07話 新しい家族 元メイド
「さぁ、始めるぞ」
ハーヴィさんは余裕のある笑みを浮かべていた。周りが勝ち格であると言う雰囲気になるのは、どのくらい時間が進んだ先か——。
「これでも喰らいやがれ!!」
手のひらから炎の魔法を放ち、それを俺に向けて来る。
咄嗟に回避をし、様子見することこの上なしだ。
俺が避けたため、地面には炎が燃えたぎっており、徐々に雲に隠れていた月が、顔出す。
地上を照らし、さっきまで吹いていた風が弱くなり、最終的には風なんて起きていなかった。
「ふん、ならこれならどうだ?」
腰を下げて、地面を手に置き、ぶつぶつと言っているのがわかる。
その隙に俺は木の近くにある木の棒を拾い、ある能力を使う。
その前に俺の下元には明るい真っ赤に燃えた光が、足元を照らし、一心で光を浴びる。
術式の完成の儀式だった。のんびり見てるわけでなく、颯爽と魔法陣から降りる。
なんの驚きも見せなったが、実際心臓音はうるさい。
「くそ、ダメか」
詠唱を唱え終わっていた、ハーヴィさんは先程の余裕そうな笑みは無くなっていた。
どうやら本気で来るそうだ。だが、向こうがその気であれば、俺もそれ相応の実力行使をするまでだ。
「『植物操作』」
持っていた木の棒が、みるみるうちにでかくなっていく。その瞬間、いくつもの視線を感じる。それはおそらく皆が見ている………訳だ。
その顔はポカーン、としているものもいれば、間抜け顔もあった。
「な、なんだそれは……!?魔法なのか?いや、術式そのものが違う」
頭を唸らせながら、“最後のトドメだ!”なんで揚々と発し、今度は自慢表情となり、ナイフを直接投げつけてきた。
(え、いや。脳筋かよ)
なぜナイフを投げたのかは、意味不明だったこの状況。語る見込みが高まってきているのは、確かである。
「———なっ!?」
ナイフを避け、地面に刺さるナイフ。だが、甘かった。
銀色に光るそのナイフから、展開される魔法陣。四つ投げられたナイフは、それぞれ魔法陣が展開されていた。
「胎児よ!行け!!」
禍々しいオーラを纏いつく、胎児。俺よりも巨大な見た目をしており、影だけで一心を覆い隠すほどだった。
「なら、喰らえ!!」
持っていたでかい木の棒を投げ、『植物操作』を即座に発動させる。
俺の手と共鳴し、近くにある植物が唸りをあげる。そこから、手のひらに集まる木の葉っぱ。それがたくさん集まり、そこから『植物操作』にて、一人でに動く葉っぱになるように、刃生えさせ、それは相手を包み込む。そして、切り裂く。
頬、足、腕、胴体。かすり傷程度ではあるが、それは確実にダメージを与える。
「ぐわぁ!くそっ……」
(一体、何がどうなってんだ……)
初めて見る技に皆は驚愕の顔を見せているのは、確かだ。もちろん、こうやって能力を行使することができている俺自身にも。
「さぁ、どうする。まだやるか?」
「ぐぬぬ!」
地面に膝をついて、俺を睨むその人は“ふっ…”と笑みを浮かべているのが、分かった。
疑問符を浮かばせるわけには行かない。
「クソが、なぜ俺がお前なんぞに負ける」
「…………」
「その力はなんなんだ!?」
形相な顔で睨みつけて来るその人に対し、なんも答えることができずにいた。
「…………超能力ですよ。魔法使いであるあんたらに毎日、毎日蔑まれた目をされ、食事もろくに食べれず……。そのため、俺はあんたら魔法使いと対等に戦える力を………。魔法だけが全てじゃないと言う世界を、作るために……。修行したんですよ」
「超能力だと!?魔法だけじゃないだと!?はっ、そんなの生まれたやつの決められた人生なんだよ……。俺は王家に生まれた………。そしてこいつやお前は魔法使いの家系に生まれられなかった。もう決まってんだよ?人生なんぞ」
「………………だから何?」
「あ?」
「だから、何?じゃあ、魔法使いじゃなかったら、生きる資格なし?………………そもそも、俺は魔法使いの家系です」
「………………は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような、顔となった。目が点となり、“何言ってんだこいつ”と言う目で見てきている。
「………………俺はまだ14です。あなたにとやかく言える年齢でもありません。だけど、それでも俺は、あー言う子が生きやすい世の中を、作れるためなら、喧嘩売りますよ。相手がたとえ、王家だろうと。神だろうと。地獄の鬼さえも。もう決めたんです。魔法の適性がなしでも、魔法使いと一緒に生きられる…………そんな世界を。変えてみせるんですよ。世の中の腐った常識を」
この人の奴隷である、赤髪の三つ編みの女の子を、手で差しながら、俺の理想論を語った。
そう。これはただの理想論に過ぎない。
「はっ!そんなのただの理想論だ!」
「はい、知ってます。ですから、そうなった暁には文句なんて言わせません」
そう笑みを浮かべ、その子の元へ行く。完全に怯えているが、俺はその子の肩を叩き、ハーヴィさんにこう伝えた。
「この子………貰っていいですか?」
と。二人は見開く顔をしていたが、一人だけ。そう。アルフィーさんだけは、“やれやれ………”と言った、なんとも浮かばない顔をしていた。
「ふん!好きにしろ、そんな役立たずが欲しければな」
「んじゃ、そうします」
アルフィーさんの元へと行き、帰ろうとするが、その子に止められる。
「あの、アレはいいんですか?」
(元主人をアレ扱い……。この子、見た目とは裏腹に強そうだ……!)
