第3章 極悪令嬢、青の魔女と命名される
リリアーナは宣言通り、あれから毎日姿を現すようになった。魔法で追跡をかけているかのように、ビクトールがいるところに常に現れる。これには、さすがのビクトールも恐怖を覚えた。
調べものがあって図書室にいる時もどこからかにゅっと現れる。目が合うと、友達のようににっこりと微笑みかけられた。ビクトールは真っ青になり、慌てて荷物をまとめて図書室を飛び出した。リリアーナは距離を保ったまま彼の後をつけ、廃校舎の部屋まで着いて行った。
「何顧の礼だか知らないが、何度来られても俺はあんたの依頼を聞くつもりはない。まだ首が繋がっていたいんだ。頼むよ、出て行ってくれ」
ビクトールはほとほと困り果て、とうとう泣き落としにかかった。
「あなたの行動を逐一観察していたけど、本当に教室と図書室とこの部屋の往復しかしないのね。頭が魔法で一杯なのがよく分かるわ。ここまで極めないと天才魔法薬士にはなれないってことかしら」
リリアーナは、ビクトールが懇願しようがお構いなしに自分のペースで喋った。
「あと友達もいないわね。休み時間になったら真っ先に教室から出てくるもの。まあ周りは貴族ばかりだし、この学校で平民が浮くのは仕方ないわ。でも安心して。友人がいないのは私も同じだから」
「お前と同じなのがどうして安心できるんだ、この青の魔女め」
胸を張って言うリリアーナに、ビクトールは冷たい視線を向けた。
「なあに? 青の魔女って?」
「名前を呼びたくない相手には二つ名で呼ぶんだ。名前には言霊が含まれているから、相手を引き寄せてしまう効果があると言われている。本当はそんなの信じちゃいないけど、今はそんなものでもすがらないとやっていられない。そういうわけで、お前を遠ざけたいから青の魔女と呼ばせてもらう」
しかし、それを聞いてリリアーナは顔をぱっと輝かせた。
「やだあ! 青の魔女ってあなたが考えたの? 素敵な名前ね! 碌に魔力もないのに魔女だなんて光栄だわ。本名で呼ぶよりロマンチックだし。それにしても、名前には言霊があるのね。それなら私はあなたの名前を呼ぶわ。ビクトール、ビクトール、ビク——」
「やめろ!」
ビクトールはたまらず叫んだ。
「気安く名前で呼ぶな! とにかくどれだけ頼まれてもあんたの願いは聞けない。どこか他を当たってくれ!」
こうなったら強引な手を使ってもリリアーナに諦めてもらうしかない。そう思ったビクトールの鼻先に大きな紙袋が突きつけられた。中から焼き立てのパンのいい匂いがする。
「何だこれ? 俺がこんなもので転ぶと思ったのか?」
「首都で人気沸騰中のパン屋のものよ? 大人気でなかなか手に入らないの。平民には手の届かない高級品だけどお気に召さない? それならわたくしがいただくわ」
リリアーナはそう言うと、大きな口を開けてパンを頬張った。公爵令嬢にしては大胆な食べ方だ。薬草の匂いで充満しているこの部屋でよく平気で食べられるものだと、ビクトールは内心呆れた。
「ねえ、ひどいと思わない? これまで王太子の婚約者として私がやっていた慈善事業、婚約者が変わったら全部廃止するんですって。新しい婚約者は聖女の修行で忙しくなるからとか。継続性も何もあったもんじゃないわ。それじゃ、私のやって来たことがまるで片手間に過ぎなかったと言っているようなものじゃない? これでもライフワークと思って一生懸命やってきたのよ。他にも未来の聖女だからと免除されたことがたくさんあるのよ? 魔力の量なんて運の要素が大きいのに、何がそんなに偉いのかしら? あなたなんて特待生になれてもスクールカーストは下なのにねえ? 男の人って損ねえ」
ビクトールは実験に集中したいのに、リリアーナはパンを食べながら自分の話を始めた。
「実際片手間だったんじゃないか? 貴族の慈善事業なんて、平民から搾取して自分が豊かになっていることへの罪滅ぼしみたいなものだからな」
ビクトールは手元の実験をしながら、顔も上げずに言った。
「まあ、随分辛口ね。でも確かに、貧困地区の子供の視察もやったけど、本当に貧しいところへは行ったことがないわ。身の危険があるからって。あなたはどこ地区出身なの?」
「あんたの言う、身の危険が及ぶところだよ。ゴミの臭いが充満してゴキブリとネズミの楽園だ。こことは天と地ほどの差がある」
それを聞いたリリアーナは驚いたというように、わざとらしく口に手を当てた。
「まあ、そうだったの。私知らなかったわ」
「嘘つけ。どうせ俺のことを洗いざらい調べたんだろう?」
ビクトールは、顔を動かさず、目だけぎょろっとリリアーナの方に向けた。睨まれたリリアーナは、全く臆することなくぺろっと舌を出した。
「あら、知ってたの。まあね、その通りよ。どういう場所か聞いてみたかったの」
「百聞は一見に如かずというから実際に行ってみたらどうだ? そんなに視察が好きなら? 貴族のお嬢様にとっては物珍くて、いい見世物かもしれないぞ」
「あらあら、お許しが出るとは思わなかったわ。それなら本当にお邪魔しようかしら」
ビクトールは所詮貴族のお遊びくらいにしか考えていなかったので、その時リリアーナがしてやったりという顔をしたのを見逃していた。彼はまだリリアーナという人物を見くびっていたのだ。
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