02話 恥さらし
『植物操作』にて、葉っぱを利用し、公爵家から遠い地へとやってきた。そこは、魔物の住処となっているが、『植物操作』で、葉っぱの集合体の上に乗っているため、魔物達の視界には入らない。
ゴブリンから、オーガまでいるが、誰一人として俺自身の存在に気付いていない。
なぜ俺が、こんな場所に来るか……。決まっている事だった。自然に囲まれるこの中で、嫌なことを全部忘れ、自分のことに集中できる環境が。とっても心地いいものだから。
きっと、公爵家では俺がいなくなったことに気づいていないだろう。それは、隠すことのできない明白な事実だ。
父さんも、母さんも、兄さんも、妹も‥‥。全員俺が大嫌いなはずだ。
それよりも、ここには大きな石があり、そこから王国内を見渡すことが出来るほどの、高さである。じっと、見ていると、足音が聞こえてきた。
だが、俺は足場を利用して、空に浮かんでいる。その為、見えるはずがない。そのはずなのに———。
「誰?誰かそこにいるの?」
(え!?なんで空じゃなくて、丘の方を見ているのに……)
なんで能力を使っていながらも、そのことに気づけたのかは、分からないが。ここではよくある動物の鳴き声!
「にゃ、にゃあ〜……」
(頼む!どっか行ってくれ!)
期待を胸に、そう願うと、
「なんだ、猫か」
と諦めてもらえた。心中の中で安堵している中、俺の視界に入る。それは、さっきの人がこちらを見ていることを。
「やっぱりいた」
(えーーーーーー?どちら様ーーーーー?)
突然のことすぎで自分の能力を解除してしまった。その為、地面へと落ち、衝撃が走るも、反射的に訪ねた。
目の前にいる間違いなく美少女に。黒い髪でボブより少し短めな髪に、瞳は緑色。生い茂った草木の色に似ている。
「えっと……………なんで分かったんですか?」
「私がいた所に影ができたのよ。それで不自然に思い、上を見た。そしたらあなたが安心した表情をしていたもの。それで気づいたわけ。今のって魔法の一種?」
(風に流されたのか……)
そう優しく聞いてくるその人は、どう見たって俺と同い年にしか見えなかった。なぜなら、身長が俺と一緒だから。
俺が155cmくらいだから、彼女はそれより0.1cm高いか、152cmののどちらかだ。
俺は立ち上がり、石の上に座る。俺の隣に腰掛けるその少女は、名前を告げた。
「私の名前は、グレース。グレース・アーヴィン。よろしく。あなたは?」
「…………俺は、アーロ。よろしく」
「アーロ……。うん、よろしくね!実は私、王国近辺に引っ越しをするんだけど、友達になってくれたら嬉しいな!」
と、意気揚々と俺の手を握る。白くて細い指だった為、多少見惚れていた。
“可憐”と言う言葉が似合いそうなほど、可愛らしい見た目をしており、おまけに召喚獣まで居た。
「あー、この子は『風の鳥』の種類なの。名前は“ヴァン”って言うんだ」
そう楽しそうに召喚獣を紹介する、グレースの様子を見ていて飽きなかった。
♦︎
話し込んでるのに夢中で、すっかり夕方だ。本来なら葉っぱを利用して帰るつもりだったが、グレースを乗せるわけにもいかないし、さっきのが魔法だと思っているグレースに言えるわけなかった。
この子が“魔法絶対的主義”の、人間じゃないことを祈るばかりだが。まだ分からない以上、言うつもりはない。
せっかく仲良くなれそうな子なのに、自ら地雷を踏みに行くなんてことはしない。
(だが、普通に魔物たちに出くわさないかが不安だ……)
こんな事になるのは、予想外な為、警戒しながら進むと、案の定魔物は出てくる。
「下がって!」
「え?うわっ!?」
いきなり後ろへと引っ張られ、唐突な事で地面に尻餅をついてしまった。
前を見ると魔法で、対抗するグレースの姿が目に入る。その姿を見て、“かっけぇ”と言う言葉が出てしまった。
颯爽と倒し、怪我一つないグレースを見て、魔法がないと生きていけないのか、揺らぐ所だった。が、決心を曲げるわけにはいかない。
「大丈夫!?アーロ」
「え、うん。平気」
焦りと心配な表情を見せるグレース。借りを作ってしまったが、グレースに助けられないために、もっと強くならなくちゃ……!と言う心が芽生えた。
「よかったぁ……!魔力が一切感じなかったから、咄嗟に後ろに放り投げてしまったけど……。怪我がなくてよかったぁ」
