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…アルキアン side…
両手に大剣を握り締め道を拓く。
鼻の奥に血が染み付いたような鉄の臭いがし顔を顰め視界にはその元凶ともいえる獣人族の肉片が舞う。
僕の炎で血は焼けて空気に溶けて罪悪感を募らせる。
普通ならばこの後ろを向く騎士達も指揮官が命令することで僕と対峙するべきだろう。
だがその誰もが僕の方を向くことなくただただ奥で暴れるライオット王の方を向いている。
かの軍師ならばこのことすら把握し対応することなんて容易いだろう…だがそれをしないってことはここに居る騎士はお察しだ。
「狙いはあくまでもライオット王のみってことか…」
国を奪うそのことだけに注力しているからこそ王を殺す事を優先している。
こちらの方を見もしない騎士や最後に死にたくないと願いこちらを向き防御する騎士を薙ぎ倒してると上空から何かが飛来してくる…白い肌や毛を持ち翼が歪に生えた聖獣が僕目掛けてその身体で押し潰さんとしてくる。
「くッ…!」
両手に持っていた大剣の一本をその獣に突き刺すが勢いが止まらず襲いかかってくる為突き刺した大剣を手放しもう片方の大剣で防御体勢を取る。
手にズッシリとした重さがのしかかりつい口から息が漏れ地面に足がめり込む。
だが今の一撃でのしかかった聖獣は命を散らしたようで力が抜けたように押し潰してくる。
防御体勢を取っていた大剣に力を入れて押し返すと横にずれて聖獣は横に伏した。
そうして空を仰ぐようにして目を向けると空には白い斑点が飛んでいた。
何処を見てもその白が宙を覆いその背に乗る神官が炎を放っている。
時に魔法で、時に火炎瓶を放り投げ街を赤色に包み込んでそれと同時に宇宙までも赤へと染め上げた。
街にいる無辜の民を啄み捕まえた獲物を見せるようにこちらへ上空から落とし人はそれを魔力の糧とする…多くの命が散り始め獣は獣を襲いこの国に怨念が立ち込めてくる。
冷静にただ冷静に気持ちを落ち着けて息を整える。
僕の持つ『憤怒』の力は周囲の怒りという感情や憎悪を集めて炎という名の力へと変換する。
だがその上限は無く僕がいらないと言ったとしても際限なく集め身体に蓄える…だからこそ理性を無くしたら僕は僕が何をするか分からない。
「炎を燃やせ…冷静に怒りを力に」
溜まりゆく怒りを手から放出するようにして顕現させる。
手から現れたのは怒りを凝縮し憎悪へと変貌した真っ黒な炎が溢れてやまない。
僕の『憤怒』は使う怒りの報いあるいは復讐を果たさねばならない。
そうでなきゃ僕の身体に溜まった怒りが減る事は無くただ身を焦がすのだ。
「集いし怒りは復讐の種火…信頼を壊した騎士への報復、憎き奴隷として扱った神官への憎悪…されども死した者は懺悔の心は未だ忘れず」
悪魔を形取った自らの炎の鎧が激しく燃えて自らの肉が熱くなる。
感情の昂りは自らの身を傷つける…コレこそ憤怒の戒めにして最大の武器となる。
死してなおも怨み無駄を洗い流し無垢なる怒りを持つ魂の代弁者にしてその憎悪を救う処刑人こそ僕がこの力を継承した理由だ…今更になってそれに後悔など無い。
だがそこに僕の怒りが混じってしまってもまぁしょうがない事だよね?
「僕は復讐を果たす為の憤怒の騎士…業を燃やす人に慰みを、赦されたければ我らが怒りに赦しを乞い自戒せよ…コレは死者へと送る復讐の花『業華乃舞』」
手に持つ大剣は黒い火花を放ち、放たれた炎はおどろおどろしい糸のような華に変わる。
華は遠い昔に写真にあった東方の死者へと送る哀悼の華と言われた彼岸花の様に美しい。
散りゆく火花は花弁の如き大地へ辿り着くと炎が噴き上げその数を増やし次なる華を宙に舞わせる。
それは鳳仙花が熟成され種子を飛ばすようだった。
見た者全てが目を向けてその復讐の花から離れない…それ程にこの復讐にして鎮魂の花弁は美しいのだから。
注目されたがりもそれを追う復讐者もそれに従う民を見殺しにする勇士、獣でありながら味方では無い獣すら目には華が映る。
その華を増やす為宿木となる大剣を舞うように振い華を散らして種を飛ばす。
ひとしきり舞に舞って大剣を両手に持って剣先を地面へとつける。
「怨みを持つ華よ…咲き誇れッ!」
僕は復讐の代行者だが唯一の死した魂を慰める処刑人でもある…それ故に一瞬猶予は与える。
僕は主人に従う騎士それ故に我らが示された敵を討ち滅ぼす為大義名分を貰い受け力を振う。
そして…剣先が地面へと再び強く打ち付けられ放った火花はその力を示す。
あちこちから炎の華が咲いて見える全てを燃やしていく…そうして眼前に咲き誇るは黒炎の花畑。
踏み行く者は華に燃やされ身を焦がし風に揺られて花弁は舞い周囲に張り付いて黒炎を放った。
あちこちから挙がる阿鼻叫喚それが天に捧げる鎮魂歌となるだろう。
「ウォォォォォォッ!アッツいッタイ…何故ッ!?何故俺までッ!」
そうして戦場に一際響く大声…まぁ敵味方考えずやったらそりゃあこの国の王も燃えるわけで。
そんなこと考えながらいい眺めだと思っていると肩に手が置かれた。
視線を向けると黒い炎がついていない当主様が笑みを浮かべながらグッドサインをしていた。
「…少し失敗したようだが『憤怒』の力は使いこなしているな」
そう言いながらも目元は真剣で敵を見据えているが口元がピクついている。
僕の華による『憤怒』の炎は周囲の怨みからくる怒りの炎…だからこそ熱はあるが痛みは感じない。
効果があるのはあくまでも怒りの対象のみだ…まぁ今回は何故だか知らないがライオット王にもその痛みがきたようだが。
「空から聖国の増援が次々来ている…敵将の首、全力で取りに行くぞッ!」
「了解ッ」
当主様が雄叫びを上げ走り行きそれに続いて僕も走り出した。
…アルキアン side end…




