5話 マナの憂鬱
「はあ、どういうことだよ?」
俺はマナに尋ねた。
「私が一緒だと、足手まといになると思うんです」
「な、何を言ってるのよ!そんな事あるわけないじゃない」
「いえ、実際そうなんです。私はハイネさんみたいに腕っぷしも強くないし、アリルさんみたいに魔法が使える訳でもありません」
「そんなのこれから鍛えればいいだけよ!私だって最初は弱かったし……」
「アリルさんが努力してきたのは知っています。でも、私には無理なんです」
「マナ、どうしてそこまで……」
マナは俯きながら答えた。
「私、今年で14歳です。もう少ししたら結婚出来ます」
「は?何の話だ?」
「えっと、この国では15歳が成人なんです。だから、そろそろ相手を見つけないといけないんです」
「まあ、確かにこの国の法律はそうだが、それがどうかしたのか?」
「実は、この前見合いの話が来て、それで……」
「ちょ、ちょっと待って!それってまさか……」
「はい、そのまさかなんです」
「おい、まさかとは思うが、その見合いってのは……」
「はい、私のお父さんが決めた相手なんです」
「そんなの断っちゃえばいいじゃない!」
「そんな簡単な問題じゃ無いんですよね。私の家は貴族なんです。それに、相手は騎士団長なんです。つまり、政略結婚という事になります」
「…………今、騎士団長って言った?」
「あ、あの、アリルさん?」
「騎士団長ってマザコンで噂のアルベインでしょ?」
俺は思わず吹き出してしまった。
そう言えば、そんな事を聞いたような気がする。
しかも、さらにロリコンという噂もある。
アリルがひっかかる気持ちもよく分かる。
まあ、俺も人の事を言える程大した存在ではないけど。
だが、今はマナの事だ。
マザコン+ロリコン騎士団長との結婚。
「私は絶対に反対するわ、友達のマナをそんな奴に渡せないわよ」
アリルは断固反対といった感じだ。
まあ、俺も反対だ。
当然の反応だろう。
しかし、思ったよりマナの意思は固いようだ。
暫く話し合った後、俺は溜息を吐いてから言った。
「分かったよ、お別れだ」
「ちょ、ちょっとハイネ?」
俺はマナに目を合わせずに、そのまま歩みを進めた。
「いいんです。アリルさん……ハイネさん、短い間でしたが、ありがとうございました」
マナは二人にお辞儀すると、そのまま背を向けて立ち去っていった。
「マナ……」
アリルはそんなマナを追う事はしなかった。
ただ青い眼を潤ませながら、マナを見送った。
「ふぅ……」
俺は溜息をつきながら、冒険者の店に向かった。
「どうした、一体何があったんだ?」
冒険者の店のマスターは、俺の顔を見るなり尋ねてきた。
「別に何にもねーよ、マスター」
俺は奥の席に座っていたダイナと目が合った。
ダイナはニヤリと笑うと、たまたま隣に座る一般客のエルフの少女に耳打ちした。
「こいつ、さっきまで失恋して泣いてたんやで」
「おいおい、嘘を教えるな」
俺は慌てて否定したが、もう遅かった。
「たしかに子供みたいに泣いてたわよね、失恋して」
後ろからアリルが追い打ちをかけてきた。
「お前ら……殴るぞ」
俺は拳を握って立ち上がった。
その時だった。
「ハイネさん……!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返るとそこには、泣き顔のマナがいた。
「み、見てたのか?」
「はい、一部始終見ていました」
「そ、そうか……」
俺は恐らく誤解された事が恥ずかしくなり、顔を逸らした。
「ど、どうしたんですか?」
「何でもない」
「嘘です、さっき失恋って」
「そ、それは……」
「あれ、私の事じゃ……」
「もう仲直りしいや、二人とも。いつまでもつまらん喧嘩してても面白ないで?」
「ダイナさん?」
「ほれ、本音を話してみ、ワイが聞いたるさかい」
「わかった、言うよ」
本音を言ってやろう。
『しょーもない誤解を招く嘘言うな』、って。
ドッカーアアアアアン!!
その時いきなり部屋の中で爆発が起こった。
目の前のダイナはなぜか肉片に変わり果てていた。