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周囲に一瞬の閃光が満ち地についていた足は空を舞う。
安定した大地からおさらばして私達は空へと投げ出された。
そんな閃光により目が潰されたせいか両手で抑えられていた首は手を離れ軽い私の身体は仰向けになりながら落下する。
「な、何故空にッ!」
「魔法陣展開…飛翔ッ!」
神官が何か叫んでいるが脳が空から地面に向かって落ちているという私にとって耐えがたい苦痛の方が勝ち咄嗟に魔法陣を展開させて空を飛ぶ。
その場に停滞した私は無様に落ちていくその神官を目で追う。
下は少し開けた草原…どうやら獣人の国の少し外側に転移してしまったらしい。
まぁ壁の中に転移しなかっただけ良かったというべきか。
「とりあえず…回復を優先しなきゃね『回生』」
時間が戻るかのように折れていた首の骨が音を鳴らしながら戻る。
ジュクジュクと音を立てて石の礫によって気付かぬ間に傷がつき火傷を負った身体を癒していく。
やはりこの感覚は慣れないなと感じながらスキルに身を任せ身体を回復させた。
転移と回生…この二つをやっただけで結構な魔力がなくなってしまったが。
感覚的には元々あった半分以上無くなっているが相手は一人だけだし何とか行けるだろうという楽観的な思想を持つ。
こうでも思ってないと戦ってらんない…自信がなきゃ身体が鈍って仕方がない。
傷を回復させていると私の横に明るい光が通り過ぎる。
私には当たらなかったが風を哭かせて切り裂いて残光を残す。
下を見ると神官の周りには光のオーブが浮いており…それを飛ばしてくる。
「ッ!危ねぇッ!」
目を凝らしてその神官を見ていると腕を伸ばすと共に光のオーブが文字通りの光の速さで私に向かって飛んでくる。
最初のやつは試験運転だったのか次は私の横腹に向かって飛び込んで横に飛んで避けようとするとその飛んだ方向に光が飛ぶ。
威力は分からないが当たらないようにしなきゃヤバいという戦闘の感が警音を鳴らす。
そんなのが光の速さで襲ってくるのだから私は高速で移動する他ない。
飛翔の魔術を最高速度までギアチェンジさせて空をジグザグに飛行する。
あくまでもあの光が飛んでいく軌道はあの神官が手を向けた方向らしく手を向けた後ワンテンポ遅く飛んでくる。
私はその方向を向かれないように飛行していく。
このままでは飛翔の魔術により魔力が尽きるのが先になってしまう為空に指を滑らせて魔法陣を描く。
魔力はそんなに使えないので『収集の魔印』を追加して大気から少量の魔力を回収させて魔法陣を完成させる。
「魔法陣展開ッ!魔星砲…発射ッ!」
空に生み出した魔法陣は大気の魔素を吸い上げて魔力へと錬成し妖しい紫色の光を放つ。
そうして出来上がった魔法陣はそんな紫色を凝縮させて白色へと輝きを魅せて宙へと大きな弾となり放たれる。
生み出されたその砲撃は宙を駆け出し神官に向かって飛んでいく。
「ハァァァァァッ!フゥ…喝ッ!」
意気良い良く飛び出し壮年の神官へ激突しようとしていた魔星砲はここまで聴こえる声と共に消え去る。
…某シューティングゲームにあるボムを使ったようにその声が聴こえると近くにあった魔星砲が一つ消えると連鎖して次々に消えていく。
何故突然魔星砲が消えたのか何の影響で私の魔術が消えたのか考えていると身体が傾く。
そして頭が理解した…あの気合の入った叫びによって魔力が制御出来なくなっているのだと。
身体の魔力が制御出来なくなり自分の身体に回していた身体強化と飛翔の魔術が掻き消えた。
いや制御不可能になってしまったのだ。
魔術や魔法は繊細だから無意識的に私に危害を加えようとした繊細さを欠けた暴走する魔法陣を消してしまう。
…つまりはコレは戦闘で魔法や魔術、それに準じた魔力の運用が上手い奴ほどその影響を色濃く受ける妨害スキル。
咄嗟に瞑ってしまいそうになる目を見開き制御出来なくなった魔力を無理矢理制御しようとする。
身体と脳は悲鳴を上げ痛みが走るがそれすら無視する。
目が地へと吸い込まれ「もうダメか」と思った瞬間地へとぶつかる。
「アガッ!…か、グ…『回…生』アァ」
地面に頭から落ちてまたしても首の骨が折れて身体がバウンドし宙を舞い背中からぶつかって転がる。
こんなことだったらあんな空高くまで上らなければ良かった…そんな考えが頭を巡り痛みがないはずなのに感じないはずなのに、無くしたはずなのに激痛が身体を支配した。
「アァァァ…ァァァァッ」
喉が潰れてそんな痛みを叫ぶ声すら出ない…いや喉は潰れていない…じゃあ何で声が出ないのだろうか?
ただただ痛くコレが痛みではなく幻の痛みだと分かっていても頭がそれを否定するように痛みが続く。
並行思考の悪い部分が出ている…一つの思考では「私は痛みを感じないから痛くはない」という結論が出ている。
だがもう一つの思考では「あんな空から落とされたッ!絶対痛いッ!だってあんな空から落とされたんだぞ!?」という言葉がループして痛みを訴える。
身体は地に落とされた瞬間に『回生』により元通りになっているはずなのに痛みが残り動けない。
「おやおや大丈夫ですかね?いやーびっくりしましたよ…まさか転移なんて高等魔法を貴方みたいな子供が使うなんて思いませんでした」
そう言いながら此方へと歩を進めてくる。
私にはその歩みが…その魔力を掻き乱す人物が恐ろしくて逃げてしまいたいとすら感じた。




