39話 シルフの戦い④
「ふん、ならばこちらも名乗ろう」
仮面の男はマーリンの変化した姿を見て、力が強まっている事を確信した。
「俺の名前はギルベルト。巷じゃ『処刑人』なんて呼ばれているらしいが、そんな物騒な名前は嫌いなんでね……気軽にギルとでも呼んでくれ」
「ふん、アンタみたいな悪党には勿体無い名前じゃないかい」
「ふん、違いない」
二人は同時に動き出した。
マーリンはまず岩のようになった腕で拳を振るう。しかし、簡単に避けられた。
「どうした?こんなものか?」
「ちっ」
今度は蹴りを放つが、これも当たらない。
「やはり遅いな」
「ぐぅっ」
逆に腹部にボディブローをされた。
吹き飛ばされるが空中で体勢を立て直す。
着地と同時に地面を踏みしめ、再び飛びかかる。
「無駄な事を……」
ギルベルトは軽々と避けた。
だがこれは予想通りだ。
そのまま勢いを利用して、背後へ回り込み、回し蹴りをする。
ギルベルトが振り返ってすぐにガードをし、体は少し後ろに下がっただけだった。
「まだ力を使いこなせていないようだな」
「くっ、まだまだこれからさ!」
さらに連続攻撃を叩き込むがどれも防がれてしまう。
早くこいつを倒さないと瀕死のシルフが危ない。
それにしても強い。
こっちの攻撃がまるで当たらない、
マーリンの攻撃を見切っているのだろう。
だったらこれならどうだ、とマーリンはは地面に手をついて土魔法を発動させる。
するとギルベルトの足元から大量の針が突き出てきた。
「おっと」
奴はあっさり避ける。でも、それでよかった。
「くらえっ!」
更にマーリンが岩の礫を飛ばす。
当然それも避けられたが、目的は攻撃じゃない。
「ほぉ」
ギルベルトの足がズブズブと地中に沈んでいく。
土魔法で身動きを取れなくする戦法だ。
「なるほど、考えたな」
「このまま動けなくしてやるよ!」
「させん」
ギルベルトは手刀で地面を切断しようとする。
だが、マーリンはそれを許さなかった。
岩の礫で妨害する。
「ふん……」
ギルベルトは蟻地獄のように地中に沈んでいく。
「くらいな、アース・ハンマー」
マーリンは巨大な大槌を創り出し、思いっきり叩きつける。
しかし、それでもギルベルトには大したダメージは無かった。
恐らく防御魔法を張ったのだろう。
「無駄だ、この程度では俺は殺せん」
「そうかい」
マーリンはもう一度振りかぶる。
「何度やっても……」
ギルベルトは違和感を覚えた。
マーリンの手の動きに妙にキレがある。
一発目とはまるで別人のような……まさか!?
「てぇりゃぁぁ!!!」
渾身の力を込めてギルベルトを殴り飛ばした。
マーリンのアース・ハンマーは連続で放つことにより、その威力は倍増する。
一発目は防御魔法を使わせる為の囮だったのだ。
ギルベルトは建物を突き抜け吹っ飛んでいった。
「やったか?……いや」
ギルベルトが瓦礫の中から出てきたのを確認し、マーリンは構え直した。
「今ので終わりか?もっと楽しませてくれよ」
「くっ、化け物が……」
「褒め言葉として受け取っておこう」
ギルベルトは体についた埃を払った。
すかさずマーリンは走り出す。
しかし、すぐに何かを感じ取ったのか急ブレーキをかける。
直後、上空から無数のナイフが降り注いだ。
「なんだいこりゃ、忍者ごっこかい」
マーリンは冷静に回避行動をとる。
ドゴォォォ!
次の瞬間、爆発が起きた。
爆風が吹き荒れ、辺りの建物を破壊する。
「手こずっているのか?ギルベルトよ」
「ふん、邪魔をするつもりか、イフリート」
突如現れた赤髪の女。
彼女は人間ではない、マーリンはすぐに感づいた。
まさしく彼女は炎の精霊イフリート、そして背後には銀髪のハーフエルフ、リヒトが立っていた。
「こりゃさすがにやばいね……」
イフリートがギルベルトより強いのは魔力を見る限りでは明らかだった。
そんな強大な敵が増えたのだ。
「ま、待ってぇ……!」
シルフはふらふらした足取りでその場に現れた。
「な、なにやってんだい!ここはアタイ一人で大丈夫だから隠れてな!」
シルフはマーリンの言葉に最後に力を振り絞って、にこっと笑った。
「し、シルフ、アンタ何を考えているんだい?」
「ふふ、最後までほんとに、本当にありがとぉ」
「……さよなら」
残り僅かな魔力で風の術を使い、リヒト達の前まで飛んだ。
「君達の狙いは私でしょ?……さあ、好きにすればいいよぉ」
シルフは両手を広げて目を閉じた。
そして覚悟を決めた。
リヒトは剣を振りかぶった。
——そして、それをシルフの胸に突き刺した。