「ありがとう……助けてくれて……!?」
衝撃の一言が、電流のように体全体に渡る。
え?気づいてたの?と言う言葉が脳裏に並び、さっきまでの心配そのものがぶっ飛んだ。
(いらない心配だったんじゃ…………)
「あ、安心して!私ね、お父様みたいに“魔法絶対的主義”じゃないから!そもそも、魔法でその人の人生そのものが左右されるなんて、おかしいと思わない!?」
「うん、思う」
しかも俺と同じ考えであった事。それでやっと俺の日常にも光が訪れたような、感覚がした。
「森じゃ危ないから、森の出口まで送るよ」
「え?」
グレースの腕に触れ、俺は葉っぱを呼び起こし、足場を作る。そんな丈夫な足場に乗り、グレースも乗せ、森の出口まで移動させた。
♦︎
「すごい!今のなに!?」
驚きの表情を見せるグレースさんを見て、喜怒哀楽が激しい人なんだなぁ、と感じる部分があった。いや、驚く表情というか、楽しそうな表情だった。
森の出口に着いたところで、俺の家が真前にある。
「よし!ついた!」
「え?」
「ここ、私の家なんだ!」
「あー、ここが…………!?」
まさかの俺の家。正直、嫌な予感がした。めちゃくちゃ嫌な予感がした。胸あたりがざわつき始め、急いで家の中に入り、問いかける。
「ねぇ!どう言うつもり!?俺を追い出すの!?」
無視したまま、タバコを吸っていた。机の上には俺といつしか撮った写真が飾られていた。
それを取り、つい涙が溢れてしまう。そんなのにも関わらず、父さんはそれを取り上げた。
「なぁ、アーロ。お前はもう、うちの子じゃないんだよ」
そう冷酷そのもので発せられた、その言葉に俺はトドメを刺されてた気分だ。
「じゃあ、俺の部屋をあの子の部屋にするつもり!?」
「あぁ、もう来たのか。そうだ」
「妻がいるのに!?」
子連れの妻がもう一人、扉から顔を出す。それを見つけた俺は、ただただ苛まれているだけだった。
グレースの同じ、黒色の髪で、グレースよりは長いハーフアップをしているが、瞳の色だけ違う。その人の目は赤だ。
「悪いな。あの部屋にある荷物は、早々ゴミに出した。好きなとこへと行くがいい。それと、ファンレー家は名乗るなよ」
そう煽り散らす俺の……元父親は本当に人の心があるのか、と問いたくなるほどだった。
俺は、もうアーロ・フィンレーの人間じゃなくなった。
「そんなのおかしいよ!」
「グレース!なんて口の聞き方!」
「いや、構わないさ。そこにいる恥さらしを庇うなんて、心優しいんだなぁ、グレースは」
「気安く私の名前を呼ばないで!なんであんた達みたいな家族から、あんなに心優しい子が生まれたのか、不思議でいっぱい!!」
俺を庇い立てるんじゃなく、さっきまで話したことで、俺の印象を受けたのか、正直に話してくれた。煽り立てるような、笑顔でそう言うが、すぐさま後ろで聞いていた兄のレジーと、妹のエラに抑えられる。
「ごめんなさい。あなた。うちの子が」
「いや、いいさ。それより、メイドども!」
そう叫び散らす元父親の声によって、現れたメイドたちに、ある命令を命じたのであった。
「そいつを捨てて来い」
分かっていた。ここまで来たら。だけど、普通そこまでするか?と言う言葉がぐちゃぐちゃになった、心に現れる。
悔しくて涙が溢れそうだったが、ここで泣けばまた何か言われる。と、察知し、涙を流さず堪えた。
「分かりました」
そう冷徹な表情で、俺の服の首元を引っ張り上げ、連れていかれる。
俺は、外に放り投げられた。鍵を閉められ、俺のやってきた全てが無駄になった瞬間、脱力感な誘われた。あそこまでの能力開発、一、二年では時間は足りなく、少なくとも三、四年はかかっている。
「ハァ…最悪だー!!」
そうとぼとぼと、歩いていた時何かで転んだ。頭を打った為、打ったところを触り、下の方を見る。そこには俺の宝物と言えるものだった。
捨てられたと言っても、燃やしていないのは、幸いだった。もしかしたら、今まで記録した本がどこかに落ちているかもしれない!と言う希望が現れる。
(待ってろよ……。いつか、お前ら家族にも目に物を見せてやるから……。覚悟しておけよ!!)
そう目には燃えたぎる炎が、見えるかのように、心の中では燃えたぎっていた。
夕焼けが差し込む、王国の方へと足を進める。