表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法絶対主義の世界を成り上がる  作者: 猫屋敷
0章目 始まりはここから
8/20

06話 触らぬ神に祟りなし

オルダイト王国に入り、アルフィーさんは変装していた。王子であると分かれば、色々と大変なのだろうと表情を見てわかった。


(そういや、俺がローズさんに初めて会ったのも、王都にある奴隷を売っている所だったな)


王国にはあまり良い思い出はないが、せっかくアルフィーさんが俺の為にやってくれているのだと思うと、そういう訳にはいかない。


“魔法絶対的主義”な人達がいるものの、王都で売られている商品は、品揃えが豊富だ。


ローブに文房具、魔道具にと色々な物が品揃えである。

オルダイト王国でしか買えない、限定商品もあるのだ。


「さて、友人が言うには、ローブは必須らしい。それと羽ペンと羊皮紙…、ノートも必要だな。そして〜………短剣必須……だと?」


(短剣?そんなの必要なの?)


驚きと不安の表情が一気に混ざったような。とにかく不安そうな顔色を浮かべたアルフィーさん。

納得する部分が一つ。何故入学で短剣が必要なのか。その友人に問いただしたい気持ちであった。





♦︎




必需品をとにかく揃え、あとはやる事がなくなった時、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


(………この声って…)


心がざわめきを起こすほど、頭痛がするほど、フラッシュバックが起こるほど。そんな聞きたくもない、二度と聞きたくもない声が、耳に入る。

その方向を見ると、やはりいた。俺の、アーロ・フィンレーだった時の、双子の妹。エラが。


俺と同じ銀髪の長髪を靡かせ、周りの人からは天使のような映るその姿見。そして俺と同じ、紫色の瞳。


間違いなく、妹のエラ。姿を見るだけで、虫唾が走る。

俺の体内にある血がエラと同じ血が、流れているんだと思うと、悪寒を感じる。


それほど、俺はあいつが嫌いだ。もちろん、あいつ自身そうだろう。


見ている時が、スローモーションになるかのように、ゆっくりとエラは動き、誰かを見つけたのか嬉しそうな表情をすると、さっきまでの感覚がまるで嘘のように、いつも通りの速さに戻る。


「………どうかしたのか?」


「いえ、なんでも………ないです」


エラが王都にいるということ。それはきっと、同じ理由だろう。それとも、ただ遊びに来ているだけなのか。

人ごみの中に紛れ込むその姿を見て、どうやら俺の方に気づいていなかったため、安堵する。

胸を撫で下ろし、さっきまで感じていた心臓のバクバク音が、消え去りアルフィーさんと共に、王都を見て回る。


他人のフリをして———。







♦︎





王都で時間を過ごすと、あっという間に流れた。夕日が顔を出し、空はオレンジ色に成り代わる。

今日も一日が終わる。アルフィーさんと共に、王都を出て朝に来た道を引き返そうとすると、朝に居た少女が、未だに掃除をしているのが目に入る。


(あの子、まだやってるんだ)


「あの子、まだやってたのか?あいつったら……」


と、頭を手で押さえるアルフィーさんの姿が目に入る。

きっとあのままずっとやっていたのだろう。そう考えると、居ても立っても居られなかった。



気がつくと足が動き、名前を知らず、初対面である少女の元に駆け寄る。

何かすると思ったのか、体をピクリとあげ、俺の方を見る。その顔は怯えていた。体も僅かに震えているのがわかる。


散々酷い扱いをされてきたのかが、安易に想像できた。


「夜になるよ。家に帰りなよ」


「わ、私………そのっ………まだ終わっていないから………」


朝からやり始めたのだろうと予測をし、何時間も掃除をしているのだと思うと、同情の心が現れる。


(魔法は使えない……。けど、このまま見過ごすのも後味が悪い)


