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その場にいることが嫌になり足を前へと踏み出しこのパーティ会場の端っこにたどり着いた。
周りを見ればやはりというべきか人というのは噂を好む。
アルキアンと先程会ったトゥランベルをその噂の真相を確かめるべく引き合わせようとしている姿が見える。
フッと一息短いため息を吐きその光景から目を背ける。
会場内は婚約の噂で埋め尽くされつい私は耳を押さえたくなるがその衝動を抑えただただそれを見続ける。
話し声はデカく呟きすらも私の耳には弓から放たれた鋭い矢の如く入ってくる。
その噂の中にはアマガル家は先日の婚約を蹴ったという話もあればトゥランベルはその真偽を口にしないという話も聞こえる。
更に広まり外交問題になったのでは無いかという話やアマガル家は我が国に喧嘩を売ったという根も葉もない言葉が聞こえてきた。
そんな言葉達に憤りを感じながらも私からは何も言えず獣達は口を紡ぐ。
出された愚かさは止まることを知らず淡々とした嘲笑と共に会場を飲み込みそれが悪意に変わる。
この場で酔った誰かがその悪意を口に出したのだ。
「アマガル家のアルキアン殿の側付き人はどうやら女性らしい」
そんな燃料が投下されたらどうなるか?
答えは分かりきっていることそんな言葉は一気に広まり自らが持つ情報が混ざり合って混沌としたとある仮説が出来上がる。
それは簡単に言ってしまえば「アルキアン殿は側付き人が好きだから我が国の重鎮に当たるターナ家を振った」という単純でそれでいて最も有力な答え。
噂は更に広がりそんな声は更に大きく更に更に…と言った感じで羽根がついたり尾がついたりと二次創作にも似た誰かが聞いたら作った話としか認識できないような話題が次々に出てくる。
酒の肴の話題は段々と大きな声で話されこの場にその当人である側付き人がいるのではないかという話にまで発展した。
「もう此処にはいられないな…」
私はそう呟きまた足を前へと踏み出した。
幸いまだ誰も私には気づいていない…それにもう知り合いの姿すら此処からでは見えない。
少し此処を離れても誰も気づきはしないだろうし少しこの話題が冷めるまで外にいよう。
思い出したが吉日とは良く言ったもので即座に行動する。
人混みを避けて騎士達の足元を抜け扉の前へ行く。
扉の前では何人かの魔術師の様な装いの貴族がおり何かの魔法を発動していたがそれも避けてパーティ会場を後にした。
そうして歩いて…あの日見たこの国が一望できる鍾乳洞の断崖テラスへと着いた。
ここから見える景色は確かにずっと見たくなるほど綺麗で目を奪われる。
こんな期間でも民はこのテラスで感傷に浸りこの場で涙を流す者すらいる。
この崖にできた城には今外国から来た多くの貴族がいるのだがそれでもここでは平時と同じ感じ。
それが良いことなのか悪いことなのか…。
「なんて…不用心なんだろうか」
この国には明確な敵がおりこんなにも各国の重鎮が揃っているのにも関わらず平然と民を中に入れる。
敵国のスパイにはお粗末な変装ではいられるのにも関わらず誰も対策すらしない。
…いや対策はしているんだろうけど。
今日のこの廊下を見るだけでも装備を着た獣人族の冒険者や兵士は見たし防衛面だけ見れば完璧だ。
だがこの国の主人がアレではしゃいでいるのだ。
当然というべきかその影響で冒険者や兵士も振り向いた先の廊下で酒盛りや持ち場を離れお祭り騒ぎだ。
私はそんな廊下でふざけている冒険者達を一瞥した後にまた街の方を見ようとしたその時だった。
閃光が街の片隅から弾け爆発音を響かせる。
それを皮切りに各地からは民衆の叫び声や爆発音が聞こえてくる。
廊下にいた冒険者や騎士達も「何だ何だ!」と言いその光景を見た後すぐさま街へと走り出した。
断崖のテラスにいた人達も騒ぎ出し家族や友人の心配して不安を煽る。
先程までの空気とは一転し絶望感あふれる悲鳴が街に響き美しく見えたテラスの雰囲気を曇らせる。
いつも通りの日々に少しのスパイスどころの話では無く民衆は混乱する。
血気盛んな獣人族は天へ咆哮を始め子供は大きな涙を流した。
その声を聞きつつ私はその場を後にした…別に何も思うことなんてない。
どうせ他人だろうしそこら辺は冒険者達に任せたほうがいいだろうから私は何もしない。
向かう先は勿論パーティ会場なのだが…。
「…なんか壁が出来てるんだが?」
パーティ会場の扉の前まで来ると扉の前では騎士達がその扉に向かって剣や己の拳を振るっている姿が見える。
振り下ろされた剣は扉に当たると青白い波紋を広がらせた後剣を弾く。
どうやら特殊な結界が貼られているように見えこういうのは私がやったほうがいいのではないかと思ったが扉の前に陣取る獣人族がそれを良しとしない。
「王様ッ!侵入者が現れましたッ!あのクソッタレな国からの刺客でございます…ここをお開けくださいッ!」
「うるせぇッ…こんなん壊せば良いだろッ!」
少し頭の回る獣人族もいるようだが周りに流され集団を大事とするその獣人族は皆と共に結界へ攻撃をし続ける。
コレではいつかはこの結界を貼っているやつの魔力が尽きることで消えるだろうが時間がかかりすぎる。
「だが…まぁアルキアンが無事ならどうでもいいかな」
ここへはアルキアンが心配だから来たってだけだ。
そう思うと頭に浮かんでいた黒いものすらなくなりスカッとした気分になった。
後思うところがあるのはあのトゥランベルのことなのだが…何で私はあいつの事なんかに思い馳せているのだろうか?
そう考えてるとなんか段々とさっき振り張った頭の中の黒いものが再発するように増えムカついてくる。
「とりあえずこの混乱でも観察しよう」
今頭で考えた事の一切を首を横に振って振り払う。
私は自己暗示するように不安を押し除け呟き今来た道を振り返り歩き出す…がその視線の先にはこの場にふさわしくない神官姿の人族が顔に微笑を浮かべて歩いてきていた。




