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暗い空に何枚もの板が重なるように魔法陣が展開される。
黒い炎は天へと昇り白い粒子と共に魔法陣へと吸い込まれたことで煌びやかながらもその禍々しく揺らぐ炎は不安を呼び起こす。
シンボルは雷が描かれその近くには複数の魔法陣が更に描かれる。
今追い求めるのは最大火力の攻撃。
この空の光景でついさっきまで攻撃の手を止めなかった騎士や王族ですら距離を取る。
凄い勢いで魔力がなくなっていく感覚に襲われながら全力で魔法陣を構築する。
天に向かって吼えるワイバーンには更に鎖で縛るように首や上体に黒い炎と共に巻きつけ暴れるその身体を固定する。
「魔法陣展開ッ!穿て天雷砲ッ!」
魔法陣の中央に魔力が集中し魔力と黒い炎が混ざり合い紫色の光が顔を見せる。
黒い炎っていってもこの普通の魔術だと単なる私の魔術を行使する魔力の肩代わりというか支援程度だと思ったが予想は外れ魔術と混ざり威力が増しているように思える。
そうして地上に向かって放たれた一撃はワイバーンの全身を呑み込んだ。
一筋の紫の光が落ちた瞬間それは大きく広がり轟音を森全体に響かせる。
草木が燃え石の隙間から生物の体内に入りその雷は肉体に衝撃と炎による火傷を負わす。
その雷による一撃はついには終わりを告げ空にはいつも通りの暗闇と星の灯りが戻る。
私とアルキアンで喰らわせた攻撃はワイバーンの内側を焼き尽くし見るからに満身創痍といった感じだ。
鎖は未だ縛り付けてあるが指一つも動かない。
雷によって脳まで痺れ感じない身体の痛みによって動けない。
どうして動けないのかすら分からないのだろう…ワイバーンは目だけがあちらこちらへと素早く動く。
そうして一人アルキアンがワイバーンの元へと剣を片手に近づく。
剣には黒い炎が巻き付き鎖からも黒い炎が共鳴するように蠢きアルキアンの側へと這いずる。
その炎はまるで生きているようで死へと誘っているかのような幻視を覚える。
剣は天へと掲げられその形を大きく変える。
炎は集まり黒を更に黒い漆黒へと変え前まで見た無骨な大剣ではなく装飾が飾られた大剣へと変貌する。
…それだけあのワイバーンの怒りは大きいのだろう。
死に間際でもコレほど怒りを持っていられるとは…どれだけ仲間が殺されて悔しかったのだろうか?
アルキアンの大剣は大きく振りかぶられそれと同時にワイバーンは口を開ける。
何かを叫び咆哮をしたくてもその口からは掠れた息しか出てこない。
首と頭には鎖と炎が巻き付き体内すら燃やし内側は水分すら蒸発している。
もはや息すら絶え絶えなのにこれ以上は何もすることはできないだろう。
大剣は重力に従い振り下ろされる。
重量を持ち放たれたその二撃目は岩の隙間へと撃ち込まれ岩を割り鱗を壊し肉を断つ。
断った所から鮮血は吹き出し地面を赤く染め上げる。
竜の血を持ち亜竜と蔑まされるその存在は未だ目に光を失わず今自らの身に致命傷を与えた存在から目を離さない。
「勝鬨を上げろッ!俺達の勝利だーッ!」
暫しの静寂の後に後ろに下がった王族が声を上げる。
その声に兵士や騎士までもが声を高らかにし喜びを表す。
ついに決着はついた…だが私は何故か喜べはしない。
私は未だに地に伏せるワイバーンのそばで大剣をその身に下ろしているアルキアンの側へと駆け寄る。
ワイバーンは血を流しながらもまだ信念を持つ目はアルキアンから離さず睨みつける。
「僕は…あんな風に喜ぶことができないよレナ…コイツにも仲間がいて殺され傷をつけられたから怒って攻撃して来た被害者なんだから」
アースワイバーンは魔物の中では温厚な種類に分類される。
今回は私達のような貴族が通る為危険分子の排除という名目で攻撃されこうやって討伐したがそこらの冒険者なら無駄に争うことなく無視するべき存在だ。
私達さえ来なければコイツらは他とは違う仲間達と仲良く生きることが出来たのだろう。
まぁそんなことを私達冒険者が言ってしまってはキリがないというか都合の良い言葉となってしまうから口にはしないが…。
「…そうだな」
そう呟き相槌を打った。
私のエゴでしか無いが心の中で謝る…形こそないが不可思議なことがある異世界だ。
きっとこの願いもそんな不可思議で伝わることを願うこととした。
気付けばワイバーンの目は曇り焦点すら合わなくなった。
その魂が宇宙へと渡ったのだろう。
背後からは歓声が聞こえ当主が指示を出しアースワイバーンの素材を剥いでいく。
隣にいたアルキアンは当主の元へと歩き出し私もそれに倣い当主の元へと移動する。
「ふむ…アルキアンそれにレナ殿先程は「お前があの憤怒の大罪の所有者だろ!?なんだよさっきのスゲェなッ!いやぁ今までどうでもいいと思ってたアマガル家の倅がこんなんだとはなぁ…なぁ!?」…」
当主の元へと移動し開口一番名前が呼ばれたかと思うと横から突然獣人の野郎が出て来て言葉を遮る。
そしてそのまま萎縮したアルキアンにマシンガントークを持ちかけそのまま話があると連れて行ってしまった。
「…俺アイツ嫌い」
「そう言ってくれるなレナ殿…あんなんでも一応は一国を統治する王なのだ」
当主様はそう私に言うとため息をついた。
ワイバーンの解体作業は続く…私はただただ口を閉ざしながら当主様の側で佇むことしかできなかった。




