03話 新しい家族
家を追い出され、三時間が経過する。もう外は暗かった。捨てられた本や瓶を一緒に落ちていた革製の鞄の中に入れ、王国までに行く道を歩いている最中だ。
歩いている時、石で転び、膝小僧を傷つけた。外傷の痛みは簡単に癒える。だが、心の傷はそう簡単には癒えない。さっきまでの悲しみが水のように溢れ出し、顔全体がぐちゃぐちゃになる程、涙が溢れてきた。
“親に捨てられた事”
この言葉が、心の底を抉る。相手が俺のことを嫌いであると同時に、俺も家族が嫌いだ。だけど、どこかで情があったと言うのも、事実だった。
それまで家族に抱いていた思いは、“嫌い”は好きの裏側に感じていた思いだったかもしれない。
だが、もう他人となったことは、理解していた。親に対して不信感に思い、兄弟に関してもそうだ。
兄と妹、もうそんなのはどうでもいい。
俺の部屋を使うなら、勝手に使え。
11歳だった俺は、短い足で王国まで歩いていく。その道のりは果てしなく、葉っぱを利用し、王都まで行こうにも、そこまでの葉っぱはなかった。
「絶対に……、見返してやる……!あいつらを…………!!」
お腹が空いてか、力が出ない。疲労と空腹が俺の体を包み込む。そのまま道標の場所で、倒れ込んでしまった。
(あーあぁ、ほんと、恨むよ。神様……。なんで俺には受け継がれなかったんだってことを)
恨んだとしても、なにも変わらないことは知っている。だけど、そんなドス黒い思いが少しずつ、心の中に現れ出してきた。
♦︎
目を覚ますと牢獄の中にいた。ここがどこか、検討なんてつかない。叫ぶことが出来ないほど、衰弱していた。
(一体……ここどこだよ……)
鉄格子の方に、体を寄せて辺りを見渡す。そこにはお偉い貴族の人たちが顔を出していた。それで悟る。
(あぁ、そうか。俺、奴隷にされるんだ………)
“奴隷”
そう。魔法適性がないものは、生きる資格なしとして認識される。そんな人は、奴隷として扱われるか、死ぬか。どっちかだ。それほど、この世の中は腐りに腐りきっているのが、はっきりとわかる。
(あーあぁ、これが………俺の生きる運命になるのかな)
そう喪失感に苛まれた。超能力だけで常識を変えれるのか……と。
『そんなの、やってみないと分からないだろ?』
(……………あの頃の、父さん達優しかったのにな……………)
幻想を抱きながら、あの頃を思い出す。
そんな時、一人の少女がやって来た。その人は貴族じゃなさそうな、優しそうな少女。俺より三つから四つぐらい年上な。
「この子を貰います。いいですよね?」
「はい、もちろん」
俺はこの人の奴隷になるんだろう。腹は括っていた。そうでなきゃ暮らしていけない。暮らせるだけでも有難いものだと、考えるべきだろうから。
黒髪碧眼をしており、吸い込まれるような青色の瞳。だけど優しそうな微笑みを、俺にするその人は、何故か安心できた。
それは以前まで俺に優しくしていた母と、同じ顔。
♦︎
俺はその人の家に入り、新しい家族となったこの人は、やはり俺より年上の人だった。
名前はローズ・ローセンバリ。何やらローセンバリ侯爵家の一人娘だとか。
「ここがあなたの家よ。部屋を案内するわ」
(地下牢とかなのかな)
希望の光が途絶えた俺には、もう何もやる気は起きなかった。
奴隷として扱われ、死んでいく人生なら、快く受け入れよう。
誰かが言ってた言葉だ。
(誰だっけ……)
曖昧な記憶の回路から、その言葉を見つける。偉人が言っていた言葉だって言うことは、思い出すことが出来た。
それよりもまだ地下牢の出口にはつかない。ローズが立ち止まり、一つの扉を開ける。
俺の目の前に広がっている光景は、キラキラと輝いていた。
天蓋付きベットが置いてあり、ここはローズさんの部屋かと思ったが、俺を連れてこの部屋に入らせた。
「ここが今日からあなたの部屋よ。好きに使いなさい。必要なものは、させるから遠慮なく言ってね」
そう微笑むローズさんを後に、俺はローズさんの言った言葉が理解できなかった。
こんな素敵な部屋が俺の部屋?
そう言う懐疑に心が支配される。本当にいいのだろうか。ローズさんに聞くと、頷き返す。
本当にいいんだ。ここが俺の部屋。
ワクワク心が昂ってくる。ベットのほうに行くと、ふかふかなベットで、シックな勉強机、そして本棚。
今までの生活が全て嘘のように思えてしまうほど、素晴らしいものだった。
そんな時、階段を登ってくる音が聞こえてくる。そこへ現れたのは、一人の好青年だ。
緑髪碧眼の男性でローズさんはその人を丁寧に、紹介してくれた。
「私の婚約者、オルダイト王国の第一王子、アルフィー・オルダイトさんだよ」
(……………オルダイト王国の、第一王子!?)
度肝を抜かれるようなことを、さらりと言うこの人は、逞しい…と思ってしまった。
まさかの、王子が婚約者だとは思いもよらなかった。
「初めまして。アルフィー・オルダイトだ」
「は、はい。ご存知しております。オルダイト家は貴族制度がなくなってからも、王族であり続け、オルダイト王国をまとめ上げている…との事。
そんな中のアルフィー様は、学院での教師も務め、生徒からも厚い人望を抱かれているとか……」
優しそうな表情で、俺に挨拶をしてくるこの人は、本当にローズさんの婚約者なのだろう。
ローズさんもアルフィー様も、優しい笑顔をする。親同士の決めた婚約者だろうと、お互い好きだと言うことが分かった。
類は友を呼ぶと言うのは、こう言うことだろうか?
緑髪碧眼をし、低い声だとしても暖かさを感じる声質。初対面でも尊敬できた。
夜も更け、三人で夕食を食べる。夕食は豪華で、シチューにステーキと言った感じだ。美味しそうな湯気が出て、食欲をそそられ、夕食を平らげる。
久しぶりにこんなに美味しい食事を食べたのは、初めてだ。それがとても心が温まる。
俺はもう、アーロ・フィンレーじゃなく、アーロ・ローセンバリとなったのだ。