正体
上限坂は考える。今自分にできる事を、悪魔をどのようにして見つけ出すかを。
「おそらく、SNSを利用して悪魔はすり寄って来るのだろう。SNSの情報で相手を見つけ出すのは無理だ。だからと言って警察に言っても無駄だろう・・・いや、本当に無駄なのか?悪魔の存在は信用してはくれないだろう。しかし、ヘイトコメントで苦痛を受けたと被害届を出せば警察は捜査してくれるのではないか?いや、今の状況だとそれも難しいだろう。そんなに簡単に警察は動かないはずだ。どうすれば良いのだ・・・」
答えは見つからない。異世界人が使徒の手によって何人も命を絶っている。しかし、世論は自己責任論で片付けてしまっている。そんな現状で警察がすぐに動く事は無い。世論の後押しの無い事に積極的に警察は介入する事は無い。
「SNSをしていない俺に、これ以上悪魔は手出しする事はできないはずだ。このまま、身を潜めれば俺は星夜のように死を選択する事はないだろう。しかし、これは星夜の敵討ちをするチャンスでもある。俺は星夜を殺した悪魔を見つけ出すと誓った。しかし、すぐに行動に移す事が出来るほど俺には勇気はない。会長に推し進められてしかたなくオーディションに参加したら、予想通りに悪魔が俺を襲ってきた・・・。ちょっと待てよ。なぜ?俺はオーディションに選ばれたのだ。俺はマネキンと揶揄される今の時代の真逆の方向で進んできた。地道な努力のかいもあり仕事も増えてきたが、オーディションに招待されるほど俺に魅力があったのか?今回のオーディションを管理しているのは鳳凰事務所のはずだ。ライバル会社のモデルを鳳凰が選ぶ理由はあるのか?SNSをやらない異物の俺が、傲慢な鳳凰が出演依頼を出すはずがない。そういうことか・・・」
鳳凰も雷鳴も使徒である事がバレないように、あらゆる手を使ってヘイトコメントの出所を細工をしていた。しかし、力を注いでいたのはヘイトコメントだけである。鳳凰は大きなミスを犯してしまったのである。鳳凰がライバルとなるダイヤモンド事務所所属のモデル、しかもモデル界の異物の上限坂を招待するのは誰の目から見てもおかしかった。鳳凰はマネキン活動で力を付けてきた新人にチャンスを与えるとの名目で上限坂をオーディションに招待した。ダイヤモンド事務所にとっては願ってもない幸運が舞い込んできたので、事務所の会長は無理やりにでも上限坂をオーディションに参加させた。世論も鳳凰の粋な計らいに賛辞を述べた。しかし、悪魔の存在をしっている上限坂には、悪魔の寝床への招待だと気付いてしまった。
「羅生天 鳳凰・・・お前が星夜を殺した悪魔だったのかぁ~!!!」
上限坂はベットのシーツに口を抑え付け声が外に漏れないように大声で叫ぶ。しかし、溢れる怒りの感情を抑える事ができない。今すぐにでも鳳凰事務所に殴り込んで星夜の敵討ちをしたい。そんな気持ちを抑えるために目に涙を浮かべながら、何度も何度も叫び続けていた。
「悪魔の正体はわかった。でも、これからどうする。ヘイトコメントを使って星夜を殺したと警察に言っても信じてもらえないだろう。俺が鳳凰事務所に直接乗り込んだとしても、俺は鳳凰を殺せるのか?そんな事ができるわけがない。俺は星夜の仇を取りたいと思っている。しかし、何をもって星夜の仇になるのかわからなくなった」
実際に手を下していたのは雷鳴であるが、鳳凰が星夜を自殺に追いやった黒幕であることは明白である。上限坂の推察は当たらずとも遠からずである。しかし、ここで問題が発生する。まず、鳳凰が星夜を自殺に追いやった証拠はないし、直接鳳凰や雷鳴が星夜を殺したわけでないので、警察が捜査することはないだろう。悪魔の目星はついた。でも、何をすべきかわからない。それが上限坂の心境である。
「俺に何が出来るんだ。しかも、俺一人で・・・」
この時上限坂にある疑問がよぎった。
「そうだ。俺と星夜以外にもこの世界に連れて来られた異世界人がいるはずだ。そいつらと協力すれば何か良い手が見つかるのじゃないのか?」
1人では出来ない事も2人なら出来る事もある。そして、その数が増えれば増えるほど無限の可能性が増える。
「あのオーディションで俺のように精神的におかしくなったヤツがいれば異世界人である可能性が高いはずだ。五月雨に電話で聞いてみるか」
上限坂はすぐに五月雨さんに電話をして、オーディションで体調を壊した者がいないか確認をした。しかし、上限坂以外に体調を壊した者はいなかった。俺は【不屈の心(銅)】のおかげですぐには精神ダメージを受ける事がなかった。そのため、オーディションが終わった後も平然としていたのである。もし、俺がオーディション内で体調を壊していれば、上限坂と協力した未来が待っていたのかもしれない。だが、【不屈の心(銅)】のスキルを持っていたために、その未来が来ることはなかった。




