第20話
久し振りに日本へ戻った俺は、明日からの旅支度の為に食料を購入しにまわった。
バーガー屋では、いつも通り白い目で見られながら大量注文をする。
弁当屋は、今回はパス!代わりにスーパーで総菜や寿司など生ものも買ってみた。
俺の住んでるボロいアパートの買取の件でまだ連絡が来ない。既に手続きをしてから日本時間で数日が経ってるはずだ。名義変更が完了しないとリフォーム会社も仕事を始められないだろう。
不動産屋へ行くと担当が困った顔で現れた。どうやら、俺との売買契約を締結する前に近隣一帯の再開発の話しが持ち上がったようで大家が売る事を渋り始めたらしい。
これは、マズい!
大家が売る売らないは、この際どうでも良い。問題は再開発が決まればアパートの取壊しは確定だ。
しかし、再開発事業なんて巨大プロジェクトを止める方法なんてあるのか?
こりゃあ、困った。でも何とかしてアパートだけでも取壊しを防ぐ方法を考えないと!
「知ってたら教えて欲しいのですが、再開発を進めてる中心の企業はどこですか?」
「まだ公になってませんが、佐倉木カンパニーが取り仕切ってるようです。当然そのバックには佐倉木コンツェルンがいると思われます」
佐倉木?って以前勤めてたブラック企業も取引してたあそこか。取引というよりは孫請けの孫請けくらいだったけど。
「今回の再開発に税金の投入を進めてる議員が、地元の我々ヶ阪議員です。議員のホームページに堂々と記載されてますよ」
マジか。公的資金が採決されたら、もう後戻りできなくなる。これって、俺1人でどうにか出来るような問題なのか?
「そぅ、ですか。状況はわかりました。何か新しい情報が見つかったら連絡下さい」
俺は不動産屋を出て、その足で法律事務所へ行って相談する事にした。
結論から言えば、法的に出来る事は殆どない。アンケートとか勉強会とか陳情とか、そんなんで止まるなら苦労しないよ!
奥の手として、市長や知事の鶴の一声で白紙に出来るらしいけど、現職の市長も知事も我々ヶ阪議員と仲が良いので無理!
正攻法では止めれない事がわかった。
ので、
本当はしたくなかったけど探偵事務所に依頼する事にした。勿論、他事務所との連携も積極的に行って貰う。金なら有るんだ!上限1億円での依頼だ!
第一目標は再開発を止める算段を付ける事。
第二目標は佐倉木コンツェルンの弱点を探す事。
俺は異世界には行かずに、調査依頼の結果を日本で待つことにした。
☆
調査依頼を出して3日が経った。俺は今国立がんセンターに来ている。
病院の中を適当に歩きながら、患者っぽい人に鑑定を使って病状を見ている。がんセンターだけあって、殆どの人のステータスに“癌”の表記がある。
1人で座っている爺さんを見つけた。周りには誰も居ないので好都合だ。そっと近づいて「ヒール」を使う。もう一度鑑定を使うと“癌”の表記が消えていた。実験は成功のようだ。
さて、これからが本番だ。
目的の人物は特別室に入院していた。索敵を使い室内に1人しかいない事を確認してから中へ入る。
「少しお話いいですか?」
「なんだ!おまえは!」
「癌が治せるとしたら、何を払いますか?」
「は?そんなことができるなら1億でも2億でも払ってやるよ」
「私が欲しいのはお金ではありませんが、まぁ“貸し”一つで良いでしょう」
「ハッ、まるで詐欺師だな」
「それは治った後に判断して下さい。『ヒール』」
☆
コンコン
「失礼します」
「入りたまえ!」
「お元気になられたようで良かったです」
「5日ぶりだな。あの時は詐欺だと思ったが本当に治っていたよ。どうやったのか教えて貰えるのかね?」
「それは、お聞きにならない方が宜しいかと」
「うむ。それにしても名乗りもしないで出て行くから探すのに苦労した」
「たった5日でバレるとは、流石佐倉木カンパニーですね」
探偵事務所からは随時、佐倉木コンツェルンの不祥事に繋がるようなネタが上がってきていた。だが、不倫や収賄、脱税では週刊誌のネタにはなっても他企業を巻き込んだ再開発プロジェクトを止めるには不十分だと思っていた。
3日目に佐倉木カンパニーの会長が病気療養中という報告が届いて俺は動いた。脅しではなく、感謝という鎖の方が効力が高いと思ったのだ。
会長1人だけでなく、その家族や会社の重役達もに感謝の鎖を使おうと思って名乗らずに時間稼ぎをしたが、思ったよりも早く見つかってしまった。
「それで、報酬は何が欲しいのだ。私を佐倉木と知って治療したのだろ?」
俺は再開発の事、俺が買おうとしているアパートの事を説明した。勿論、押入れの扉の事は内緒だ。
「要求はわかった。だが佐倉木カンパニーだけでは計画の白紙や変更は出来ない。再開発には大刀御門建設が多大な出資をしている。そこで、だ。もう1人治療して貰えないだろうか」
「どういう事でしょうか」
「大刀御門建設の前会長だ。既に90歳を超えているが長い間闘病生活をしている。“貸りは死んでも返す”が若い頃の口癖だった男だ。君の力になってくれるだろう」
☆
更に5日が経った。再開発計画は大幅に規模が縮小される事になった。アパートの周辺は再開発の対象外になった。
その知らせを持って来たのは、いつもの不動産屋だった。気が付いたらアパートと土地の所有者が俺になってたそうだ。
たぶん、大刀御門の金で 佐倉木が手を回したような気がする。
タダでアパートが手に入ったので、俺としては良かった。これでリフォームが始められる。
ちなみに、探偵事務所は実働9日間で4800万円の請求が来たが一括で払ってやった。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。




