あるタクシー
「うぃっく、うっく、おえっ」
「お客様、どちらまでお運びしましょうか」
「テキトーにたのむよぉーん」
「目的地をお願いします」
「いいからはしれっちぇーんだよあっちゃんたんたん!」
「かしこまりました。では夜景が美しいコースを走りましょう。
おすすめですよ。安全のため、シートベルトをお願いします」
「あいあいあーい! おさーるさーんだよーん!」
「よろしければ後部座席の前に取り付けてあるモニターでお好きな番組をお楽しみください」
「ほいほーい! えっちなのみよーっと! あん? ないのかぁ? おらっおらっ! エロいの映せ!」
「お客様、座席を叩かないでください」
「うるせぇーんだよぉてめぇ! 黙って言うことを、あん? ……おい、嘘だろ、ひ、あ、あああああああ! おろ、おろせ! おろしてくれぇ!」
「お客様、走行中はドアが開かないようになっています」
「い、い、いいいからあああ、あけろ! と、止めろ! ひいいい! ゆ、ゆう、ゆうれ」
「停車しました。料金は――」
「いいいからおろせよぉぉぉぉぉ!」
「お支払いにならなければ、このタクシーからお降りすることはできません」
「ふ、ふざけんな、この! この! あ、ああああああ」
「……ねえ、あのタクシー、なんか変じゃない?」
「んー? あ、嘘! 珍しい! 最新式のやつじゃーん! 初めて見たぁー!」
「え、そうなの?」
「そうよ、無人タクシー! AIの自動操縦のやつ! 空いている道とかおすすめの店とか全部データが入ってるんだって! いいなぁ」
「へぇー、あたし、幽霊タクシーかと思っちゃったわ」
「ふふふっ! もう、そんなわけ、あ、あれ? でも変な動き」
「そうね、前に進んだり下がったり、滅茶苦茶揺らしてるね。まるで、怒っているみたいに……」