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焼けた人の残骸を乗り越えて血潮と騎士の死体を踏み締めて前へと進んだ。
その先では色々なものが見えた…騎士と騎士が戦い自国を文字通り斬り捨てる外道が蔓延る醜態に塗れた者ども。
混乱に紛れた仇討ちに主人と見られる死体を貪るカニバリズムに神官と手を組み仲間を見捨てた奴ら。
私はそれら全てを見捨てて見ぬふりをして走っていく。
助けを求める声が聞こえた…「水を」「食料を」「ポーションを」と、その全てを私は持っていたが振り切った。
私の近くにいる気が弱い者には大罪の力によって空腹が齎されるのを知ってなおその助けを私は切り捨てた。
「私は博愛主義者では無い…昔なら助けていたかもな」
そう何度も呟いて走り去る。
心が痛むが私の持ち物にも限りがある不可思議な食べ物が出る胃袋があるが取り出す時間が惜しい。
そんなありもしない戯言のような嘘っぱちを吐いて前へと進んだ。
耳が良くて目が良くて気配で人を見分けれるがこうやっていつも聞こえてくる声は何とも言えない煩わしい声ばかりだ。
昔とは言えないが前に『小さな英雄』という二つ名を貰ったがそれすらゴミの塊でできた産物。
私は到底『英雄』なんて大層な名前を持つに値しない。
「居たぞッ!貴様だなぁ…我々の悲観を邪魔する者は」
「ちッ…この通路もハズレか」
そうやって走っていると前の角から騎士と神官の混じり者軍団が此方を向き喚く。
前に現れた奴らを倒していたらこうして目の敵にされた…まぁ前にいたら邪魔だから相手していたんだがこうも恨まれるとは。
勿論私の目的はアルキアンの元へ辿り着くというのが第一目標だからあまり殺していないはずだがこうも注目されるのは予想外だ。
まぁ彼らからするといつの間にか混ざっている神出鬼没な敵対者という位置付けなのだろう。
「すまないが押し通させて貰う」
そう言い放つと共に虚空庫からいつしか買った安物の槍と何故入れたのか分からないいつかに入れた錆びた短剣のような欠けた剣を取り出した。
槍は先頭にいる騎士へ押しつけて倒し力一杯その押しつけた部分で肉を抉り突き刺し高跳びの要領で私の軽い身体は宙へ舞う。
そして落ちる先にいる神官の脳天へと剣で突き刺して敵の中心へ潜り込むと腰につけた琥珀色のナイフを持ち魔力を流した。
「すまないが先を急いでいるのでな…座標直下…魔法陣展開『底無し沼』」
魔法陣がこの廊下へと広がると共にそこは沼へと変わり果てる。
美しき大理石の廊下だろうとそれは茶色や泥色へと成りその上の物体を飲み込まんとする。
神官はその泥が自分の服につくだけで暴れて更に動くことで下に溺れていくが鍛錬を重ねた騎士たちはそうはいかず鉄の鎧を着ていようが這い上がってくる。
そんな頑張りようを私は見届けることはなく頭を踏み台にして先を急ぐ。
途中で足を掴もうとする輩もいるが身体強化を以てその手を払い除けて行く。
「此方突破されたッ!応援求むッ!」
私が向こう岸へと辿り着くと共に背後から大声でそんな声が廊下に響いた。
こうなると面倒でまた先に進むのが面倒になる…まぁ魔力を極力使わない方法となるとこうやるしか無いんだよなぁ。
ここに侵入する時に屋上へ『飛翔』すれば良かったのではと後悔するほどだ。
…今となっちゃその経路には聖獣が飛び回っているからしなくて良かったと思い始めている自分もいるわけだが。
なんせ絶対『飛翔』してたら空中戦になっていただろうからな。
「さて…部屋ガチャはヤバいがこの木箱なんかが丁度いいか」
応援を呼ばれて一々相手するなんて馬鹿がすることである…だから私は途中にある部屋へと潜り込み手頃な木箱に入り込んだ。
気分はダンボールに隠れながら潜入していくメタルな歯車がタイトルなゲームのよう。
だがこの部屋に入ったのはちょっと失敗だったかもしれない…所謂ハズレ部屋だ。
「あぁぁァァァァ…助けて、助けて…お腹空いた」
「目が…あった…君の目頂戴、頂戴」
周りからはそんな声が聞こえて木箱を引っ掻く音や何かが滴る音が部屋内に響く。
外の廊下ではガシャンガシャンとうるさく響く鉄が擦れる音がした。
前までは部屋に入るのみだったがたまーに部屋を見てから先に行く慎重な奴もいるから木箱があるのは運が良い。
…この部屋は死体遺棄用と定められた部屋なのだろう。
戦いについて来れなくなった騎士や戦いで気が狂った兵士や市民、そして殺した貴族なんかがこの部屋に敷き詰められている。
廊下なんかに置いておいたらその死体は遮蔽物となるし何せ邪魔だからこうやって一部屋にまとめているのだろう。
「さて、そろそろ頃合いだし行くか」
箱から身を出すとあたりの腐臭が鼻へと入ってきて少し顔を顰めてしまう。
周りではダルマとなった目だけ此方見てカタカタと笑う狂人や腹に剣が突き刺さって胃から色んなものがはみ出した市民が倒れている。
このまま死んだら彼らはゾンビにでもなるのだろう…それはあまりに可哀想だが此処は崖の城此処で私が身勝手に火葬なんてしたら酸素がなくなるかもしれない。
「…行こう」
そんな喋る者達を私は…虚空庫から取り出した豪華な装飾の剣で首を落とし殺した。
これは私なりの慈悲だ…救えはしないが救済はしたという自己満足だ。
中にはまだ生きていたいと嘆く者もいるだろうがその先に待っているのは地獄だろうから私の事を死んで恨めばいい。
背中に目線が突き刺さりながらも私は扉を開いて前へと進む。
昔なら回復の魔術を、私のスキルを使って回復させていただろう。
だがその痛みを知って逃避した者だからこそそれをさせたくはなかった。
生きるこそ地獄だと思わせたくなかったのだ。
「私は博愛主義者では無い…昔なら助けていたかもな」
そう吐き捨てて走り去った。




