33話 海賊船
「ん、ここは……?」
目を覚ますと、見慣れない部屋の中のベッドに横たわっていた。
周りはすでに暗かった。
「ようやくお目覚めかい?色男さん」
「お前はマーリン?なんでここに?」
「ここはアタイの船の中だよ。アタイは海賊、アンタ達をあの島から助けてやるくらいわけないさ」
すると誰か手を握られているのに気づいた。
隣を見るとアリルが俺の手を握りながら寝息を立てて座っていた。
「その子、三日間アンタの隣でずっとそうしてたんだ。全く、妬いてしまうよ」
「そっか……」
「可愛い見た目によらずかなり凄腕の魔術師なんだね、その子。あの重傷を治す回復術なんざ、王宮魔術師でも使える奴は滅多にいないよ」
「悪い、その事はあまり詮索しないでくれ……」
俺は反射的にアリルの手を強く握り返した。
「んぅ……は、ハイネ……?気がついたの!?」
アリルは俺が起き上がっているのに気づき、すぐに目を見開いた。
「ハイネ!本当に目を覚ましたのよね?嘘じゃないわよね?」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
アリルは目をうるうるさせながら見つめてくる。
「もう、心配させないでよバカ!」
「ごめんな、アリル」
「ほんとよ!馬鹿!一人であんな無茶しないでよ!」
「はは、もうしないって」
「私だって、四大精霊なんだし、人間より強いんだから、もっともっと頼ってよ」
「お、おいっ!」
俺はマーリンを指差した。
アリルは慌てて口を閉じた。
「ふふ、何も聞いちゃいないさ。まあ、邪魔するのも悪いし、アタイは失礼するよ」
マーリンは手をひらひらさせながら去っていった。
恐らく気を遣ってくれたのだろう。
「まー、悪かったよ。これからは頼りにする」
「絶対だからね!?約束したからね!?破ったら承知しないんだから!」
「わかってるよ、怖い顔すんなって」
「むぅ~」
そして何だかんだで俺は今、アリルの膝の上に頭を乗せている。所謂膝枕という奴だ。
「なぁ、いつまでこうしてればいいんだ?」
「私がいいっていうまで」
「えー」
「文句言わない、ハイネは私の言うことを聞いてればそれでいいの」
「へいへい、わあったよ」
俺は渋々了承する。
今日くらいは言う通りにしてやろう。
「じゃあ、今日は一日この体勢でいる事」
「マジかよ」
「当たり前でしょ、これは罰なんだから」
「はは、しょうがねーな」
俺はそう言って目を閉じた。
「ねぇ、ハイネ」
「ん?」
「何でこんなことになっちゃったのかな?」
「そんなもん知らねえよ」
「だって……私たち何も悪いことしてないのに……おかしいじゃない?」
俺は目を閉じたままアリルの言葉を聞いていた。
その答えは分かりきっているはずだ。
「俺たちが精霊だから、だろ」
「ねぇ、時々思うの。私たちが人間だったらなって」
「どういう意味だよ?」
「そのままの意味よ。私たちが人間だったら、普通に結婚して、その……子供も出来たりして、幸せに暮らせたかも知れないのかなって」
「そうだなーー」
俺は少し考えてみて。
「娘が出来たら大変そうだ。お前に似て性格キツそうだし」
「何よ?息子だったら貴方に似て無鉄砲な悪ガキになるわよ」
「おい、それは聞き捨てならないぞ?」
「事実よ。私こそ結構優しいじゃない!?」
「どの口が言うんだよ?」
「うぐっ」
「まぁ、でも、もしそうなっていたとしても、俺らは変わらないだろうな」
「ど、どういう意味よ」
「今と同じくらい口喧嘩が絶えないだろうし、きっと今と同じくらい幸せだ」
「…………」
「どうした?」
「ばか……ほんとにバカ……」
「なんでだよ?」
「なんでもない!黙ってて!」
「理不尽だ……」
アリルの目には涙が浮かんでいた。
俺はそんな彼女が本当に愛おしかった。
「ハイネ……」
「ん?」
「大好き……」
「俺もだよ」
俺達は見つめ合い、そして静かに唇を重ねた。