第9話
旅の目的地が無いというもの味気ないので、取り合えず王都に向かう事にしよう。その途中の街でも魔法屋に寄って珍しい魔法球を買い漁るぞ!軍資金は金貨1万枚だ!!
街の門を出て30分ほど歩いた所で、俺はアイテムボックスから自転車を取り出した。
本当はバイクにしようと思ったのだが、バイクはエンジン音が五月蠅くて魔物が寄って来そうだったので諦めた。
雨天の事を考えると車という選択肢もあったのだが、まだ金貨を売却したお金が口座に振り込まれて無かったので買えなかった。
急ぐ旅でも無いのでサイクリングを楽しむ事にする。
索敵を使いながら自転車を走らせる。舗装されてない道なのであまりスピードは出せないが、それでも歩くよりは格段に早い。
時々、キラーラビットが索敵に引っ掛かるので自転車から降りて倒す。狩った魔物はアイテムボックスに収納する。
ウォーバッファローが出て来ても今の俺なら余裕で倒せるので旅は順調だ。
山道に入った所で遠くに見えた馬車が、襲われてるようだ。俺は身体強化を使い自転車を最大に加速し盗賊目掛けて突っ込んだ!
正しくはブレーキが間に合わず、盗賊にブツかる寸前に自転車をアイテムボックスに収納。俺は盗賊相手にダイビング・ボディ・アタックを入れていた。
「だ、大丈夫か?」
「はい!旅のお方こそ、大丈夫ですか?」
まぁ、戦場にロケットのように飛び込んで来て、盗賊に体当たりをするのはマトモな人では無いよな。
周囲を確認すると、馬車の護衛が2人。戦っている盗賊が1人。俺の攻撃で地面に転がっている盗賊が3人。
俺は剣を取り出して転がっている3人の盗賊の右腕を斬り飛ばした。
「何してくれてんだよ!可愛い子分達に!」
護衛と戦っていた大男が、怒りの矛先を俺に向けて来た。
遠くから見てもデカいとは思っていたが、3メートルはありそうだ。
「人間か? 巨人族か何かか?」
「巨人族を見た事無いのか。そりゃ俺が最初で最後の巨人族になるな。死ねぇぇぇ!」
棍棒のような物を振りかぶって攻撃してくるが素早さはそこまで無い。棍棒が振り下ろされる前にエアカッターの2連撃を叩き込む。
巨人族の両腕と両足を斬り飛ばして、顔が地面に近付いた所で頭部を踏みつける。
後ろが騒がしくなているので振り向くと、俺に右腕を斬られた3人の盗賊が護衛の2人に首を斬られている所だった。。
まぁ、こんな世界じゃ、それが正解なんだろうな。
「ありがとう。3人はアジトの場所を聞いてから殺しておいた。コイツはまだ生きてるのかい?」
「俺が襲われた訳じゃ無いからな。俺には恨みも何もない」
「あんたは甘いねぇ。いや、ラクに死なせないって意味じゃ、あたしよりも質が悪いね」
「俺は人殺しをやりたい訳じゃ無いからな」
俺は権力や暴力で一方的に蹂躙する奴が許せないんだ。それを止めれれば生死は関係ない。
とはいえ、魔物は大量に狩っているので最近はグロ耐性も上がってはいるが、未だに人を殺そうと思って殺した事は無いな。
「あたしは今からこいつらのアジトに向かう」
馬車の護衛は2人だ。残党が近くに隠れてる可能性もあるから1人は残る必要があるだろう。でも初対面の俺に馬車を任せる訳が無い。つまり“一緒にアジトを潰すか、ここから去れ”って事か。
「俺も一緒に行くよ」
「走るから付いて来な」
俺も跡を追って走るが、速い! 身体強化を使ってやっとついて行ける速さだ。
先を走る護衛が止まり木陰に隠れたので、俺もそれに続く。
「どうやら見張りがいるようだ」
「俺に任せろ」
「頼む」
俺は金貨を取り出して指で弾いた。
金貨の落ちた音に気が付いた見張りが拾おうと近付いて来た所を、土魔法で3メートルの落とし穴を作って落とす。
「あんた、土魔法も使えるのかい」
小屋の中には多数の人間がいるようだが、小屋の外は索敵の範囲内に人影は無い。
俺は扉をぶち壊して小屋に飛び込む。中の光景が瞳に映った瞬間、俺の中で何かのスイッチが入ったような感覚がした。
部屋に飛び込んだ俺に対して敵意を向けている男が5匹。裸の女が2匹。横たわったまま動かない人間が3匹。
オス3匹が武器に手を伸ばしたので、その3匹の両足を切断。
奥に居たオスが大声を挙げて立ち上がったので、両腕と両足を切断。
女と一緒にいたオスが女を盾にしたので、1本のストーンニードルを生成。ストーンニードルはオスのケツ穴から入り、先端が口から出た所で止めた。
「ふぅ。あとは任せて良いか?」
俺は一緒に来た護衛の返事も聞かずに、小屋の外へ出た。
☆
「今、少し良いかい?」
どれくらいの時間が経ったのだろう。俺が1人でボーっとしていると、護衛から声をかけられた。
「今回は助かった。相手が5人では、あたしじゃ勝てなかったかもしれない。それに生きてる女性が4人いた。まぁ2人は街までは持ちそうにないが、間に合って良かった。」
小屋の方には2人の女性が布を纏って座っているが、あの表情は以前も見た事がある。会社の若い後輩があんな表情をしていた。数日後に失踪して1週間後に川底から見つかった。
俺には心のケアは出来ないし、今の俺には他人を気遣う余裕も無い。それでも出来る事はしてやりたい。
「ケガ人がいるんだろ? 案内してくれ」
「こっちだ」
「・・・ヒール、・・・クリーン」
「なっ、回復魔法に生活魔法もか!」
俺は生き残った4人を癒してから、バーガーとお茶のペットボトルを配った。ペットボトルは開け方がわからないと思い、目の前で封を切ってから渡すようにした。
アジトの中の金品と盗賊の首は全て護衛に任せた。
その後、荷馬車が隠してあったので全員乗って元の街道へ向けて出発した。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。