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…アルキアン side…
時は少し遡りアルキアンは全身を黒い炎に包みながら宇宙を舞いその炎を操っていた。
先程まで見えていた怨敵の将は後ろへと下がり指示を的確に行いこちらを追い込んでくる。
「チッ…聖国の奴らの増員が来たか…馬鹿にしやがってぇぇッ!」
向こうの宇宙からは純白の宙に浮く獣が向かって来ては僕達の退路を塞ぐように囲ってくる。
涎を垂らしその顔からは僕達のことを食べようとしているのが良くわかる表情だ。
獣に転じたライオット王はそのこちら見る捕食者の余裕の表情に怒りを示している…だがそちらの方を向き攻撃することができない。
僕と同じく宙を舞い発射されてくる靄がかかったような白い弾が僕達全員に向かって飛んでくるからだ。
逃げようとしても躱しても急旋回して再びコチラへと飛んでくる。
白い毛糸が集まったような見た目で一見すると柔らかそうに見えるが着弾すると小規模ながらも高威力の爆破を起こし僕の魔力を消してくる。
「「「弱き者は全てが罪、強き者は全てが正義、弱き者よ我々の糧となり彼の者を消滅させよ…聖なる光神の御技を今ここに『ディバインボール』」」」
罪無き民間人の首を掴み前へと突き出し騎士の背後に隠れる神官や魔法使いが詠唱する。
儀式として掴んだ首には十字架の短剣を突き刺し赤ではない白色の血が流れるとそれが弾となりこちらへと飛んでくる。
それが大勢で行うものだからその飛んでくる量はすごいこととなる。
上空から襲いかかってくる聖獣の対処をする為に炎を放つがその量が多い白い弾に当たると炎が霧散して消えていく。
魔力の消滅というのは僕にとって、いや戦う者全てにおいての最大の敵だ。
そうして対処出来なかった聖獣は巨体で食べがいがありそうなライオット王目掛け飛んでゆきその毛皮へと噛み付く。
「誰に許可を取って噛み付いている…邪魔だァァァッ!勇者の雄叫びを聴くが良いッ『ブレイブロアー』ァァァァッ」
「……ッライオット王よ今ここでされては!?」
噛み付かれて激昂したライオット王は息を吸い込み身体を縮こませると共に力を溜め一気に宇宙へ身体を逸らして解き放つ。
近くで共闘していた当主様が苦言を呈す瞬間その一声は戦場の空気を揺らす。
獣の雄叫びはこの戦場全体に響き砂埃を巻き起こし音圧のみで近寄っていた全てのものを吹き飛ばした。
宇宙を飛ぶ獣は頭を揺らし平衡感覚を失い地へと落ち何とか聖獣を操り落ち着かせようとしていた者は獣の生存本能が牙を剥き上に立つ聖国の使者を振り落として暴れる。
近づいて来ていた騎士は音圧に耐えようと盾を地に振り落とし飛ばされないようにし咆哮から身を隠した。
だがそれ以外…実質味方からの攻撃を受けた僕はというと全く構えていない不意打ちの一撃で平衡感覚を失い地上に落ちる。
目の前が正に真っ白に染まり頭から落ちようとしていた時身体が何者かに引っ張られ地面に衝突する前に掬われる。
「あんの馬鹿者が…一人で戦ってるんじゃないんだぞッ!」
そう言いながら僕のことを掴んだのは当主様だった。
身体にはあの音圧で飛んできた石礫にぶつかり痣が出来ておりながらも痛いという感情は外には出ず戦うという意志を放っている。
そして愚痴を吐きながらも視線はライオット王のことは見ておらずその先で待ち構える簒奪者の事のみを見据えている。
「当主様…ありがとうございます」
僕は地上に下されるとお礼を言い黒い炎で防壁を作り出す。
炎だから熱いがコレは僕自身から放っているからこそ自由自在で魔力を振り絞り当主様の視線を邪魔しないように出来るだけ透明で低音、それに音圧を通さない防御用の炎を放った。
ゆっくりした所で周りを見渡すと地に落ち死んだ神官や音圧で苦しみながらも本能を満たそうとその死体を貪る聖獣の姿が見えた。
「醜い光景だ」という言葉が口から吐きそうになったが呑み込んで周りを見る事はやめ前を向く。
前では圧倒的と言えた音圧を放っていた王が雄叫びを止め敵目掛け駆け出していた。
「オォォォォォォォォッ!そこをどきやがれぇぇッ」
地を踏み跳躍すると神官や魔法使いが集まり詠唱していた所へと降り落ち爪で薙ぎ払う。
薙ぎ払われ身体が飛んで地に打ち付けられて死んで行く。
それを見て背後に回られた獣王を追う為に騎士は僕に背を向ける。
「戦場で背中を見せる…か…アルキアン分かっているな?その間に聖獣はこちらで対処する」
「はい…道を開きますッ」
新しい黒い炎をもう一度身体に纏い大剣を作り出す。
今欲しいのは破壊的な一撃を決める両手剣ではなくリーチが長く全てを巻き込める大きな剣。
それを両手に持ち背を向けた相手に走り出す…片腕で振り下ろしこちらに気づき盾を構えた騎士を叩き潰し気づかない騎士の横腹を凪ぐようにもう片方の大剣で払った。
そうして前へと進み人を殺していく…地には人だったモノが転がり救いを求めるが如く口を開き目を見開いていた。
声は聞こえないがその顔からは無念というもう死んでしまうという恐怖やまだやりたかった事があるという後悔が垣間見えたがその多くに復讐という憤怒の感情が死んだとしても浮かんでいる。
この地で死んだ魂と呼べる怨念の怒りが僕へ囁き理性を削る。
ここで感情のまま暴れたいし気を狂わせ敵を屠りたい…そんな感情を押し殺し前へ進む。
あの子を支えたい、救いたい…幼き頃に見て感じた郷愁に近づく為に静かに誓った淡い恋心に従い今を殺して怒りと共に人を殺す。
…アルキアン side end…




