8話 告白
目の前の精霊は、まさしく本物の精霊イフリート。
その燃えるような魔力で分かる。
二本の巨大な角、全身は燃え上がり、まるで炎で体が出来ているようだ。
「ひぃぃぃ!?」
マナはその存在に言葉も出ない。
俺は反射的に体が動いた。
あまりの魔力の違いに最早戦う選択肢は無かった。
「アリル、マナ、逃げるぞ!」
「えっ!?」
「秘技、煙幕!」
「……!何をする!?」
俺は煙幕を放ってイフリートの視界を防ぐと、すぐに宿屋から逃げ出して馬車へと向かった。
店長には悪いから、宿泊代は適当に置いてきた。
後は知らない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
アリルもすぐに追いかけてくる。
「なんで逃げちゃうのよ!」
「アリル、お前も見ただろう!あいつの体!」
「それにあの魔力!」
「ええ、なんで最初は人間の姿なんかしてたの?」
「それは人間に化けて油断させるつもりだったんじゃないか?」
「どうしてそんなこと」
「分からん!それとも、俺達と同じで人間社会に紛れ込んで生活してるのかも」
「なるほどね。でも、イフリートってあんな雰囲気だったかしら」
アリルは顎に手を添えて考え込む。
「会った事があるのか?」
「生まれて間もない頃に一度だけね」
「そうなのか?」
「小さい時だから記憶は曖昧だけど」
「アイツが本物か偽物かはこれから考えよう。とりあえず他の街に向かうぞ」
「えぇ、そうね」
「ハイネさーん、アリルさーん!」
少しだけ遅れてマナも無事やってきた。
俺達はすぐにその場から逃げた。
逃げる際、馬車から見えたが、俺達がいた宿屋は爆発していた。
おそらくイフリートの仕業だろう。
近くにあった街にはすぐに着いた。
そこは少し賑やかな普通の街だった。
ーーーーーー
「そういえば、私達、昔この街に来た事があるわよね」
「へぇー、何をしに?」
「食べ物よ」
「は?」
「私がここで売ってる名物のフルーツケーキが食べたいって行ったら、連れて行ってくれたじゃない」
「ああ、どんだけ前の話だよ。随分お気楽だなぁ……お前」
「冗談よ、だってさっきからずっと緊迫してるんだもの」
「いいけどさー。で、俺達はこれからどうするんだ?」
「うーん、また追っ手が来そうだし、どうせならもっと遠くに逃げた方がいいんじゃないかしら?」
「それもそうだな」
「あれ、そういえばマナがいないな」
俺はマナの姿が見えない事に気づいた。
「うん、さっき別の目的が出来たって行っちゃった」
「えぇ?」
「多分、新しいお宝の情報でも見つけたんだと思うわ」
「はぁ……あいつは自由気ままというかなんというか」
何だかんだで半年は一緒に居たし、寂しかったりもする。
妹みたいな感じだったから。
「トレジャーハンターだしね、色んなパーティを渡り歩いてるみたいだし。そういえば、アルベインとの結婚の話も嘘だったみたいよ」
「どういう意味だ、それ」
「私達のパーティから抜けたかったのかも」
「ったくよー」
さっきの寂しいってのは撤回、女って怖いな。
ちなみに餞別に10万ゴールドくれたらしい。
嬉しいけど、あいつへそくりしてやがったな。
すると、今度はアリルは急に真面目な顔になって見つめてきた。
「ねぇ、ハイネ」
「なんだ?」
「敢えてこのタイミングだから言うけど」
「ああ、どうした?」
「私と付き合わない?」
「………………………………は?」
一瞬思考がフリーズした。
「それって恋人になりたいって意味?」
「そう、だけど?」
「お前とは訳あってかなり長い付き合いだけど、なんか今更だな」
「嫌なら別にいいけど……」
急な告白に対して煮え切らない態度の俺に、アリルはツーンとそっぽを向いた。
俺は照れ隠しに頭をかくと。
「ああ、いいぜ。実は俺も、さ……前からお前の事、好きだったんだ」
「え、ほんと!?」
「ああ、本当だよ」
アリルは目をキラキラ輝かせ俺の手を握る。
今更だけど、こうやって見るとこいつ凄い美人なんだなー。
俺は思わずドキドキしてしまった。
「嬉しいわ!じゃ、じゃあ……今日からよろしくね!」
「おう、こちらこそ頼むな」
こうして、俺は今日からアリルと恋人として付き合う事になった。