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孤児のTS転生  作者: シキ
孤児と愚者の英雄譚
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「続けて参ノ術『盲震』ッ…」


私の力を抜くと同時に上から覆い被さるようにして大爪と体躯が押し寄せてくる。

大爪は棒に当たり私の放った『崩撃』の残滓を押し潰そうとし手応えを感じたのかその顔は獲物を得た狡猾な魔獣のように笑う…がその顔は一瞬にして消え去ることとなる。


私の持つ棒は軽く横に振られ身体を押し付けるようにしていた力が離れたことで傲慢野郎は体勢を崩し大爪はあらぬ方向へと導かれる。

先程までつっかえ棒のようにされていたソレは先端が爪から離れ地に落ちる。

魔力を込めているのは棒の片方の先端だけではなく両端である…振り下ろし地面に落としたことで反対側の棒は跳ね返るように天へと向かい傲慢野郎の脳天へと振り落とされる。


私の身体は宙に浮きながら棒を振り落とし後ろの頭へと当たる音が響く。

今放つ『盲震』は敵の虚を突きながら魔力を宿したモノで敵を揺らぐための技。

『盲震』とは小さい動きで敵へ反撃を行う意思の元創り出した反撃の手段だ。


傲慢野郎の毛は鉄のように固く金属音を鳴らしながらもちゃんと攻撃は効いているようで絶叫を上げる。

身体能力を魔力によって補い上昇させているからか馬鹿力を出せるようになりそこから放たれた一撃は…普通に魔獣の頭蓋骨ぐらいは割れるほどの威力を持っているはずなんだがコイツにはあまり効いていなさそうだ。


「ガァァァァッ!アアァァァァッ!」


地に伏して大地と大胆にキスをかました野郎は毛を逆立てその場から起きながら足を伸ばし身体を軸にしコンパスのように回りだす。

今ので余裕がなくなったのか私を本気で殺そうと必死なのが見受けられる。


…今の私の構えというのは受けを基本としているカウンタースタイル。

相手の攻撃を受けて流してから攻撃を与えるというスタイルだ。

その分体力も魔力もかなり削られるし一対一の攻防でしか対応が出来ないがこういう魔力を使わず身体能力のみで戦ってくる相手にはかなり良い手だ。


傲慢野郎の毛は先程より長くなり爪は更に長くなる。

先程より獣化が増しておりもはや理性の欠片も見られない。

突っ込んできてはお手の要領で地を砕き口を開け私を噛み砕こうとする行動には恐怖を覚える。


もはや先程まで観客に魅せるように行動は無く獣の本性を剥き出しにしながら私へと攻撃してくる。

…だがそれでも獣人達には魅力的に見えるようで一挙一動するたびに歓声が上がる。


「だが…私の勝利だッ!」


突進してくる所へ棒で脚を薙ぎ払い体勢を崩した所で『浮遊』の魔術を使用して宙へと舞い上がる。

傲慢野郎は理性を失い地へまたしても突っ込んで行き私は宇宙へ。

今の今まで何故私が最低限の技しか使ってこなかったのか何故受け身だったのか…それは絶対に野郎を潰す手段を作り出す為だ。


何故最初に曇らせたと思っている…それは宇宙に映す魔法陣を隠す為。

頭で構成するからこそ魔力と魔素さえ届いて場所を把握できていればどんな場所でも魔法陣を描くことはできる。

流石にここまで大きな魔法陣を描くのは初めてだったからかなり時間がかかったが無事に完成した。


「全ての魔力を糧に星の収束されし炎とならんッ!」


『天雷砲』すら効かなかったその毛皮はどこまでの負荷に耐えられるのか気になっていた所だ。

この際にハッキリさせるためわからせてやろうと思う。


依然としてここに漂う魔素は恐らくは宇宙にも存在するだろう。

それこそ無数に存在しているのだろう…こんな不可思議な力を持つ粒子は私のいた前の世界では見ることすらなかった。


ならばそれが活性化あるいは生み出された世界がココだと仮定すればこんな獣人や魔獣というのが生まれたのも疑問が浮かばないというもの。

コレこそがパラレルワールドだと思える一端であり私達が夢見た異世界そのものと言える存在。

それを魔術として扱い星の力を使った炎に仕上げる。


「魔法陣展開…『星涙炎』」


宇宙に浮かぶ大きな魔法陣を中心に周囲の小さな補助的な魔法陣が起動する。

頭の中で何かが切り替わるそんな「カチッ」という音が耳に聞こえながらもただただソレに没頭する。


最近までこの感覚は無かったからこうなるのは久しいが息が詰まる…が視界が鮮やかに映り様々なイメージが浮かんでくる。

所謂アドレナリンが分泌されたって奴なのだろう。


シンボルは炎と闇を象徴する月を元にして作り出している…この一つの魔術だけでかなり魔力が持ってかれるから収魔の魔術も使っているんだがそれでも発動するだけで精一杯だ。


曇り空に光が灯り魔法陣が本格的に作動したことで『天雷砲』で作り出した雲の魔素すら吸い上げその全容が見え出す。

紫色や水色に輝き妖しく見えるそれはゆっくりと脈動し魔法陣の中心に玉となるように集まり一つの輝きを持つ白い炎を落とした。


傲慢野郎を魔法陣の中心の真下に来させるのは苦労したが…まぁコレで奴は終わりだろう。

魔法陣から産み落とされた一つのファイアボールは垂直に落下しで行く。

獣の本能か危機察知能力が働いたのか分からないが傲慢野郎はその場から逃げ出そうと逃げるが既に範囲内だ…逃れれる訳がない。


地に落ちた炎の玉は破裂し瞬きをした次の瞬間には白の炎が天を突くような塔へと変わる。

青白い火花を放ち熱風が吹き荒れる。

もはや観客ですら誰も止められない状況へとなってしまったのだった。


*今回使った魔術一覧*


『星涙炎』:多量の魔素と魔力で作られる魔法陣の末に生み出される炎の玉が地に落ち弾け高熱の白炎と熱風が生み出される。だが大掛かりすぎて当てる相手の位置を考えなければならない。

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