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この空間を維持していた存在が完全にいなくなったからだろうか周りの空間は更に歪み白い霧が視界を覆った。
そして次に瞼を開けると…あの孤島にいた。
アルキアンと6つ目の魚人族は地に伏せる魚人族を見るとすぐさま近づいて救助活動を行っていた。
私は地に転がった王冠を手に取った。
あのワダツミが持っていた王冠だけ何故か私の能力でも消すことができなった…どう見てもワダツミがつけるには小さすぎる代物だが何故持っていたんだろうか?
そして私はふとその王冠の中心に豪華に装飾されている周りの宝石より大きな青く光る宝石に手をかけると声が聞こえた。
『羨ましい…妬ましい…何故こんなにも愚かなモノが多いのだ…早く…早くコレを被っておくれ…願いを叶えてくれたら其方に全てを凌駕する力を与えよう』
声が呪言のように耳に響く。
あの中で聴いた王女の声によく似ていてそれでいて何処か違うそんな声。
何故水色の宝石というのはこんなにも厄介なのだろうか?
そんなことを思いながら私は虚空庫の中から一際大きな水色の宝珠だったモノを手にする。
この世界に戻ったからだろうか最後に見た水色の輝きは失い今は無色透明となり端が霧のようになっていく。
「…それを此方へ返してくれないか?」
影が私を覆い重低音が聞こえた。
そこには4つの腕にそれぞれ先端に王冠に近づくほど早くなる鼓動のような点滅をしながらも水色の輝きを持つ宝珠が装飾された王笏を持つ6つ目の魚人族がいた。
どうやらこの王冠を観察している間にここから離れる準備が整ったようで船も着いている。
私はその言葉に従い手に持っていた王冠を手放した。
「ありがとう…ゴーントが何処で『嫉妬の冠』なんぞ見つけたんだか」
そう呟き側にいた従者が持つ箱の中に王冠をいれ下がらせた。
私はこの際だから持っていたその宝石のことも聞くことにした。
それに聴いた話では嫉妬の大罪を持っていたのは海を漂う球体の生命体だったはず。
そのワダツミやゴーントといった奴が持っていたのも不自然だ。
「宝石のことを聞きたい…か…レナ殿だったか君はアルキアン殿と同じく大罪であり善の心を持つ救世主だったか…それだったら」
そう一息吐くと話を始めてくれた。
どうやら冠の埋まっていた水色の宝石というのは元は外から降りてきた生命体今で言うところのクトゥルゥが持つ命の源だったらしい。
だがそのクトゥルゥの住む場所にある時大きな厄災が起こり星は弾け飛びその時に命の源は砕け散らばりこの地に落ちてしまった。
その宝石や宝珠はあるだけで水を綺麗にしてとてつもない魔力を放ち周囲の繁栄や持っているだけでその者に永遠の命を与える代物だったそう。
あの物語内では呪文を唱え水を綺麗にしそれぞれに個性という名の属性を魚人族に与えたからクトゥルゥが来た…という形だったが本当は元から回収する為ここに来たのだという。
クトゥルゥは王女が拾った宝珠を返してもらう為魚人族に交渉を持ちかけた。
それが今後生まれる魚人族に人族のように属性を持つことを祝福すること…ただしその代わりに宝珠と繋がりを持たせる為神格として崇拝を行うことを条件とした。
そこで宝珠を返せばよかったのだが王女はクトゥルゥが持つ手元にある宝珠より更に輝き巨大な宝珠を欲しがった…その逞しく悍ましい姿を全ての支配のため欲しがった。
それが引き金となり戦争が起きた…王女は魚人族を操りクトゥルゥはそれに応戦…最後まで立っていたのは傷ひとつないクトゥルゥだった。
愚かで誰かを羨ましく思い支配し自らの羨望に支配された王女を酷く愚かしく無様だと感じたクトゥルゥは魚人族には王女は要らないと告げると王女を宝珠に変え砕いて海に投げた。
その後クトゥルゥと魚人族の交渉は苦難ありながらも徐々に好転し今の魚人族が生まれたとのこと。
その宝珠が今王笏の先にあるものであり次第の流れで徐々に擦れて削られ小さくなり今ではこの近海中に存在するらしい。
宝珠は今もなおその効力を持ち水を綺麗にし属性の力を引き出す…王笏の先のは見つけた中でも大きいものを取り付けてあるとのこと。
そして王冠に埋められた宝石は王女を慕う裏切り者が真っ先に手に入れた心臓にあたる部分の宝石であり王女を象徴する王冠にしたことで呪いのような言葉を発するようになったのだとか。
だから海に散らばる宝石は嫉妬の大罪を持つ…海で拾えばすぐさま警備隊に知らせてほしいと言われた。
「ふぅ…少しばかり話が長引いてしまったなそろそろ船が出発する…改めてありがとうレナ殿」
そう6つ目の魚人が言うと従者と共に海に入って行ってしまった。
手に持っていた宝珠も最後の霧が空に消え完全に無くなる。
前を向くとアルキアンが此方へと走ってくる姿が見え私は「アルゥお前貴族だろ?そんな急ぐなよ…6つ目みたいな威厳が全くないぞ?」と軽口を言い近づく。
「ハハッ…痛いところを突くねレナは…そろそろ船が出るから一緒に行こうと思ってさ…それじゃぁお手を此方へどうぞ…レディ?」
私は「馬鹿かよ」と笑いその差し出された手に自分の手を重ね歩き出した。
宙は黄昏時である夕暮れを過ぎ星いっぱい広がる美しき夜空となり私は一時の空腹を忘れながら二人で船へと向かった。




