第二の作戦
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「昴君、早速だけど今からYチューブの撮影をするわ」
「うん、うん」
「わかりました。すべて鼓さん達に任せます」
笑さんが立てた作戦を成功させるためには鼓さん達の言う通りに動くしかない。俺達は2階にある撮影室に向かった。
「笑、最初の動画は何を上げるつもりなの?」
「謝罪動画!」
「それになるわね。昴君は予定通りオーデションで炎上して退場したから、その謝罪動画を撮るのはセオリーね」
「うん、うん」
「台本はあるの?それとも昴君の言葉で謝罪をするの」
「台本ある」
「昴君、笑が動画の台本を作っているみたいだから目を通してくれるかしら」
「うん、うん」
「わかりました」
俺は笑さんから台本を受け取り内容を確認する。
「本当にこれでいいのですか?」
俺は台本の内容を半分ほど読んで違和感を感じた。しかし、Yチューブの素人である俺が余計な口出しをして良いのか迷いながらも意見をした。
「問題なし!早速撮影をするわ」
笑さんがカメラを構えて撮影を開始する。
「笑に任せるわ」
鼓さんも笑さんを信頼しているので台本をチェックせずに撮影を開始した。
「今日からYチューブを開設することになった六道 昴です。年齢は15歳で今年から高校1年生です。身長は178㎝体重は58㎏です。駅のホームで偶然知り合った女性の紹介でシルバー事務所に所属することになり、いきなり今日モデルオーディションに参加しました。オーデションの配信を見て下さった方は結果はご存じだと思いますが、残念ながら不合格となりました。オーデションの内容も他のモデルや視聴者様からたくさんのクレームを受け、自分がモデルとしての意識の低さに気付かされ反省をしています。僕のような人物はモデルになるよりも、専業主夫として生きていくことが良いと思いました。幸運なことに僕の側には天使のようなやさしさと笑顔、そして美貌を備えた女性がいます。僕は一目見た時からその女性の事が好きなり、永遠に共に過ごしたいと感じました・・・あの~鼓さん、この台本で良いのでしょうか?」
「完璧よ。これからもっと良い場面になる」
「ちょっと待って、なんか展開がおかしいわ」
笑さんは真剣な眼差しで台本の続きを読むように勧めるが、鼓さんはいぶかしそうな目で困惑している。とりあえず俺は続きを読んでみる。
「笑さん、僕と結婚してください。そして、子供を作って幸せな家庭を作りましょう・・・」
「カット!」
鼓さんの声が室内にこだまする。
「ダメ!今めっちゃ良い所。昴君止めずにセリフを読むのよ」
笑さんも負けずに大声を出す。
「昴君、台本を見せて!」
鼓さんは俺から台本を取り上げる。
「・・・」
鼓さんは台本に目を通す。
「笑!これはどういうことなの」
鼓さんが笑さんに詰め寄る。
「・・・」
笑さんは堤さんの視線を避けるように上を見て視線をそらす。
「台本の題名がプロポーズってなっているわ。一体何を企んでいるのよ」
「バレたら仕方がない。つづみんが撮影した動画には、昴君から私へのプロポーズの言葉が映っている。これを証拠として私と昴君は結婚するの。婚姻届け作戦は失敗したけどプロポーズ作戦は大成功よ」
笑さんはドヤ顔で言い放つ。
「さっきも言ったけど結婚は18歳にならないと出来ないの」
「わかっている。とりあえず言質を取った。昴君が18歳になったら結婚する」
「無茶を言わないの。昴君が困っているでしょう」
俺はあまりの出来事に動揺して言葉が出ない。初めてのYチューブ撮影で、鼓さん達の言われるがままに原稿を読んだだけなのに、笑さんと結婚することになってしまった。
「昴君、お金には苦労させない。私の母は大金持ち。遺産は全て私のもの。二人で優雅な暮らしをしよう」
笑さんが住んでいる松井山手のマンションは、賃貸ではなく笑さん名義の持ち家だ。笑さんと結婚すれば何不自由ない生活をおくる事ができるだろう。それに、笑さんは文句の付け所のない美人だ。結婚を断る理由など何一つ見つからない。以前の俺の人生は家に引きこもって女性を知らずに死んでしまった。第2の人生は始まったばかりなので、いろいろとチャレンジしてみたい事もある。しかし、笑さんと結婚してのんびり過ごすのもありだろう。俺は笑さんの誘いを快く受け入れようと考えていた。
「あ!笑、ごめん。録画した動画間違って消してしまったわ」
鼓さんが舌をだしながらおちゃめな顔をする。あきらかに意図的に動画を削除したのはみえみえである。
「憤怒!!!」
笑さんは顔を真っ赤にして怒る。
「はい。キュウリ」
鼓さんはすかさずキュウリを笑さんの口に突っ込んだ。
『ボリボリ ボリボリ』
「うまぁ~」
笑さんは満足げに笑みを浮かべてニコニコしている。
「昴君、笑がくだらない事をしてごめんね!動画は削除したから安心して」
鼓さんはニコリと笑顔を俺に見せるが俺は複雑な気分で愛想笑いをした。
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