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ブラックデッド









 駅ですれ違うその人は、いつも喪服を着ている。


几帳面にも僕はいつも六時きっかり、丘の上の教会が鐘を鳴らす時に駅の前の植え込みに座っている。もちろん電車を待つためだ。

その女性は必ず三回目の鐘が鳴ると、僕の目の前をすれ違う。

「いち。にぃ。さ…」僕が三回目の鐘を数えようとしたら、いつもと同じように現れた。

-でも、喪服にしては変だよなー。

無駄な飾り気のない地味なスーツ。ゆったりと派手さに欠けたマーメイドドレスが、彼女の長身を誇張している。どちらも黒く、足元からわずかに覗く靴も、落ち着いた漆黒の革だ。

-なのに…

OLが着ていてもおかしくない上品な、そのスーツの隙間からは真っ赤な緋色のシャツがのぞいている。

-緋色といっても格好つけて言っているだけで、本当はもっと安っぽいビビッド・カラーの方が適切だけど。

それで、僕はどうしてシャツだけ赤色なのか聞きたくて仕方なかった。後はどうして毎日手ぶらでここを通って何をしているのかとか。何故か興味がつきなかった。

でもいつもは、一瞬すれ違ってハイ終わり。…なのだ。


いつもなら。


「左藤 翔左〔サトウ ショウサ〕…君?」

「はい。 ―え?」

反射的に返事をしてしまった。

その可愛らしい声が、背の高い貫禄のある女性から出たのだと思わなかった。

その上、まさか話しかけられるなんて…

「君が、左藤 翔左君だね!」

喪服の女性は、僕とすれ違った格好のまま―つまり背中を向けたまま僕に話しかけている。

「そうか!やはりね。 ところで、君は、左藤 右竜を知っているね?」


左藤 右竜〔サトウ ウリュウ〕


僕の双子の弟で、僕よりも遥かに優秀な人物だ。ただ、凡人に比べたらどっちも左藤財閥の傑物として平行に見られているから、こんな劣等感を感じているのは僕ぐらいなものだけど。

それを云うと、喪服の女が大きな声で笑いだした。

前髪をかきあげた姿勢のまま、額に手を当てて大笑いを始めた。後ろからでもそれがわかる。

「そうか、弟! あはははは!わたしとしたことが、トンデモナイ間違いを起こしてしまったようだ。」

「あの…」

翔左が何かを言おうとすると、喪服の女はくるりと、ようやく振り返った。

「わたしの名前は、小埜宮〔オノミヤ〕という。あと、2分だけ記憶に刻んでおいてくれ。」

驚いたことに喪服の女―小埜宮は翔左に手を差し出してきた。

「いいえ、僕が聞きたいのは、名前ではないんです。」

翔左がそういうと小埜宮は不機嫌そうな顔をした。その上に「名前を名乗れば、そうですか。それは、どうも。どうぞよろしくっていうのが日本人ではないのか?全く失礼だな。」とまで言ってきた。

勝手に名をなのっておいて…大体、この女の考えている日本人像は相当な偏見が含まれていそうな気がする。翔左は、そう思ったけれど無視して質問する。

「僕、この一週間、ずっと貴方が此処ですれ違うのを見ていました。」

「ふぅん」

くるりと振り返ると腕組みをしてこちらを見ている。三つあみにして、顔の横で垂らした前髪をいじりながら、興味深そうに笑う。

「貴方はいつも喪服ですよね?誰かが亡くなられてすぐならそれも良いんですが…どうして、中のシャツだけ赤色なんですか?喪服で赤は、良くない色ですよね。」

リードされていた会話を自分のペースに巻き込むのはなかなか難しかった。小埜宮は口元を、ニィっと横に広げる。

「ねぇ、君はどちらの高校に通っているのかな?」

「は?」突拍子もない質問だ。

「クラスは?友人関係は?」

「いきなり、何の―」

-あれ?

