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最強武闘家一族の最硬者  作者: まるまるくまぐま
学園生活の始まり
18/35

巳香の来訪

「お礼など…私は、寅華様のお言葉を頂き、お姿を拝見させて頂くだけで幸せで御座います。」

 うっとりとしながら、恍惚の表情を浮かべ、細長い舌で舌舐めずりする巳香。

 虎千代はそんな彼女の瞳に狂気を見ていた。


 巳香の寅華に対する忠誠や敬愛は常軌を失しているからだ。

 虎千代が知っている範囲だけでも、巳香の目や耳の届く範囲で、寅華に敵意を持ったり、侮辱した人が数日後、消息不明となっているのを知っている。

 そして、その黒幕が彼女であることを…


 そんな巳香は、寅華と向き合って会話する至福を味わっていたが、お茶を持って来た潤三が視界に入ると、彼に向かって汚物を見る様な目を一瞬だけ向けた。

 あの目は、潤三と虎千代に対して必ず向けられる。

 虎千代は彼女のそんな視線に対し、父が母の夫でなく、自分が母の子でなかったら、きっと消されていただろうし、母の夫と子でなければ、そもそも関わることはなかっただろう…と。


 しかし、そんな男性陣が苦手とする巳香だが、虎千代にとっては偶に有難い働きをする時がある。

 考え、交渉する暇があったら、殴って黙らせる。が基本的な脳筋一族であるだが、一代に多くて数人、少くとも一人は真っ当な知恵を持つ者が産まれる。

 そういった人物が影で一族を支えてきたお陰で、今日(こんにち)迄経津主という一族が続いてこれたのだが、今代のその役職に当たるのが、巳香であった。

 彼女の一族内での主な業務は、経津主の力を必要とする依頼主からの仕事を、適切な者に割り振ったり、報奨金等の交渉を行うマネジメント業務と、経津主学園の理事長秘書官の業務を兼ねており、割と多忙だ。

 そんな彼女は、絶対的主たる寅華に呼ばれなければ、基本的に彼女の前に現れない。それがルールだからだ。そんな巳香が寅華の呼び出しが無く彼女の前に来る時は、寅華に仕事を持って来る時が大半を占める。

 そして、仕事を請け負った寅華は、最短でも二、三日家を空けることになる。

 直近の仕事だと、二年もの間家を空けている。

 巳香という女性は、虎千代にとって命の危険を感じる相手だが、母という恐怖から解放される機会をもたらす人物でもあった。


「お前が来たということは仕事か?」

 寅華は怯える虎春を抱え、膝の上に座らせながら、確認する様に問う。

「理事長就任直後というのに申し訳御座いません…寅華様以外では難しい依頼です。」

 片膝を付き、頭を垂れて答える巳香。

 一応、一族の当主である寅華。経津主の一族において当主というのは、一族で最強であるということ。

 そんな当主自ら動く必要のある仕事と巳香が判断した。

「致し方あるまい。…巳香、直ぐに出るぞ。支度は…」

 寅華は、名残惜しそうに、膝に乗っけた虎春の頭を軽く撫で、床に降ろしてから立ち上がった。

「出来ております。」

 そう答え立ち上がる巳香に寅華は無言で小さく頷き、

「暫く家を空ける。留守を頼むぞ、潤三。」

 そう言って残った茶を飲み干す。

「虎千代、虎春…直ぐに帰って来る。鍛錬を怠るでないぞ。」

 仕事に出る際、必ず言い残す言葉を伝え、寅華は巳香と共に家を風の様に出ていく。

 そんな母であり、大黒柱である寅華の外出を、ほっとした表情で息子と娘は見送った。

 父一人、寂しそうな顔をしていた。


「自由って良いなぁ…」

 母のいない家で、開放的な気分に浸る虎千代は大きく伸びをしながらそう声を漏らす。

 虎春も何も言わないが、小さく頷いており、同じ意見の様だった。

 虎千代と虎春にとっては一時の幸福な時間が始まっていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「おはよう…なんでいるの!!」

 幸福な時間は短かった。

 眠気眼を擦り付けるながらやって来た居間に、いない筈の母がいた。

 思わず本心が出てしまった虎千代の頭に強烈なアイアンクローが決まる。

「バカ息子、最短で仕事を片付け、帰宅したばかりの母に言う言葉がそれか?」

 ギチギチと脳を直接締め付けられている様な痛みが虎千代を襲う。

 あまりの痛みに悲鳴すら出ない虎千代。そんな彼の頭部を握る寅華の右手から、微かに血の匂いを感じながら、虎千代は再び眠りに就いた。






 



 

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