38話 シルフの戦い③
一斉にシルフに襲いかかる無数の敵の軍団。
シルフは自分の周りにある空気の層で攻撃を防ぎ、反撃に出る。
しかし、相手の方が数が多い。
それに、相手の武器には毒が塗られていた。
傷口から毒が入り込み、徐々に力が抜けていった。シルフは風の精霊術を使って何とか耐えているが、長くは持たない。
すると、周りの敵が次々に吹き飛んでいった。
マーリンが助けに来たようだ。
「シルフ、大丈夫かい?」
「マー……リ……ン…………」
マーリンはシルフの体を抱えながら言った。シルフの顔色は悪く、額から汗を流していた。
「無理をするんじゃないよ」
「うぅ……」
シルフの体力は既に限界に近い。
早く倒さないと手遅れになる。
「ここは一旦逃げるよ」
マーリンはシルフを背負い、崩壊しかけた建物の中に身を潜めた。
そこにも死体が転がっていた。
「マー……リン……巻き込んじゃって……ごめ……ねぇ」
「何を言っているんだい。まだ助かる可能性はあるさ」
「最後に私のお願い……聞いて欲しいなぁ」
「やめな、縁起でもない」
仮面の男が周りを探っている気配がした。
バレるのは時間の問題だ。
「私はもうダメだから……マーリンだけでも逃げて……」
「バカなこと言うもんじゃないよ!」
「私ね……ハイネ達のことが大好きなんだぁ……」
「ああ、知ってるさ」
「アリルはね……私のこと、年下だと勘違いしてて……いつもお姉さんぶってるけど……ほんとは私より子供っぽくて、意地っ張りで……本当に可愛いの」
「サフィラは……笑顔で優しいけど……たまに抜けてて、怒ったらこわくて……でもみんなの事を……いつも気にかけてて……」
「ハイネはね、ちょっと頼りないけど、勇気があって……一緒にいるだけで楽しくて……どんな時も傍にいてくれて……ずっとずっと……」
「アリルも、サフィラも、ハイネも、みんな大好きなの……」
「分かった!分かったからもう喋るんじゃないよ」
シルフは咳き込むと、口から大量の血を吐き出した。
「頼む、誰かアタイに力を……この優しい精霊、シルフを助けられる力を!」
するとその時、マーリンの手の甲が輝いた。そして、頭の中に声が響く。
(汝の力を望むか?)
「だ、誰だい!?」
(我は力を与えるものなり)
「何だって!?」
(力を望むか?)
「ああ、望むとも!」
(我と契約せよ)
「わかった、何だってしてやるさ。契約する!」
(我が名はノーム、大地を司る精霊なり。汝の願いを聞き届けよう。これより汝は大地の精霊術士となりて、その力を行使することを許される)
マーリンがそう願った瞬間、手に紋章が現れた。
(今こそ汝の真なる姿を見せるのだ)
マーリンの身体に変化が起きた。
結っている髪は解けて波打ち、顔に模様が入った。
更に両腕が岩のように変化した。
「これが……真のアタイの姿なのか?」
(そうだ。今のお前ならあの男にも勝てる)
「ありがとう!アタイは貴方の主人に相応しいかい?」
(問題ない)
マーリンは覚悟を決めて、建物の壁をぶち破り、仮面の男の前に姿を現す。
「やっと現れたか。待ちくたびれたぞ」
仮面の男はマーリンの姿を確認して言った。
「ああ、待たせたね。そして改めて名乗ろう、アタイの名はマーリン・ノーム。大地の力が宿りし精霊術士さ」
マーリンが剣を構えると、その体からはとてつもない魔力が溢れていた。