地面に置いて転がっていたブラシを手に取り、水路の汚れを擦った。

洗剤をつけ、力強く擦り付けて。


「い、いいですよ!私の仕事ですし………」


「構わないでいいよ。俺が自己満でやってるんだし」


そう掃除をしながら、その少女に言う。



なんやかんやで二人でやることとなった掃除は、夜までかかった。

アルフィーさんは黙って、待っていてくれた。終わった時、もう暗くなっていたため、帰っているだろうと思ったが、居てくれた。そのことに、感謝していた。


“全く…”と言う声を出しながらも、アルフィーさんはワシワシと俺の頭を強引に撫でる。

初めて頭を撫でられた感覚は、悪くない物であった。だが、14歳となった俺にとっては、やるせない気分だった。


それを笑う物がいた。その方を見るとさっきまで、疲れ果てていた少女が、クスクスと笑う。

顔は汚れていたが、その笑みは作り笑いじゃない。心の底から笑っている物だと、俺は感じた。


その様子を見た俺とアルフィーさんは、互いに目を合わせる。

“そんなにおかしいことか…?”と言う言葉がおそらく心中の中に現れ出し、同時にだと思う。


そんな時、王国の門前から形相な顔で近づいて来る人が一人。

発せられる声は男にしては甲高い声だった。その声を聞いたその子は、肩をビクリとさせる。


「ハーヴィ、お前な!」


怒りの声を露わにするアルフィーさんを見る。その表情は怒っていた。

アルフィーさんの弟、ハーヴィと言う人は、アルフィーさんを睨みつける。

互いに睨みつけているため、バチバチ音が幻聴として聞こえる。いや、そのような効果音が頭の中で、再生された。


「なんだよ?兄様」


「なんだよじゃないだろ。その子に広い水路の掃除を任せるなど……。おかしいと思わないのか?!」


庇い立てているアルフィーさんを、止める人物。それは、紛うことなきその少女だった。


「や、やめてください!わ、私が悪いんです……。その子に手伝わせてもらって………」


「なんだと?手伝わせてもらった?まともな嘘をつけ。お前のような小汚い小娘の手伝いをする奴が、どこにいる?」


嫌味たっぷりで行って来る、アルフィーさんの弟。アルフィーさんよりも一回りがでかいハーヴィさんは、その少女に顔を近づけさせた。一発殴りたくなるような、そんな煽りか頭あったことを。


「いるさ」


「あ?」


「俺は自分から手伝った。嘘でもなく本当に。それに、あんな広い水路の掃除でさせるなんて……。どう考えたって無理がある……」


「あ?魔法適正なしは、生きる資格がないだろ。神からの贈り物……。そう。俺たち魔法使いは、そんな贈り物を手にしたんだ。それを、貴様に何故言われなくちゃならない」


「確かに魔法は神からの贈り物だ。だからどうした?それで人の人生を決めつけるのか?魔法適性がないから?」


「ああ、そうだ」


喋っているところを被らせるのは、正直関係ない。そして俺はまだ続けた。


「そんなの理由にすらなってねぇよ」


きっと今、俺の中では勇気ある行動をしている。そう思ってしまうほど、魔法使いに立ち向かってる。口で。


王国の外で、夜の時間帯で。風が吹き、木の葉っぱが揺れる。雲が流れ、国の方では明かりが灯る。

そんな中で、俺はアルフィーさんの弟に、立ちはだかっている。


「お前、俺より偉いのか?」


トーンが低くなり、どす黒いオーラが見えてしまうほど、殺気に満ち溢れていた。

王家のプライドが。それを自身の兄と一緒にいる子供に、そんなことを言われプライドが崩れ去ったのだろうか。


顔はみるみるうちに変わり、俺の方へと向かって来る。

その顔はまるで鬼だ。鬼のような顔をしているのがわかる。アルフィーさんが止めに入ろうとしたとこを、ハーヴィさんは魔法で止めた。


「おい、他に何かいうことはないのか?」


「あるさ。アルフィーさんと違って、魔法の適性がない人物をモノのように扱っているあんたは、一番下に見える」


何かの本で読んだ事がある。


物事に関わらなければ、災いをこうむることもない。厄介な相手に余計な口出し、手出しをしない方がいい。


“触らぬ神に祟りなし”と言うことわざだ。


まさにこの事だろう。だが、悔しい。


なんでそんな事で、人としての人生を閉ざさねばならないのか。

そう言う思いが、嫌と言うほど味わってきた。


ハーヴィさんは、鬼ような怒りを表した表情で、俺を近くにある木の方へと投げ入れる。


「ぐっ!!」


「貴様、口には気をつけるんだな」


軽々しく俺を投げ、頭を思いっきり打つ。朦朧とする意識の混濁の中で、俺は続けた。


「そんなんじゃ、足元掬われるだけだぞ」


自分でも何を言っているのか。さっきから偉そうな口を叩くが、実際俺は何もできない。


———だけど。


だけど、俺はそれでも変えたい。世の中の常識を。


そう心に固く繋いだその思いを、握りしめ、俺は立った。

そしてはっきりと伝える。偉そうな口を言ってもいい。それで多少の出来事が変わるのであれば。


俺はなんだってする。王家に楯突こうと、魔法使いに楯突こうと、それを跳ね返すほどの力を、俺は手に入れるために。


「やろ……!」


俺が言おうとした瞬間、何か考える仕草をし、俺に告げた。


“勝負をしろ”と。


「お前は、俺にそう言うほど魔法使いとしての腕がすごいんだろ?俺が勝てば、お前を殺す。当たり前だよなぁ?王家に楯突いたんだから。で、お前が勝てば、言う事なんでも一つ聞いてやるよ。どうだ?悪くない話だろう?」


完全に俺が負けると思っているだろう。煽り顔で煽って来る。相手からしたらただの無防備な奴だと感じているはずだ。


そりゃあそうだ。王家の血筋を継ぐものに楯突いたことは、代償が大きい。だけど、これがきっかけで何かが変わるかもしれない。だから、俺は賭けた。


自分の命と天秤に俺の信念を貫いて———。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