気づけば小屋の前にいた。

 アレクは先ほどの新聞を掲げる。



「リディア・ルーンベルト」



 ここ数ヶ月、呼ばれることがなかった名前。

 自分の中では薄らぎつつあった名前が、くっきりと浮かび上がり、城での生活がフラッシュバックした。

「立派な王妃になるため」というフレイユの言葉、私の魔術を見て拍手を送る貴族たち、その裏で「気味が悪い」と囁かれたこと、デイビットのガラス玉みたいな瞳……

 次々と浮かび上がり、胃液が逆流しそうになる。口元を押さえ、荒く呼吸をした。


 普段はほとんど感情を出さない私が、激しく動揺する姿を見て、アレクは静かに言った。



「やはり、お前さんの名前か」



「やはり」という部分が引っかかり、ぼんやりとアレクを見つめる。

 意図が伝わったのか、アレクは説明してくれた。



「お前さんが倒れていた数日後、崖上まで行った……燃え尽きた馬車に、ルーンベルト家の紋章があった」

「私が誰だか……知っていたのですか」

「なんとなく、だがな。だが先ほどの反応を見て、ほぼ確信が確信に変わった」



 小屋で過ごしている時、いつも浮かんでいた疑問が口から出ていた。



「なぜ、私を助けたのですか」



 王族だとわかれば、面倒ごとに巻き込まれるのは百も承知だろう。

 さらに自分は殺されそうになった身だ。助けるメリットが一つも思い浮かばない。



「約束したからだ」

「約束」

「遠い昔の仲間とな」



 これ以上は言うつもりがないとばかりに、口をつぐんだ。

 私は両手の拳を強く握り、うつむきながら、問う。



「私は、この先、どう生きていけばいいのでしょう」



 自分の人生は立派な王妃になるために費やされていた。

 教育も食事も、生活の全てが王妃教育の延長線上だった。

 しかし新しい王妃は見つかり、自分は死んだことになった。

 もし生きていたと名乗りをあげても、デイビットをはじめ、反対勢力が全力で阻止するだろう。もう自分が王妃になる道はないに等しい。


 この先、何を目標に生きればいいのか分からない。


 腕を掴まれた。はっと顔をあげると、怒ったように私を見つめるアレクがいた。息を飲んで彼の言葉を待つ。



「自分で決めろ」



 鋭い言葉だった。



「教育係もいない、王子もいない、しがらみもない──お前さんは自由だ」

「自由」



 今まで自分の意志で決めたことがなく、誰かが敷いたレールの上を必死に走ってきた。


「自由」


 魔の森で襲われた後だったら、きっと受け止められなかった言葉。この世界に私はいる意味はないと察し、自身の魔術で身を焼き尽くしていただろう。

 しかし今は──

 泉の周りで楽しそうに踊る精霊たちの姿が見えた、様々な匂いや言語が飛び交う熱気あるロトゥスの街並みが見えた、なんて事のない日常を嬉しそうに話すベロニカの姿が見えた。


 目の前には、灰色の瞳を持つぶっきらぼうな男がいた。



「は、い」



 消えそうなくらい小さな声で言えば、アレクは腕から手を離した。そして私の頬に触れるか触れないかの距離まで手が伸び、ぴたりと止まった。私は身じろぎ1つできずにいた。足から根が張ったようだ。心臓だけが何故か酷くうるさい。

 彼はそのまま手を下ろし、小屋の方へと振り返った。



「小屋に入るぞ。腹が減った」

「はい」



 私は頷く。触れられてないのに頬が熱くて、思わず指で押さえた。

 心の中にわだかまりはあった。しかし不思議と足取りは軽かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