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最強武闘家一族の最硬者  作者: まるまるくまぐま
学園生活の始まり
23/35

心ここにあらず

 朝目覚めた虎千代は、顔を洗って居間に行く。

 居ない方が平和で、心と肉体が安寧する筈の母が昨夜家を出た。

 恐怖感と苦手意識しか無かった母が、以前、二年間もの間家に帰らなかった時、一家は平穏そのものだった。

 しかし、此度の母の不在は様子が違った。

 以前の不在は仕事で仕方ないことだったが、今回は違う。

 夫婦喧嘩が原因の家出。いつ帰って来るのかも分からなければ、このまま終わりという可能性も有り得る。


 毎朝、笑顔で迎え、美味しい朝食を準備してくれていた父は台所で、脱け殻の様な生気の宿らぬ表情をしており、焦げ臭い匂いが部屋中に充満している。

 母が居ないことが最大の喜びだった虎千代でさえ、不安を感じながら、一夜明けた現在でも、昨夜起こったことが信じられないままであった。

 虎千代は不安、潤三は後悔と悲嘆。

 両者ともに異なる感情を抱いているが、両者共にどんよりとした空気が漂っている。

 

 脱け殻の様な父に、なんと声を掛けてよいのか、今の状況をどう判断すればよいのか…

 虎千代には分からなかった。

「…行ってきます。」

 呟く様にそう言って、虎千代は朝食も食べずに、一時間以上早く家を出た。



−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−



()っちまえ!!」


 新入生が入学して二日目の経津主命学園は、荒れに荒れていた。

 血の気盛んな若人たちによる腕試しや力比べ、純粋な喧嘩…学園内のあらゆる場所で血みどろの戦いが巻き起こっていた。


 そんな学園内を物思いに耽ながら歩く虎千代。

 周囲の喧騒よりも、我が家に混乱の方が彼にとっては大問題だった。

「どうしたらいいんだ…」

 どんよりとした空気を纏いながら呟く虎千代。

 そんな彼の背後を、強烈な蹴りが襲った。

「経津主虎千代は、俺が討ち取った!!」

 後頭部に完璧な蹴りが入り、勝利を確信した襲撃者。

「もし、母さんが実家に帰っていたら最悪だ…」

 当の虎千代は、蹴りが入ったことにさえ気付いた様子もなく、ブツブツと呟きながら歩いていた。

 

「死ねやコラァ!!」

「その首、頂く。」

 徒手に剣術、弓に銃…

 虎千代は、多種多様な攻撃が直撃しているにも関わらず、それに気付くこともなく、無傷で自身の教室迄辿り着いた。

 無意識に行ったそれは、絶大な恐怖を学園に巻き起こすのだが、当の本人はそれを知らなかった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−



 古臭いカラフルな照明が闇夜を照らしている。

 古びたビルや建物が建ち並び、嘗て車道だった道には、客引きの女性や、泥酔し嘔吐する者、殴り合いの喧嘩と、それを囃しながら眺める人々が溢れていた。

 

 夜のスラム街。

 酒や薬物、違法風俗やカジノによって構成されたその地を、ふらふらと歩く女。

 街の目が、そんな女に集まっていた。

 愁いを帯びた表情で歩くその女は、人の情欲を駆り立てる様な儚さと美しさを漂わせ、何より、衣服の上からでも分かる、並外れた大きな胸が、男たちの視線を釘付けにした。

 しかし、彼女に向けられた色欲に満ちた目は、恐怖に満ちた目と変わった。

 

「姉さん…いくらだ?」

 欲望を剥き出しにした醜悪な笑みで、女の肩を掴む大柄な男。この一帯では名の知れた凶悪な格闘家崩れの用心棒だ。

「…貴様の命では足りんぞ。」

 掴んだ手に女の手が重なる。振り向いた女の目を見て、男は、本能的に逃げ出そうとしたが、既に遅かった。

「…っぁああああ!!…手が…俺の手がぁ!?」

 ぐしゃぐしゃになった右手と、冷めた目で見る女を見て、痛みと恐怖で、大男が幼子の様に泣き叫ぶ。

 そんな大男に、女は氷の様な声で言う。

「私に触れて良いのは…」

 そこまで言って言葉に詰まる女。


「…潤三だけだ。」

 そう呟いた時には、彼女の周りから人が逃げ去った後だった。





 

 

 






 

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