第6話
ギルドから宿へ戻る途中、ガラの悪い3人の男に囲まれた小学生くらいの女の子と目が合ってしまった。
んーーー。トラブルの予感しかしない。
このまま見なかった振りをするのは簡単だけど、子供1人に大人3人は卑怯だよな。
「あのー。その子がどうかしたんですか?」
「誰だテメェは?」
「関係ねぇ奴は口出すんじゃねぇ!」
確かに関係無い。それは正論だ。ただ、弱い立場の者を一方的に責める事はブラック企業で虐げられてきた俺としては他人事とは思えないんだよなぁ。
「た、助けて下さい」
「この子は何をしたの?」
「こいつの親に金を貸してるから取り立ててるだけだ」
取り立ててるって言うけど、払えなかったら身売りさせる勢いだったよな?
「ちなみに、いくらだ」
「大金貨3枚だ。オメェが代わりに払ってくれるんのか?」
「借用書が有るなら払っても良いぞ」
男が懐から借用書を取り出して見せつけて来たので、俺は大金貨3枚を渡すと同時に借用書を奪い取った。すぐにトーチを唱えて借用書に火を点けた。
「なっ、何しやがる!」
「借金は無くなったんだ。借用書も必要無いだろ」
「それを決めるのはテメェじゃねぇ」
借用書が有る限り永遠に金をムシリ取ろうとしてたのか?いや、目的は金じゃなくて身売りさせる事だったのか?どっちでも良いが昔の上司を見ているようで本当にムカつく連中だな。
男が燃えている借用書を取り返そうと手を伸ばして来た。
「エアカッター!」
「ッ! あああぁぁぁぁ」
「ヒール」
男の腕を切断し、斬れた腕が落ちる前に回復魔法でくっ付けてあげた。
若干血の跡はあるけど、俺が攻撃した証拠は無いはずだ。
「テ、テメェ・・・」
「アニキー。魔法使い相手じゃ勝てねぇよ。金は返して貰ったんだし、命が有るうちに帰りやしょー」
ふぅ。なんとか穏便に済んだな。初めて回復魔法を使ったけど、結構使えるな。
「あっ、あの、ありがとうございます」
「あぁ良いよ。気にし、って何で土下座してるの?」
「あの、あたし、何でもしますから、言って下さい。あ、でも、痛いのはチョット苦手です」
少女に土下座させる40歳。誰が見ても犯罪の臭いしかしない。
てか、痛いのは苦手って俺をどんな目で見てる訳? さっきの借金取りよりも悪人だと思われてるのか? ショックなんですけど!
「じゃあ、とりあえず立って。家まで送るよ」
この子の名前はシャルティー、10歳らしい。母親がケイティーで父親は居ないらしい。
母親が病で倒れてから借金取りが頻繁に来るようになったらしい。
んー、回復魔法で病気も治るのだろうか。試してみようかな。
「ヒール」
母親に回復魔法をかけると、さっきまで咳き込んでたのにケロッと治ってしまった。ケガも病気も1発で治るのか。回復魔法が万能過ぎる事にビックリだ。
「あ、ありがとうございます」
「回復魔法が効いて良かった。これで大丈夫でしょ?」
「はい、ありがとうございます。シャルティーこの方はどなた?」
ここまでの経緯を説明すると、母娘そろって土下座になった。
俺にそんな趣味も性癖もないからね。勘弁して欲しい。
「俺は別に何かをして欲しいとか無いよ。たまたま金を持ってただけだから」
「でも、それではこちらが一方的に助けられた事になってしまいます。私達にできることなら何でもします」
んー、俺としては何も要求する事は無いんだけどなぁ。
俺はマジックバックから100円ライターを1つ取り出して火を点けて見せた。
「それは生活魔法のトーチですか?」
「いや、誰にでも使える道具だよ」
ライターを渡すと2人は悪戦苦闘しながら使い方をマスターした。最近の日本のライターは安全装置が付いた2段階着火だから慣れるのに時間がかかるんだよね。
「このライターが沢山あるから2人には露店で販売して欲しいんだけど、良いかな?」
「はい。勿論お手伝い致します。でも、こんな高級な魔導具が露店で売れるでしょうか」
「んー、銀貨1枚なら売れるんじゃないかな?」
「え?」
1パック3本入りの100均のライターだから、仕入れ値は1個当り37円。銀貨1枚は1000円相当だからこの値段じゃ流石に売れないかな。
「あのー。銀貨5枚でも売れると思いますが」
マジで? 銀貨5枚って5000円相当だよ。原価率1%未満だよ。これで売れたら詐欺だよ。まぁ売るんだけど。
「じゃあ、このマジックバックに3本入りが100個入ってるから300本全部売ってくれるかい?」
「はい。明日商業ギルドに申請してすぐに販売します」
母娘して良い笑顔になった。ダブル土下座された時は困ったが、これで丸く収まりそうだ。
と思っていると、家の外がガヤガヤと賑やかになって来た。外を見ると見覚えがある3人組がいた。
「おう!さっきはよくもヤッてくれたな!」
「こっちもやられっ放しじゃねぇんだ!」
「さっさと外に出て来い!」
五月蠅い奴らだな。なんだろうな、この気持ち。以前もどこかで・・・、あ!
上司のミスを指摘したら、ミスを見つけるのはお前の仕事では無いと言われて1カ月トイレ掃除を言い渡された時と同じ気分だ。
なんだか無性に腹が立って来た。2度と俺の前にもこの家にも近付かないように、思いっきりヤッた方が良いな。
俺はシャルティー達をおいて外に出た。
「魔法を使われてもいいように、こっちも先生を用意して来たぜ」
先生?魔法使いの事か?後方に居るヒョロッとした男の事だろうか?
俺はヒョロ男の真横からエアハンマーを起動させて魔法使いの意識を刈り取った。
「先生って、魔法使いの事か? 何処にいるんだ」
「先生、やっちゃって下さい! あれ?先生? センセイ? センセーーー!」
「先に魔法使いを攻撃するなんて、卑怯だぞ!」
「いや、大勢で来る方が卑怯だろ」
3バカが狼狽え始めたので、リーダーっぽい男の両腕をエアカッターで切断する。その後、逃げようとしたザコAとザコBはエアカッターで両足を切断した。
まずはリーダーっぽい男に声をかける。
「俺にも、この家にも今後関わらないと約束するなら、両腕を治してやる」
男は泣きながら頷くので、右腕には左手を、左腕には右手をくっ付けてヒール。
ザコAとザコBの足も同じように治してあげた。
最後に色んな物でグチョグチョになってる3人をクリーンできれいにして返した。
後ろを振り向くと、母娘2人して王子様を見るような眼で俺を見つめているが、俺は40のオッサンだぞ!
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。