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32話 仮面の男

その嵐は突然のことだった。

嵐といっても天気がどうこうと事ではない。


祭りを満喫した後、腹ごなしに街の中を散策していた時だった。

突然大勢の悲鳴と共に爆発音が響き渡ったのだ。


何事かと思い、辺りを見渡すとそこには信じられないものが広がっていた。


逃げ惑う人々。

地面に倒れる人達。

そして、それを無感情に見下ろす仮面の男。


「ふむ、やはり人間は脆いな」


無機質な白い仮面をつけたその男は、得体の知れない不気味さを漂わせている。

少し長めの黒髪に黒いコート、黒で統一されたその見た目は、まるで存在が闇そのものである男の本質を表しているようだった。


「てめえっ!!!」


俺は咄嵯に剣を抜き、斬りかかった。

だが、仮面の男は俺の攻撃を軽々と避けた。


「ハイネ!?」

「ハイネ様!?」


アリルとサフィラの驚く声が聞こえたが、気にしている余裕はなかった。

俺は間髪入れずに斬撃を放った。


しかしそれも全て避けられる。

男の服にすら掠らない。

くそっ、こいつ一体何者なんだ?


「クククッ……」


男は右腕に魔力を溜める。

それはアリルやシルフの精霊力に匹敵するものだった。

そして無慈悲にそれを街中に放った。


「エクスプロージョン」


ゴゴゴ……


ドドド……


ガガアアアアアン!!!


仮面の男が放った魔術だけで街の三分の一は崩壊した。

それは最早、人に手によるものではない天災のようだった。


俺は咄嵯にアリルの手を引いて逃げた。

シルフとサフィラも後に続く。

あの男と戦うのはまずい。

本能的にそう感じたからだ。


今は逃げることが先決だ。

でもどこに逃げる?

ここは四方が海で囲まれている小さな街だ。

逃げ場などない。


それに相手は恐らく手練れな魔術師。

遠距離戦闘では勝ち目はないだろう。

それならば近距離で一気にやってやる…… 俺は路地裏に入り、物陰に隠れていた。

すると、周りの方から爆発音が響いてきた。

結構近いぞ、隙を見て仕留めてやる。


「あれれ〜、おかしいなぁ?」


シルフの声が聞こえた。


「どうしたんですか、シルフ様?」

「なんかね、変な気配を感じるんだぁ」

「え?」

「なんかこう、嫌な雰囲気っていうかさぁ」

「…………」


シルフの言葉を聞いている内に身体中の汗腺という汗腺が開ききっているような気がしてきた。

なんでこんなに嫌な予感がするんだろう? シルフの言うことって結構当たるんだよなぁ……。


その時だった。


バキィッ!!


何かが壊れるような音と同時に悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

これは間違いなく人のものだ。

その瞬間、俺の中の理性が弾け飛んだ。


「お前らは隠れてろ!」

「ちょ、ちょっとハイネ!」

「絶対に動くなよ、いいな!」


俺はアリル達を制止すると、すぐさま物陰から出て音のする方へ向かった。


祭りの時、俺達の正体を知らないにしろ街の人は皆親切だった。

そんな人達が傷つけられるのを指を咥えて見ていられない。

そこは大通りだった。


そこでは、人が倒れており、さっきの仮面の男がなんと剣を構えていた。

魔法と剣の両立。


こいつはまさか高等職である、魔法剣士か?


まずいぞ、この距離だと間に合わない!


「ダークボール!!」


仮面の男はいきなり黒い球体を飛ばしてきた。

俺は咄嵯に剣で防ごうとした。


ガキンッ!


「ぐあっ!」


俺はそのまま吹き飛ばされてしまった。


なんて威力だ!しかも速い。

まるで弾丸のようだ。

俺はなんとか受け身を取り、体制を立て直そうとした。


だが、そんな暇もなく、追撃を仕掛けてくる。


ヒュン、ズバッ


今度は横薙ぎの攻撃。

俺はそれを転げながら避けることに成功した。

危なかった。

あと一歩反応が遅れていれば確実に胴体と首が離れていただろう。


「ほう、今のを避けるか」


目の前に立つ仮面の男は感心したように言った。


「だが、次はどうかな?」


次の攻撃が来る。

俺は直感的にそう思った。俺は仮面の男に向かって走り出した。

相手の剣の間合いに入る前に一撃を食らわせるためだ。


「甘いわ」


仮面の男は素早く剣を振り上げた。

そのあまりの速さに俺は咄嵯にバックステップをした。

その瞬間、剣閃が俺のいた場所を通り過ぎた。


だが今度は振り上げた剣を、間合いに踏み込んでくると同時に力強く振り下ろされた。


俺は剣で受け止めようとしたが間に合わなかった。


「うああああああああ!」


ザシュッ……


俺は肩口から腰にかけて斜めに斬られた。

鮮血が飛び散り、俺の視界は真っ赤に染まった。


痛みはない。

ただ熱いだけだ。


俺は地面に倒れた。

意識が遠退く。このまま気を失ってしまうのか?

死ぬのかな?


俺が死んだらアリルはどうなるんだろうか? シルフとサフィラも。

大丈夫だよな?

みんな無事だといいけど…… 俺は薄れゆく意識の中でそう考えていた。


「ふん、他愛もない」


仮面の男はそう呟くと、踵を返し、立ち去った。


すぐに誰かが駆けつけて来た。


「う、嘘でしょ……は、ハイネ?……ハイネっ!しっかりしてぇ!やだぁぁぁ!」


その声はアリルかな。


「目を開けて下さい!死んじゃダメです!」

「ハイネ!起きてよぉ!」


皆の声が聞こえる。

あぁ、よかった……全員無事みたいだ…… 安心したら急に眠たくなってきた。

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