一時帰宅
「全員で掛かって来い。身体で覚えるのが一番早い。」
学園全生徒と教職員、全員に向けて放たれた言葉に、若き生徒たち(一人を除き)が血の気に駆られ、力の差を理解している教職員も、総員相手なら一縷の望みがあると淡い希望を抱き、理事長、経津主寅華に襲い掛かった。
しかし、決着は数秒で着いた。
光の速さよりも速く動き、未来を知っているとしか思えない程の速度で移動と攻撃が生徒と教職員に加えられた。
生徒会長、東郷重等は後にその時起こったことをこう語った。
「気が付くよりも前に、身体に衝撃が奔った。その衝撃で、自身が攻撃を食らったのだと知った。…しかし、今になっても分からない。あれが本当に打撃を受けたのか、それとも、意識を刈り取る程の衝撃を受ける程の打撃を受けたと錯覚させられたのか…とにかく異次元、理解の範疇を超えている。武の真髄の更に遥か先があるのだと知った。」
ものの数秒で講堂を死屍累々の地獄絵図に変えた寅華は、コキコキと首と肩、手を鳴らし、ある一人に近づく。
「さて、バカ息子。入学祝いだ。」
司会ということで難を逃れた巳香を除き、唯一立っていた者に、寅華の拳が突き刺さる。
寅華がこの場で、それまでに放った攻撃とは比にならない程の拳がだった。
暴走したダンプカーに撥ね飛ばされた時の数十倍の速度で吹っ飛ぶ虎千代の身体は、講堂の壁を突き破り、学園の隣にある自宅に迄吹っ飛んだ。
「せっかく…せっかく戻ってのに…僕の肋…」
虎千代は、砂埃の中起き上がり、せっかく再生した肋骨が再び消え去ったことを嘆く。
「…おかえり、虎千代。今日は虎千代は入学式だけだから、お昼ご飯用意してるからね。」
そんなダイナミックな帰宅を果たした息子に、父である潤三は落ち着いた様子でそう伝える。
「あ、ただいま、父さんありがとう。」
そう返した虎千代と、
「飯は四人分用意しておけ。昼には私も帰る。」
一瞬で現れた寅華の言葉。
「じゃあ、父さん、行って来ます…」
襟首を掴まれ、絶望に満ちた表情の虎千代と、
「潤三、昼も夜も、精がつくものにしておけ。途中でへたられては敵わん。」
虎千代の襟首を掴んで、そう告げる寅華。
「いってらっしゃい、寅華さん、虎千代。」
手を小さく振って見送った潤三。閃光の如くぶち破った壁から二人の姿が消える。
「…今夜もか。」
ゲッソリとした潤三の疲労の滲む瞳で、戻った日常への喜びを思い、微笑んでいた。
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何が起こったのか、フランセットは理解出来なかった。
気が付いた時には身体が宙を舞っており、遅れて衝撃がやってきて、そこから先は意識を失っていた。
目覚めた時は講堂の床に倒れていた。
「ぅっ…」
天井に見えるライトの明かりがやけに眩しく感じながら、今の状況を知ろうと半覚醒状態の頭と身体をなんとか動かす。
見えたのは、死屍累々と横たわる生徒たちの姿。
自分もその内の一人であったのだとこの時知る。夢ではなかった。
入学早々怪物に再開し、すっかり心を折られた矢先にこれだ。
「ふふっ…」
そんな自虐的な笑みが無意識に漏れていた。
起き上がったフランセット、視線を上げた先の光景に、半覚醒状態だった頭も身体も、瞬時に目覚めた。
フランセットと同じ光景を呆然と見る者は他にもいた。
皆、彼女よりも早く目覚め、それを見ていたのだろう。
「もう無理…死んじゃう…」
弱々しい少年の声と、
「ふん、そんなヤワに育ててはおらん。」
その少年の胸倉を掴み、高々と片手で持ち上げる女の姿。
新入生、経津主虎千代と、理事長、経津主寅華の姿であった。
「無理ですぅ…」
ペチ、と弱々しい虎千代の平手が、胸倉を掴む左腕に当たる。
「そんな攻撃では、蚊も殺せぬ!!」
ズドッォン!と、人体を殴った際に発されてはいけない音が響き、虎千代の身体が吹き飛ぶが、殴った本人に一瞬で空中で襟首を掴まれ回収されいた。
「本当にもう無理です…さっきので五十発だもん…」
朦朧とした声で泣く少年。
そこで、フランセットの心は完全に折れた。
もう嫌だ、故郷に帰りたい。
フランセットにとって、経津主学園は、想像の何十、いや、何百…何千、何万倍も上の修羅の地であった。




