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上では気持ち悪い音を立てながら新しい生命の誕生を果たしその生命が我先にと私達の階層へとヘドロのように落ちてくる。
その動きは遅いながらもしっかりと私達の方を向いており肉塊が集まり魚の鱗が突き刺さった肉のようにしか見えない異常な腕と言えるかも分からないモノを届いていないと分かる距離でも振るい壁や同族を切り裂く。
切り裂いては肉塊が飛び散りそれがまた蠢き新たな分体が作り出されていく。
先程まで動かぬ死体だったのに何故今になって動き出したのだろうか…。
コレがこの神殿に住まう神の仕業とでもいうのだろうか?
「ここから帰る為にもレナ…一気に行くよ!」
隣にいるアルキアンがそう言うと抜剣し地を蹴り魚人擬きを斬り伏せる。
同時に黒く燃える炎でソレを燃やすがそんなの効いていないと言わんばかりに蠢き形を成していく。
というよりかは私はアルキアンが出した黒い炎がこんな海中でも使えることに驚くばかりだ…やはり普通の炎の性質とは違うのだろう。
それに習って私も走り出し近づいてくる魚人擬きの顎へ掌底打ちをした後身体強化を施した腕を振るい脇腹へと全力の打撃を加え骨を折る…が骨が折れてなおすぐに立ち直り私へと腕を伸ばす。
やはりこの魚人擬きはゾンビとかの類と見て良さそうだ…何せどう考えても痛みを顧みない行動だしな。
そもそも何故この魚人擬きは肉塊になった後も集まって魚の姿を模すのだろうか?
私は虚空庫を呼び出しいつかの時に手に入れたそんじょそこらの扱いだと壊れはしない伸びたり縮んだりする杖を取り出すと魚人擬きを薙ぎ前へと進むことだけに注力することとした。
ちなみにだが虚空庫はこのまま開けると海水が入り込んでいる状態だ…まぁ中にある物が濡れるという心配はない。
ただ虚空庫の容量を海水が圧迫していくという感覚だけは感じるから直ぐ閉じるのが最善ではあるが。
出来れば槍でも出したほうが良さそうだが…ここは海だし金属が錆びてしまうからな。
アルキアンみたく資金が潤沢しているから武器に困らないって程では私は無いし何せ貧乏性な部分が顔を出しているせいで金属製のものを使いたくないっのが本心だ。
とは言ってもここを強行突破するには今のままでは時間がかかってしまう。
上から降ってくる魚人擬きも段々と強くなっているようにも思える。
先程までただの鱗が突き刺さった肉塊だったのに今では身体にちゃんとした鱗が被さっておりアルキアンの剣での攻撃を弾くようになっているのも確認できる。
上に行くたびに後ろにも魚人擬きは増えていっているから…ここは一発デカいのを使用して切り抜ける必要があるのだ。
飛翔ならば階段と階段の間の小さな隙間を縫って上昇すれば切り抜けることが可能に思えるがその隙間からは肉塊が顔を出し今か今かとこちらへ飛び込もうとしている為危険だ。
魔術で切り抜けるにしても攻撃力のあるやつだと生き埋めになるかもしれない。
「うぐ…ッ!」
そうやって突破方法を悩んでいると前からアルキアンの曇った声が聞こえそちらを向くと手から剣が弾き飛ばされ肩から血が滲み海中を少し赤く染めている姿が見えた。
周りにいる魚人擬きはその姿に興奮したのか口をガチガチと鳴らしまるで食事が出た犬のように見える…あぁ成程悩んでいる場合ではなかったわけかとこの時ばかりは考えた。
後でどう言い訳をしようだとか怖がられるんじゃないかとかという不安を押しのけアルキアンの前へと出ると異形へと私は成り変わった。
「『メタモルフォーゼ』ッ!」
身体がギチギチと音を立てて筋肉が捻じ切れ膨張し骨がそれに合わせて肥大化していく。
全身と腕を亜竜であり水との親和性のある氷属性である『フロストワイバーン』の鱗と竜腕を構築し手の筋肉自体を『スライム』に変える。
さらに手を普通だと鱗が邪魔して変形すらできないソレを無理矢理力任せに捻じ曲げ亜竜の鱗でできた双剣へと両手を変形させていく。
背中に同様に羽を生やし羽の筋肉を『スライム』に変えてのように自在に操れるように…。
最後に顔の口を『キリングウルフ』という獰猛で上位存在を狙いその牙は鎧すら噛み砕くとされる口へと変えると後ろを見ずに地を蹴り腕を振って魚人擬きを押しのけ道を作り出す。
豪腕とも言える私の腕の先にある鋭く尖った剣に魔力を込め細切れにし背中に魔力を循環させ魔力の活性化をさせる。
私の周りが赫く赫く光を放ち羽が魔力で更に輝きを発する。
筋肉が『スライム』で出来て自在に操れる羽を枝分かれさせ手数を増やし先端に更に力を込め口のような形に変え…そして放つ。
「その肉片すら養分に変え、そして還してやろう…我流戦闘術壹ノ術『緋槍』ッ!」
バネが抑えられその抑止力がなくなった瞬間飛び出すように羽を枝分かれさせ触手のようになったモノは放たれるとプラズマを放ちながら魚人擬きの身体を易々と貫き『暴食』の力が作用し口のように変えたその触手が自我を持ったかのように動きその魚人擬きを食す。
もはや本能で無自覚に動かしているのか私自身が動かしているのかなんて分からずただ私は前に進もうと足を動かし口を動かし目の前に存在する障害を喰っていく。
階段を駆け上がり触腕として定着した羽が魚人擬きを喰らい腹が満たされていく感覚を感じながら…そうして水瓶を持つ石像がある空間へと出た。




