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「さぁフィナーレと行こう…なぁに簡単な話だよ王女が奪われたらワタシの負けで王女を守ればワタシの勝ち…この場の最終幕まで行けた者が勝者だ」
神官姿の老人はその言葉を言い放つと一部の魚人族は雄叫びを上げ宙から降りてくる触手にトライデントを突き立てる。
王女はその光景に絶句したように口に手を当て老人は錫杖を地面に突き幾千の水の刃を浮かべる。
「生命の源たる水よ…鍛えられし刃となりて我が敵を切り裂けッ!『ウォータースラッシュ』」
その言葉を紡ぎ空に浮かぶ水色の刃は宙へと悠々に存在するクトゥルゥ目がけて飛んで行く…がそれを上回る魔法がそれを遮る。
水の刃は別の方向から飛んできた津波に攫われ勢いを無くした。
何度も何百もの水の刃がクトゥルゥを襲おうと飛ぶがその度に津波は何処からともなくやってきてそれを無に返し海へと流れる。
「あ、あぁぁぁッ!…何処まで邪魔するつもりだ!?この叛逆者共がッ!」
「なぁに…吾はただ今の時代を治める為にすべきことをしてるまでよ。ゴーント=デトラトよ…ここで貴様は終わりだ」
視線の先では老人とあの境界に祀ってあったクトゥルゥよりクトゥルゥの見た目をしている異形の魚人族が睨み合っている。
そうして火蓋が切られたかのようにお互いは魔法を放ち合う。
老人は空中に水を作り出しその水を武器に変えもう一方は海を操りクトゥルゥのような水の触手を作り出しその武器を叩き落とす。
『ふむ…全く同族同士で争い合うとは愚かしい者共だ。だがこの$°#☆+〆は暇ではない…代償の契約の為少しながら残酷だが落とし子よ生命を穢せ』
陽は落ち眩しさは無くなろうとし宇宙に星を映し出す。
生命の源とされる大海の半分は宇宙の色を身に籠り火が灯されたように赤くなり海の底にはもう一つの陽が出来上がる。
もう一方の半分には暗き宇宙を身に籠り満天の星空の煌めきが見え隠れしその煌めきは揺らめき出す。
「「「「「イアガ…アグァ…イアアアアァァ」」」」」
奇声にも聞こえるその生命を削る絶叫が海に木霊し海より朽ち果てた魚人族が顔を見せた。
それは悍ましく腹が無いのに動く…顔が無いのに動く死体の肉塊。
そんな存在が生き残る魚人族へと襲いかかる。
力無い者はただ襲われその身体は簡単に引き裂かれその肉塊の仲間へと成り下がり力ある者も次第に生命を失っていく。
「ちッィ…あんのクトゥルゥめが…」
6つの目を持つ魚人族は明らかに悪役の老人から視線を外し今襲われている弱き魚人族の助けに入る。
その瞬間を老人は見逃さずに水の槍を投擲する。
「ハハハッ!どうした!?ここにいるのは唯の紛い物だと言うのにそれでも御仲間を守る為働くのか?全く笑えるなぁッ!」
「……何処であろうとも吾の志は変わらぬ。吾はコレが唯の紛い物だろうとか弱き同胞を捨てはせぬッ!」
老人は宙に多くの水を浮かべ刃を作り出しては無差別に攻撃を開始する。
対しての異形の魚人族は攻撃を避けつつ同胞をが助ける。
動くんだったらここが最適か…今のアイツの目には魚人族しかみていない。
それだったら私が今攻撃しても気づかずに済むかも知れない…。
シンボルはつむじ風…飄々と吹く風の如く自然に誰も気づかず其処へと辿り着き虚空庫からナイフの柄を掴む。
「魔法陣展開…『エアロスラッシュ』!」
全身に身体強化を施しナイフを振る瞬間に魔法陣を通過させ魔術を付与。
木を薙ぐあの鬼神が放つ一閃の如く鋭くッ!
その一閃は…王女の両腕と片足、老人のバランスを崩した。
…あぁどうやら気づかれたようだ。
まさかあの一瞬の気配を出しただけで咄嗟の行動を取るとは…だが私の魔術はただの初撃に過ぎない。
「ありがとう…レナ。コレで僕も漸く動けるよッ!『憤怒の灯火』よ蠢けッ!」
視界の端には黒い揺らめきが見えた時からコレを待っていた。
水がここを襲い宙を飛ぶからこそ全身に炎を纏いその炎を操るアルキアンの姿は蜃気楼のように揺らめく…正に私達は暗殺者のようだ。
水は空中で炎に当てられ蒸気となりアルキアンの姿は更に歪む。
正にアルキアンにとって水で支配されたここは隠れるのに最適な場所だったというわけだ。
何処にいるのか本当に其処にいるのかもわからない姿が見えたとしたらそれはすでに終わっている時だろう。
動き出した黒い炎は老人を取り囲み簡単にその身体を燃やす。
老人は苦悶に満ちた表情を浮かべるが手に持っていた気絶した王女を蹴り飛ばしその炎から脱した。
「はぁ…はぁ…まさかこんな子供にしてやられるとは思ってもいませんでしたよ。しかも貴方は確か王国の大罪保有者ですか…ハハハッ本当に何処までも邪魔をしてくれますね」
「ゴーント=デトラト…終わりにしろ。王女はもうクトゥルゥの手に落ちた…物語は終わりだ」
老人が自分だけは助かる為に蹴り飛ばされた王女の方を見るとその身体は宇宙から降りてきてる触手に捕まっており宙へと昇っている。
このままでもこの物語が終わって元の世界に戻るってことだろうか…。
「ハハハ…だが…まだフィナーレは終わらないッ!ワタシのこの生命が尽きるまで使命を果たすまでこの物語は終わらないのだよ」
そう言い放つと懐から本を取り出す。
アルキアンはそれに合わせて黒い炎を操り老人に迫るがそれを回避…私もそれに加勢しナイフを取り出し飛ばすが膝に一本のナイフが突き刺さるだけで致命的な攻撃にはならない。
「ククッ…この若造めが世界はまだ終末には達ないッ!さぁ我らが手で物語のその先…復讐物語を綴ろうではないか!」
本は怪しく光を放つ。
周囲は色を失い周囲の色は鮮やかになる。
宇宙からの藍は美しく地上に降り注ぎ宗教画の様な神聖さを帯びた輝きを放った。




