04話 異常成長
アーロ・ローセンバリになってから、はや三年が経つ。俺は14歳となり、あれから能力向上もしたため、『植物操作』を扱えるようになった。
能力四つ手に入れることができたのは、合計で約五年時間を要いた。
(さて、記録していた手帳も、ちゃんと残っていたのは助かったな。あのままだったら、一からやり直し。リセットされる所だった)
ボロボロになった革製のノートを見ながら、そう呟く。
自室にて用意してもらった、本を手に取るため、明日から立ち上がり、本棚の方まで歩く。
並んでいるのはこの順番だ。
薬草学 魔導書 考古学 雑学
その中に一つだけ空いてる場所が、俺の今までの記録帳が入る。
その中で魔導書の本を手を取り、ページを捲る。内容は術式の根本的な原理と、魔法陣、そして詠唱の数々だった。
その中でも比較的簡単な魔法。風で植物を吹かせるのと同じように、手のひらで葉っぱなどを踊らせることができる魔法の力。
意識中なのか、無意識中なのか知らず知らずとして、その魔法の詠唱を唱える。
「『風の加護、自然を動き出す。葉の舞』」
手のひらを出しながら唱えても、一切反応は無し。やはり魔力がなければ、植物を操ることはできない。
だが、この『植物操作』は同じようなものだ。
なぜなら、木を動かし盾とすることができる。
葉を動かし、葉を鋭いナイフのように鋭くさせることが可能。
蔦を操り、自分がいる範囲内なら、長さを変えることが自由だ。
これらが『植物操作』な訳だ。
(ハァ…、やっぱ俺には能力だけだな)
固執しているのか、それとも個人に自信が無いのか。どちらかなんて、俺には分からない。そんなモヤモヤした気持ちは、心の中で霧のように現れる。
(使えるのは『植物操作』だけだな…………)
能力には制限付きな為、どうにも他の能力を扱えることは不可能だった。そんな時、ふと外を見る。
「…………雨?」
外で雨が降っており、制限なしだったら、雨を操ることができたり、と言うのは可能だった。植物から自然へ上がれば、雨を操ることも出来るようになる。と言う、俺の予測で“もしもの”話だった。
「雨を操れるようになるまで、自然系能力に成り上がるまで、もっともっと勉強しないとだなぁ」
そこからイメージする。そんな未来の俺を。そして、ふとそんな雨を操ることを試してみたい!と言う気持ちが芽生える。
その為、窓を開け、息を大きく吐き、また大きく吸う。能力向上すれば能力の使い勝手が増えていく。それは魔力量と同じだ。
幼少期から魔法を学んでたり、魔法を使えば魔力量は増える。能力も同じだということを、三年前に知った。
「…………だぁー!ダメかぁ……」
力一杯してみたが、雨を操ることはできなかった。下手に体力や気力を使っただけだった。
目の先にある木を見て、葉っぱを操り、トルネードの如く出来ないか、試し、倒れてしまったのはその後の出来事。
♦︎
『植物操作』で遊び、倒れてから一週間。修行という名の遊びに来た。近くにはちょうど池があり、池に向かって池の中に生えてある植物に、能力を使ったが、異常成長した為、俺よりも身長が高くなった池の中の植物。見上げるくらい、首が痛くなるくらいだった。
(…………ちゃんと元に戻そう)
まさかここまで成長することを、今初めて知った為、大人しく能力を解除した。
(………やる場所は変えようか)
いつものように来ていたその池から、立ち去り名残惜しさを感じかながらも、家に帰る。
庭までたどり着くと、ローセンバリ家の仕える使用人が、掃除をしているのが目に入る。メイド服を着ており、箒で風で散りばめられた葉や草をちりとりの中に入れている。
「あ、おかえりなさいませ。アーロさん」
「ただいまです。アンナさん」
「三時のおやつは何になさいますか?クラフティに紅茶をお付けしますか?」
アンナさんは赤髪の髪をしており、三つ編みの髪型だ。本に出てきそうな見た目であり、おっとりしたような声をしている。
ちなみに、クラフティと言うのはクレープ生地の中に果物を入れ、型の中に流し込み、焼いたお菓子の意味を指す。
「じゃあそうします」
「紅茶はどうしますか?いつものヌワラ・エリヤ?それとも別のに致しましょう?」
「うーん、たまには別を飲みたいです。ローズヒップでお願いします」
「わかりました。では、準備を致しますので少々お待ちください」
俺がよく飲む紅茶は甘い系だ。ローズヒップは桃色のような色をし、熱いのでも冷たいのでもどちらでも合う紅茶だ。
俺も家の中に入り、自室に向かう途中ローズさんに会う。
「おかえり、そういえば能力の方に関してはどんな感じかな?」
ローズさんやこの家の人たちは、俺の事情を知っており、魔力量の高いローセンバリ家の皆さんは、今の世の中の常識がおかしいと言うことは、理解しているものの、影響力をもたらさない。
なぜなら、定着した常識は、実際何の根拠もなければ、変えることのできない。
例えば女は家を守り、男は外で仕事をする。というのは古い考えであるものの、行っている家庭は少なからず居るだろう。
時間の流れとともに、世界の常識は変わるが魔法が無くならない限り、この常識が変わることは無い。あるとすれば、魔法適正なしの人が、魔法使いに変えたら………という話である。
(その為には、魔法適性なしで“能力者”である俺が腐った考え方をしている人たちに、鉄槌を落とさなきゃ。魔法適性がないからなんだって、話だわ)
まだ子供である俺には、何の力もないことは知っている。その為に、魔法使いたちに勝てるほどの力を持ち、いざ戦ってもいいように、能力向上は欠かせないものだ。
そう。魔法使いどもに負けてしまえば、調子に乗り、更に魔法適正なしの人たちが、辛い目にあうだけ。人間を人間とも思っていない、魔法使いどもに。
人間を人間と思わないアイツらは、力は上だろうと性格が難ありなら、人間のトップになるのは無理だから。いや、言い方を間違えた。
“金と名誉、そして力。それらが備わっていたとしても、性格の方に難があれば、トップで『あり続けるのには』長く続かないから”だ。
そうローズさんたちと、談笑し、三時のおやつを一緒に食べる。至福の時間が心を満たす。