エピソード1
「ふんっ……!!」
梅は渾身の気合いを込めて掴み取ったおみくじを開いた。
確認する項目はただ一つ、「恋愛」。
黒目がちな瞳を動かし、その項目を見た瞬間、梅は沢山の観光客が賑わう、立派な社に向かって叫んだ。
「ふざけんなぁああああああぁああああ!!!!」
全国各地から縁結びなどのご利益を求め、沢山の観光客が集まる日本一有名な神社の片隅で、梅は堪らず怒りを爆発させていた。
全国の恋愛成就のご利益があると言われている神社を巡り幾星霜…神々に祈りを捧げ、おみくじを引くが、何処の神社でも神の答えはただ一つ。
恋愛…無理。By神
「なんでじゃあああ!!そこはせめて"ひかえよ"とかにしとけよぉぉおおおお!!」
梅が半泣きになりながらぐしゃぐしゃとおみくじを丸め、綺麗に掃除された神社の地面に叩き付けると、すぐに白い着物を着た長身の男が投げ捨てられたおみくじを拾い上げた。
「あ、ごめんなさい!それ私のです…」
男の出現に冷静さを取り戻した梅は、すぐに頭を下げて謝罪した。
しかし男は、そんな梅に「それはいいから説明させて」と梅の顔を覗き込んだ。
「あっ、え?説明とは…?」
梅が身を引きながら男に疑問を返すと、男は「それがだねぇ〜」と溜息をつきながら腕を組む。
するとさっきまで観光地のど真ん中にいたはずが、一瞬にして
どこかとも知れぬ緑豊かな森の中へと移動していた。
「森!!」
「山ね」
大きな目を見開いて驚く梅に男はやんわりと訂正する。
「あー…それで本題なんだけど。その…君さ、僕みたいなトコ、片っ端こら参拝してるでしょ?」
「……僕みたいなトコ?」
「だから神社」
「神社は確かに巡ってますけど、流石にここが最後です。ここが最後の砦でした。でも、流石に神社を自分のモノみたいに言うのは違うと思いますよ、いくら神主さんでも」
「いや僕が神だし」
梅は男の言葉の意味が理解出来ず、放心した。
そしてもう一度その目で目の前に立つ男の姿を見直した。
男の身に纏う白い着物は、よく見ると光沢感があり、細部まで細かく謎の模様が描かれている。
そして一見若そうに見える外見だが、よく見ると梅の父の様に、どこか疲れたような目元のシワが見てとれた。
"僕"という一人称を使われたせいで勝手に大学生かそこらかと思っていたが、ほっそりとした働き盛りの中年サラリーマンがしっくりくる。
まとめると……
「いや!神様っぽいの服だけじゃんっ!」
「いやソレほんとによく言われるんだよなー」
「言われるんかい!もっとこう…神様なら堂々と…!なんというかこう…!ミステリアスに!」
「いやまぁ、僕の話はいいのよ。君が信じようと信じなかろうと、僕の立場も役割も変わらないしねー」
梅の反応に、男は心底めんどくそうに頭を掻きながら苦笑いした。
そして梅の背後を指さして「とにかく、君の縁はもう結ばれてるから他の誰かと結ぶのは無理」とキッパリ断言したのだ。