34話 懐中時計
突然バタンと扉が開いた。
驚いて俺とアリルは慌てて体を離すと、そこにはシルフとサフィラが立っていた。
「目覚めたって言うから慌てて来てみたら、随分お盛んなんだねぇ?」
シルフはジト目で俺とアリルを見る。
「まあまあ、シルフ様、いいじゃないですか?さ、私達に構わず続けて下さい?」
そう言うサフィラの笑顔にも影が見える。
「違うから!誤解だから!」
「そ、そうよ!これはただ、その、仲直りしただけよ!」
俺達は必死になって弁明している。
しかし、シルフとサフィラの視線は変わらない。
「ふ〜ん、まあいいけどねぇ」
「それより、体調はいかがです?」
「ああ、大丈夫、もうすっかり良くなったよ」
俺は完治をアピールするように腕を回してみせた。
その様子にサフィラも安堵の笑みを浮かべた。
「よかったですね!」
「ああ、ありがとう」
「それで、これからどうなさるんです?」
「ん?そうだなぁ〜」
「行く当てがないなら、ここで暮らしません?」
「え?」
「実はマーリン様から、海賊の手伝いをするなら置いてあげてもいいって話がありまして」
「マーリンが?」
「はい」
「そうか、このままマーリンのところにいるのもありなのか」
「私は別に構わないわよ、貴方が鼻の下を伸ばしさえしなければ、ね!」
アリルは腕を組んでプイッっと横を向く。
「はいはい、わかりましたよ。それよりも、海賊の手伝いって一体何をやるんだ?」
「主に用心棒らしいですよ」
「なるほどね、それなら楽勝だな」
「そうでもないみたいだよぉ」
「ん?」
「海賊の中には危険度Sクラスの犯罪者もいっぱいいるしぃ」
シルフは指を立てながら説明する。
「それに、この国の海軍も手強いですよ」
サフィラが付け加えるように説明してくれた。
「そうなのか?」
「はい、海軍の団長はかなりの手練れだと聞きます」
「へぇー」
「それと、その海軍には元勇者もいる噂もありますし」
「元勇者なんざ気にしても仕方ねーだろ」
俺はベッドに寝っ転がると。
「なるようになる、それが人生ってもんだ」
「そんな無責任な……」
アリルは呆れて溜息をついた。
「俺は無鉄砲な悪ガキなんだろ?無鉄砲なのは生まれつきなんだよ」
「なに開き直ってんのよ」
「まあ、お前は心配するな、俺が守るから」
「ばか……」
アリルは顔を赤く染め俯いた。
「ちょっと待ったぁ!!」
いきなり大声を上げて、俺達の会話に入って来たのは、シルフだった
「「何だ(よ)?」」
俺達は二人揃ってシルフの声に反応する。
「別にぃ?またイチャイチャが始まるのかなぁって思っただけだよぉ」
「違うから!」
「違わないよねぇ?」
シルフはニヤニヤと笑う。
「……むぅっ」
アリルはムカッとしたのか、頬を膨らませるとそっぽを向いてしまった。
「じゃあ、早速明日からよろしくってマーリンに頼んでおくよぉ!」
「ああ、頼む」
「りょーかいっ!あ、そうだ、これあげるぅ!」
シルフは何か小さな物を投げて寄越す。
俺が咄嗟に受け止めたそれは、古い懐中時計だった。
「なんだこれは……?」
「私のお守りだよぉ!暫く貸してあげるねぇ!」
よく見ると、文字盤の裏に何か書いてあるようだ。
裏返すとそこには、【親愛なる風を司る精霊様へ】と書かれていた。
シルフを風の精霊と知る人物が俺達以外にもいたのか?
シルフは俺の手元にある時計を見つめ、クスッと笑っている。
「大事なものなんだろ?俺なんかに預けていいのか?」
「うん、大事にしてねぇ!……それと」
シルフはアリルに近づいて。
「アリルも、ハイネと仲良くねぇ?」
アリルの頭を撫でて、ウィンクをした。
「別に、私達は仲良しだし!」
アリルは照れた様子で答える。
「ふふっ♪」
「もう、子供扱いしないでよね!私の方がシルフよりずっと大人なんだから!」
「はいはぁーい!」
「ついでにサフィラも!いい子いい子!」
シルフはサフィラの頭も背伸びしながら優しく撫でた。
「あ、ありがとうございます……?シルフ様……?」
サフィラはポカンとしている。
「みんな、おやすみぃ!」
シルフは笑顔のまま、手を振って部屋を出て行った。