元主人となったその人を指さしながら、そう言うが俺はそれを手で抑える。なぜなら、指を刺しちゃいけないからだ。
(まぁ、あのまま返すと後々大変そうだし。これを置いていくか)
バッグに入れていた瓶を取り出し、それをハーヴィさんの元へと持っていく。無言でそれを置きながら、再びアルフィーさんの元へと行った。
馬車に乗り、ローセンバリ家の敷地内に入る。ローズさんからは心配な顔で、問い詰められたが、事情を説明すると、納得と安堵の表情を浮かばせていた。
「あ、あの、私がいいんですか?」
「もちろんよ!あなたも今日から家族……。よろしくね!私はローズ・ローセンバリ。あなたの家族となる人物よ。そして、そこにいる人は私の婚約者。アルフィー・オルダイト。一応、あーでも第一王子だけど……。で、あの子が………」
そう簡単な説明をするローズさんを前に、アルフィーさんは“一応ってなんだよ、一応って”とぶつぶつ呟いていた。
そして今、俺の紹介をしているのは確かである。
ローズさんの書斎にて自己紹介が始まったのは、帰って速攻だった。
「俺は、アーロ・ローセンバリ。元々、君と似たような境遇……だったから、よろしくね」
簡単な説明をしてから、手を差し出した。相手からあまり警戒心を感じられず、良好な関係じゃないか?と言う喜びが現れて来る。
「私はクロエ………です」
緊張強いのか、弱々しい声で言う。
「クロエ……。いい名前じゃん。よろしく、クロエ」
「は、はい。よろしく………お願いします。あ、アーロ……さん」
まだ良好な関係ではなかったが、これでもだいぶマシな方だと思っている。
また新たな家族が増えた。賑やかになりそうだった。
その日の夜、俺の部屋にクロエがやってきた。何やら、今日のお礼がしたいだとか。パジャマ姿となっている彼女は、新鮮そのものだった。
もうそろそろ寝ようとしていたため、明かりを消し、部屋は月の明かり以外の光はなし。
それに三つ編みの解いた状態の彼女の髪は、きちんと風呂に入ったからなのか、艶々さが分かる。
「それより、お礼って…?」
「あの、アーロさんはどう言うのがお召し物ですか?」
「———と言うと?」
「な、何か私に出来ることが有れば………。その………」
何故か顔を赤らめていて、ベットに腰掛ける。
(うん、あかんやつだ)
「はい、ストップ。そう言うのはいいから」
「で、でも———。ハーヴィさんはこうしろ……と」
(あの人何教えてんの?意外と自分より幼い子が好きなのか?)
そして何故顔が赤くなっていたのかは、理由が分かった。
夜這い……のやつじゃないかと。
(だが、そんなのは今はいい。とにかく、別のにしないと)
「もうクロエは、あそこの子じゃないんだから。郷に入っては郷に従えって言うでしょ?」
「は、はい…」
「なら、この家のルールに従おう。お召し物……って言ったら、明日甘いものが食べたい。あ、でも君はもうメイドじゃなくなってるから…………。明日、甘いものを一緒に食べよう」
と、“名案!”という感じで言う。本来は回答はもう一つあったが、やめにした。あんなセリフ、俺には臭すぎるから。
(誰が『もっと君のこと知りたい』なんて言えるか)
と内心では心臓が、早い鼓動を打っていた。
「そ、そんなのでよかったんですか?」
「うん、それがいい」
そう言うと、クロエは安心した表情をした。それはいい笑顔で。
今までの扱いが、なんとなく見えてきた。さっきまで自分で夜這いのような行動に移していたが、体は強張っていた。
「す、すみません。私、ハーヴィさんの家では、よくそんな事をやらされていて……。でも、アーロさんはそんな人じゃないって言うことが、分かりました。ありがとうございます!では、おやすみなさい!」
と、慌てて人の部屋を出る。その笑顔は本当に、いい笑顔で。
(…………やっぱ、ハーヴィさんで性犯罪者?そんな人の兄をしてるアルフィーさんも大変そう………)
自分のベットの中に入りながら、いろんなことが思考される。
寝るときはアレよこれよと考えてしまうため、布団の中に潜り、目を閉じる。
一日が終わり、新たな家族をゲットした。
そう。新たな家族を———。