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最強武闘家一族の最硬者  作者: まるまるくまぐま
プロローグ
2/35

虎千代という少年

 経津主(ふつぬし)虎千代、十五歳、性別は男。

 最強の武闘派一族として知られる、経津主一族の少年なのだが、超武闘派で、血の気が多く、力こそ正義であり、己が武術、腕力、戦闘力のみを基準と考える一族の者たちとは異なり、温厚で平和主義者であった。

 故に、一族の落ちこぼれの烙印を押され、経津主の面汚しと罵らる日々を送っている。

 そんな虎千代だが、経津主の名を持つ者であることを証明する、ある突出桁外れの力を持つ。

 

 防御力である。


 落ちこぼれ、そう罵られ、常人ならとっくに死んでいる様な暴力を日常的浴びながらも、ケロッとしながら、平和を訴える変人。

 それが経津主虎千代であった。


 彼がそんな桁外れの防御力を身につけたのは、彼の身体に宿る経津主の血が影響しているのもあるが、彼の母の教育の賜物(たわもの)であった。

 虎千代の母、経津主寅華(いはな)は、経津主史上最強にして最高、そう謳われた経津主(みこと)を祖父に持ち、そんな祖父を、僅か十六歳で完膚無き迄に叩きのめした、傑物である。

 彼女の教育方針は一つ。

 『強くあれ』

 その教育理念の元、虎千代は、獅子が千尋の谷に子を突き落とす様な、厳しい教育を受けた。

「知恵は捨てろ。必要なのは力のみ。」

 史上最強にして、史上最高の脳筋な母に打ちのめされる日々により、虎千代は恐ろしく打たれ強くなっていた。

 それこそ、母、寅華以外の攻撃であれば大したダメージにならない程度には。


 そんな強烈な母の教育により、有り得ない程に強靭な肉体を手にした虎千代だったが、生まれ持った性格だけは変えられなかった。

 そんな虎千代が十三歳になった日、強烈なビンタを一発浴びせ、母は家を出た。

 何処へ行ったのか、何をしに行ったのか、虎千代は知らない。

 だが、恐ろしい母の抑圧から開放された虎千代は、本来ならば、決して許されることは無かった筈の、一般的な高校に進学出来る様になった。


 本来、経津主の者は、『経津主学園』への入学が決定付けられている。

 しかし、落ちこぼれの烙印を押され、一族の恥と罵られる虎千代は、学園への入学を拒まれた。

 虎千代にとっては願ったり叶ったりであり、有難いことであり、母によって禁止されていた勉学に意気揚々と励み、下の上くらいの学力を身につけた彼は、一ヶ月後に控えた、高校デビューを夢見ながら、妹の奴隷として、彼女のプレゼントを買いに来ていたのだったが、街のチンピラに目をつけられ、今に到る。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 せっかく一難去ったのに…

 コンクリートの壁に叩きつけられながら、虎千代は嘆いた。

 何故、こんなことになるのだろう?

 僕は、ただ、妹の(命令)為に買い物しに来ただけなのに…

 治安が悪いのは重々承知していたけど、こんなにも治安が悪いなんて…


 分厚いコンクリートに人型の穴を開けながら、無傷の虎千代は、ノソノソと這い出て、自身を蹴り飛ばした者と向き合う。

「…ッ!!嘘でしょ!!私の蹴りを喰らって無傷なんて…」

 驚愕した碧眼が虎千代を見てそう言う。そんな少女に、虎千代は両手を上げ、無抵抗の意思を示しながら

「あの…僕はただ買い物をしに来ただけで…」

 そう言った。


「そんな見え透いた罠には引っ掛からないわよ!!」

 少女の容赦ない蹴りと拳の連打が、虎千代を襲う。

「ま、待って!!話を聞いて!!」

 そんな殴打をものともせず、虎千代は少女に話し合いを持ち掛ける。

「クソっ!!クソっ!!…なんなのよアンタ!!」

 如何なる打撃も無力に終わることに、少女は怒り始めている。

「だから、僕は買い物しに来ただけだって…」

 そんな虎千代の言葉は、少女には届かなかった。

「悪党と語り合う必要は無いわっ!!」

 キッ!と表情を強め、レイピアを抜く少女。

「散りなさい!!」

 容赦ない突きが、虎千代の喉に繰り出された。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「嘘よ…嘘…夢を見ているんだわ…」

 路地裏に、カラン、カラン、と二つの音が響く。

 少女の手から落ちたレイピアと、その折れた刀身が立てた音であった。

 喉を突かれた筈の虎千代はケロッとしており、そんな姿に、少女は膝を付いた。

「ご、ごめんなさい…」

 そんな状況になり、謝り、少女に近寄る虎千代。

 見るからに高価そうなレイピア、それを不可抗力とはいえ、折ってしまった為に、弁償させられるのでは?と気が気でなかった。

「く、来るな!!来るな、化け物!!」

 近寄る虎千代に気付き、尻餅を付きながら後退(あとずさ)りながら、そう叫ぶ少女。

「えっ…!?いや…あの…」

 予想外の少女の反応に、戸惑う虎千代。何より、化け物扱いされたことがショックだった。

「化け物!!人の革を被った悪魔!!寅華(いはな)!!」

 そんな虎千代に追い打ちを掛ける様に、少女涙目で叫ぶ。

 日頃からゴミだなんだと罵倒され、それに慣れている虎千代でも、『寅華』という罵倒は効いた。


「僕はあんな恐怖の権化みたいな大魔王じゃない!!」

 虎千代は絶叫した。


 あんなイカれた母と一緒にされる。

 それは、虎千代にとって、あまりにも辛い罵倒だった。


 






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