「思い出せる? 君、自分の通っている学校を思いだせないんじゃないのかい?」

あれれ…

「僕は高校生…いつも学校が終わったら、電車を待つのに植え込みに座って…」

「君はね、入試の日にここで、事故にあって死んだんだよ?」

「僕が…死んだ? うそだろ?」

翔左は自分の体をしげしげと見る。

「じゃぁ僕は幽霊か?」

でも足もある。体が透けていたりしない。

「自分で気が付いていないだけ?」

まるで暗い海に放りこまれたような不安感に襲われる。

「そうだよ。大体、自分が生きていた証拠なんて何処にあるんだい? だって、自分の通っていた学校も友人のことも思い出せないなんて、おかしくないかい?」

目の前に暗い影が出来たと思ったら、女が真正面に立っていた。鼻先が触れ合いそうなほどまで、近づいている。

「そんな…」

翔左は情けない声を出した。

「君はもう死んでいる。ただの亡者さ!」

「そんな馬鹿な!」

小埜宮の迫力のある発言に押し流されないように、小埜宮よりも大きな声で叫んだ。


「ぷっ


 あははははははは!!君ってやつは、何てからかい甲斐があるんだ。」

「な!?」

「思いだしてご覧よ。本当に…」

小埜宮は腹を抱えて笑っている。翔左は本当に不安になっていたものだから、その様子が腹立たしくなった。

「安心すれば良い。君は、今、ちゃんと生きているよ。」

小埜宮は、唐突に腕時計を確認した。

「さてもうすぐ約束の2分が経つね。」

「約束…?」

”わたしの名前は、小埜宮〔オノミヤ〕という。あと、2分だけ記憶に刻んでおいてくれ”

「そういえば、そんなことを言っていたっけ。」

「いや、はぐらかして悪かった。最後に君の質問に答えてあげよう。なぜ、わたしが赤いシャツを着ているのか。」

シャン! 突然耳元で鈴のような音がした。

「それはわたしが死神だからだよ。」

シャン! 今度は背後からも聞こえてきた。

「死神はオールモスト・エヴリィディ、人の死に出会っているから喪服は欠かせないのだよ。だけど、人間の為に我々死神が喪に服すなんておかしいと思うだろ?」

シャン! 音がしだいに大きくなる。耳が痛い。

「まぁ、わたしの家族がみんな赤色が好きっていうのもあるんだけどね。赤いシャツはただの趣味というか…。」

小埜宮が肩をすくめた。

うるさい! そう叫びそうになった瞬間、鈴の音が止まった。

「さて、2分だ。お祈りの時間も、懺悔の時間も、別れの時間も与えないよ。」

女は何処から出したのか一振りの斧を持っていた。

「斧宮、はじめさせて頂きます!」

勢い良く振りかぶって、翔左の体を薙いだ。体がまっぷたつになる。


しかし不思議と痛みはなかった。ただ、大事な何かが抜け落ちたような空虚感があった。

「どうして…?」

「どうして。何て、陳腐な台詞だ。それは、決められていたからだよ。」

斧宮は薔薇のモチーフがついた指輪で、翔左の体をなでる。

「お休み、左藤 翔左くん。」

翔左の体は石膏を割ったようにぼろぼろと崩れ去った。

「また来世で会おうか。」

小埜宮は斧を、何処かへしまうとその場から離れた。

「やれやれ。双子は反則だよ。間違えたせいで観測するのに余計時間がかかった。」

小さくつぶやくと、さっきの翔左のようにその場から消えてしまった。


あとには、何も残らない。





























小埜宮 有


または、斧宮 ユウ


暗闇へと突き落とすブラック・デッド


死神 篠宮家の長女にあたる―




《しにがみ ひとりめ》



何だか零崎家みたいですね。

(いきなりわからない人にしかわからない話をする。)


別に似せたつもりはなかったんですが…アレ?


とりあえず続くかも!多分!

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