6話 最強の騎士
「きゃあああ!」
マナは悲鳴を上げた。
「な、何なんだこれは?」
店の店員や客はまるで蟻の巣をつついたかように逃げ出した。
「ふむ、爆弾だ。その男には悪いが、これで邪魔者はいなくなった」
部屋の隅には、一人の男が立っていた。
「お前は……?」
「私の名はルザーク、騎士団長アルベイン・ディムロス様の右腕だ」
「お前の仕業かっ!?」
男の名はルザーク。
顔以外は騎士団専用の鎧で覆われており、黒い短髪で無骨そうな顔の男だった。
俺はルザークを睨みつけた。
「まさか、こんな田舎でここまでやるとは思わなかったよ」
「おい、いきなり何なんだ?狙いは俺達か?」
「ああ、今の私の任務はわが国を脅かす者を捕らえる事だ」
「ほう、それが俺達だとでも言うつもりか?」
「その通りだ」
「ふざけるな!俺達が何をしたんだ!」
「従わぬならば仕方がない。実力行使だ」
ルザークは剣を抜いた。
その理由は恐らく俺とアリルの正体だろう。
よくあることだ。
「ハイネさん!逃げてください!」
「バカを言うな、お前らを置いていけねーよ」
「いいから早く行って、後は私がどうにかするわ」
アリルは真剣な顔つきで俺に言った。
アリルの手が淡く輝いて見えた。
「マナ、ここは私に任せて。だから、あなたは行って」
「で、でも……」
「大丈夫よ、私は強いから」
「……分かりました。アリルさん、お願いします」
マナはそう言って頭を下げた。
「よし、それじゃ俺も戦う!マナは一人で逃げろ!」
俺はマナに向かって言い放った。
「そんな!無茶ですよ!」
「心配するなって、俺もこう見えても結構強いんだぜ」
俺は胸を張って答えた。
「本当ですか?」
「おう、まかせとけって!」
「では、見せてもらおうか」
ルザークが言った。
マナは逃げずにテーブルの影に隠れた。その事を確認すると、俺も短剣を抜いた。
「ほう、素手じゃないのか?」
「お前相手に素手で勝てるわけねえだろう」
「それもそうだな」
「行くぞ!」
俺は一気に間合いを詰めると、短剣で斬りかかった。
ガキンッ!
しかし、あっさりと防がれてしまった。
「なるほど、素人ではないようだな」
「当たり前だ!」
それから何度も攻撃を繰り返したが、全て防御された。
「無駄だ」
「ちぃ!」
「ふん、所詮はその程度か」
「まだまだこれからだ!」
俺は再び攻撃を仕掛けた。
「愚かな」
ルザークは俺の攻撃を全て弾いた。
「ぐあ!」
俺は床に転がった。
「終わりか?」
「まだだ!」
俺は立ち上がって、もう一度攻撃を繰り出そうとした。
「しつこい男だな」
「うるせー」
俺は攻撃を続けた。
「やれやれ、少しは大人しくできないのか?」
「やだね!」
「まったく、これだからお前のような存在は嫌いなんだ」
「くそっ!」
(結構強いぞ、この男)
「お前のような存在には人の気持ちなど何も分からんのだ」
「ハイネ!どいてなさい!」
すると後ろからアリルの声が響いた。
「くらいなさい!精霊術、ウォーター・アロウ!」
アリルの手から放たれた複数の水の槍がルザークを襲った。
「グォォォ!」
ルザークの体にヒットしていく。
「やったわね」
俺は思わずガッツポーズを取った。
「………………いや、まだだ!」
「え?」
見ると、ルザークの体は傷一つ付いていなかった。
「なに!?」
「残念だったな」
「うそだろ……」
「さすがマザコン+ロリコン騎士団長の右腕ね……」
「貴様ら、馬鹿にしているのか?」
「え、違うのかしら?」
「団長を愚弄するか!!!」
ルザークは怒りの形相を浮かべて叫んだ。
「きゃあ!何よ、いきなり大きな声出さないでよ!」
「お前がふざけるからだろ……」
「ふざけてなんかないわよ!大体ハイネが弱いからいけないんでしょ!」
「う、うるせー!」
「アリルさん、落ち着いてください!」
「マナは黙ってて!」
「ひぅ……ごめんなさい……」
「まあまあ、ここは冷静になって一旦皆で逃げようぜ」
「秘技!煙幕!」
俺は煙幕を使ってルザークの視界を塞ぐ。
煙幕は俺の十八番だ。
「ぐぉ!な、何も見えん!」
ルザークはいきなり視界を塞がれて混乱している。
その間に俺はアリルとマナの手を引いて逃げ出した。
とりあえずこの村から逃げないといけない。
近くにあった空いている馬車に乗り込んだ。
まずは適当な街へ避難するしかない。
「もう、どうしてこんな事になったのよ!」
「す、すみません……」
「マナは悪くないわよ、悪いのはあのマザコン+ロリコンよ!」
「それは俺も同感だな」
「でも、今からどうするの?」
「そうだな、無料の馬車で逃げるしかないんじゃないか?金ないし」
「そうですよね、行きましょう!」
「そうと決まれば早速出発しよう」
「分かったわ」
「はい!」
俺は馬に鞭を打って馬車を進めた。
もうこの村には戻ってこれないかもしれないな。
俺は最後に村の景色を目に焼き付けた。