第17話
宿の食堂で朝食を食べていると、お嬢様から迎えが来た。俺だけ領主の館に来い、とのことだ。
嫌な予感しかしない。だが、既に迎えが来ているし、伝言を聞いてしまったので逃げる訳にもいかない。
「テーブラ、クロッチ、ちょっと行ってくる」
俺は食事も早々に馬車に乗せられて領主の館へ向かった。
案内された部屋には、お嬢様と領主らしき男性が待ち構えていた。
「初めまして、エイジと申します」
「まぁ。座りたまえ」
「さて、何の事で呼んだか察しは付いているだろ?」
「商売の事でしょうか?」
「聞く所によると、前の街には爪を切る道具や美しくする道具を渡したそうじゃないか」
「はい。確かに領主様に購入して頂きました」
「うむ。この領地にも特産になる物が必要だ。他の領地には無い、新しい物はないか?」
無茶振りにも程がある。これってお嬢様が“自分の子飼いに言えば領地が潤うわ”って感じで自分の株を上げようとしてるだけだろ。俺は護衛で雇われただけだ。個人的な政治の道具に使うんじゃねーよ!
「・・・ございません」
「なに?」
「なっ、なんじゃと!おぬしなら何か持っておろう?そのバックに何か入っておるのだろう?」
「・・・お嬢様、私は護衛として雇われて、ずっとお嬢様と一緒に旅をしてきました。商品を仕入れる時間なんて有りませんよ」
「商人は物を売るのが仕事であろう。物を売らずしてどうするのじゃ」
「ですから、護衛でお嬢様と一緒でしたから、売る物を買う時間が有りません」
「おぬしが買う買わないは関係無いじゃろ!売らない理由を妾のせいにする気か」
ダメだな。言葉は通じてるが話しが通じないタイプだ。昔の上司と同じだな。
「売らない、のではなく、売れない、のです」
「だから、なぜじゃ」
「商品が無いからです」
「おぬしの不手際で、妾にドロを塗るという事じゃな!」
なんでそうなる?意味がわからない。
俺は護衛として雇われたんだ。無い物を売れと言われても無茶だ。それにこの無茶振りに対応したら、今後も街に寄る度に毎回新しい物を用意する必要がある。
お嬢様の“見栄”の為に俺が苦労するのは納得がいかない。そんな我がままには付き合え切れないぞ。
俺の事を“便利な道具”と思ってるような権力者とは、仲良く出来る訳が無い。
「申し訳ありません。商品を探しに旅に出ますので、護衛はここまでとさせていただきます」
「な、何を言っておるのじゃ」
「私は護衛として雇われたのに、商売をするように言われても困ります」
「妾が商売をして良いと言っておるのじゃ、何の問題がある」
問題、大ありだ!!仕入れをしないで売り続けろ!って頭がどうかしてるだろ?
こんなアホな雇い主がいるから、本来はギルドを通して依頼を受けるんだろうな。
権力持ってるアホが手に負えないのは、日本でも異世界でも同じだな。
「もう雇って頂かなくて結構、今日までお世話になりました!」
「!おぬしを雇ったのは間違いじゃった。さっさと出て行け!」
☆
「って事で、護衛を辞めてきた」
「エイジはこれからどうするのよ」
「最初の目的地は王都だったから、王都には行くつもりだ」
「にゃら、また会えるかも知れないにゃ」
「そうだな、また会おうな」
「いつ街を出るつもりなの」
「あぁ、この宿はお嬢様にバレてるから、今から違う宿に移って明日の朝には街を出ようと思う」
「報奨金はどうするのよ」
「そうにゃ、かなりの金額になると思うにゃ」
「俺の分は2人にあげるよ。あ、出来れば助けた女性にも分けてあげて欲しいな」
「お人好しが始まったにゃ」
「・・・助けた女性の件はわかったわ。でもエイジの分は預かるだけよ。だから必ず、あたし達の所に受け取りに来なさい」
「そうにゃ、また会うんだからその時に渡すにゃ」
通信手段の無い異世界で旅をしながらもう一度会う事なんて、ほぼ無い。
同じ街に居ても偶然すれ違うしか探す手段が無い。
この世界において、旅人は一期一会なんだ。
「そうか。そうだな。それじゃあ、一旦これでお別れだ。また会おうな!」
「また会いましょう」
「また会うにゃー」
☆
俺は新たに宿を取って部屋に入ると、扉を出して日本へと帰った。
明日からは一人旅だな。やっぱり少し寂しく感じるけど、これが本来の形なんだよな。
取り合えず日本に戻っては来たが、このアパートの購入の件は連絡待ち。アパートのリフォームの件は見積作成中で連絡待ち。税理士には話してあるので問題が有れば連絡が来る。
うむ。やる事が無い。
アイテムボックスに金貨が4000枚を超えてるけど、売却した所でそんなにお金は必要ない。
失業保険の手続きはしてないけど、金は有るし再就職もする気が無い。手続きする必要あるのか?
アイテムボックス内の食料は、まだ殆ど減ってない。
やはり、やる事が無い。
そう言えば、ベンジョオは強かったな。旅を続けるなら、もっとレベル上げしないと不安だ。
しばらくは異世界で武者修行というか、レベル上げをしよう。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。




