40話 シルフの戦い⑤
「やめろぉぉぉぉ!」
マーリンの叫びも虚しく、剣の突き刺されたシルフの体は少しずつこの世から消えていく。
そして剣先で翡翠色の球体となり、それはリヒトの体に取り込まれた。
「とうとう手にしたよ、シルフの力……」
リヒトの右手に翡翠色の紋章が現れた。
次の瞬間、リヒトの表情が狂気染みたものへと変わった。
「これで人間に復讐ができる!ハハハハハッ!!」
リヒトは普段と違う荒々しい声色で高笑いする。
まるで人格が変わったようだった。
「うわぁぁぁ!よくもシルフを殺したなぁぁぁぁ!」
マーリンは激昂してリヒトに飛びかかった。
「飛んで火に入る夏の虫とはお前の事だァ!ノームゥゥ!」
そしてーー
今度は飛びかかってきたマーリンの胸にも剣が突き刺さった。
「ぐ……ぐぁぁぁっ!」
マーリンは口から吐血した。
「すまない……ラギア、みん……な……アタイは……」
「貴様には用はないィ!あるのはノームの力だけだァ!」
マーリンの体内から金色に輝く球体を取り出し、そしてシルフの時と同様にそれを吸収した。
「おおおおおお!」
リヒトは獣のように咆哮した。
今度は、右手に金色の紋章が加わった。
リヒトが剣を胸から抜くと、マーリンはその場に倒れて人形のように動かなくなった。
「リヒトよ、これでようやく人間共に復讐が出来るな。待ち侘びたぞ」
「ああ、そうだなァ……だが、死ね、イフリートォォ!」
リヒトは凶悪な笑みを浮かべると、突然イフリートに襲いかかった。
そして胸に剣を突き刺した。
「……何故、だ?私とは人間共に復讐を誓った同志だった筈……」
「……この世界に神は二人もいらないんだよォ」
「ーー大人しく僕の力になるがいいッ!」
「フッ……お前の手で死ねるのなら悪く…な……」
イフリートは全て悟ったように微笑み、先程の二人のように消えていく。
そして真紅の球体となり、リヒトの体に取り込まれる。
リヒトの右手に血のような真紅の紋章が増えた。
既に四大精霊のうち三体の魔力を取り込んだリヒトの魔力は、既に周りの空間を歪めるくらいに肥大していた。
「さて、もうここには用はなくなったなァ……ゴミの掃除をして立ち去るとするかァ?」
リヒトはギルベルトに目を向けた。
「ふん、くだらん」
ギルベルトはそんなリヒトを鼻で笑った。
「な、何がおかしいッ!?神を笑うのか、ギルベルトよ」
「お前は神じゃない……ただの醜い獣だ」
「ぬかせェ!このゴミがァ!」
ギルベルトの言葉に激昂するリヒト。
最早ギルベルト程の実力者でも、今のリヒトにすれば足元に転がる石ころみたいなものだった。
右手に魔力を溜める。
その行為だけで周りの鳥や草木は死んでいった。
そして、最早都市一つを壊滅できるであろうエネルギーがその右手に溜まりきった。
「エレメンタル・バーストォォォ!!」
バシュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュューーーーーー!!!
ギルベルトに向けて放ったそれは、彼はおろか、四方が海に囲まれた街ベルズガルドまで歴史から消滅させた。
「ハハハハ!これが神の力だァ!愚かな人間共よ!」
「僕がウンディーネの力を手に入れた時……」
「この体が完全体になった時……それが、お前達の最後だァァ!」
何もなくなったその空間には、ただリヒトの笑い声だけが響いていた。