31話 嵐の前
「悪い、マーリン。俺たちもう行かねーと」
「あらら、それは残念だね」
「仲間が先に行っちまったからさ」
マーリンは少し残念そうにしている。
「それでは、失礼します」
「またなー!」
「分かった、また会えたらいいね、色男さん」
俺とサフィラは軽く頭を下げると、その場を後にした。
アリルはマーリンを睨みつけた後、俺たちの後をついてくる。
「全く、ひどい目に遭っちゃったぜ」
「その割にはデレデレしてたじゃない」
アリルは不機嫌そうだ。
「そりゃあ俺だって男だしさ……」
正直言うとマーリンの体は最高だった。胸も大きいし色気もある。
おまけに美人だしな。
俺は腕に当てられた胸の感触を必死に思い出していた。
「最低」
アリルは軽蔑するような視線を送ってきた。
「仕方ないだろ、あれは不可抗力というものだ」
「ハイネ様もハイネ様です。もう少し女心を学ぶべきだと思いますよ?」
「うっ……」
サフィラの指摘に何も言えなかった。
「でもまぁ、今回は許すけど……次はないからね」
アリルは頬を膨らませながら言った。
「はい……ゴメンナサイ」
俺は素直に謝ることにした。
とぼとぼと歩きながら街の中心に出ると、シルフの声がした。
「おぉ〜い!みんなぁ!こっちこっち〜!」
シルフは手をブンブンと振りながら、声を上げていた。
その手には少し大きめのリンゴ飴を持っていた。
「シルフ様、どうしたんですか?その飴は」
「なんかねぇ、今日はお祭りの日みたいで、お店の人から貰ったんだぁ!」
「へぇ、お祭りがあるのか?」
そう言えば街は人がたくさんいて賑やかだ。
「うん!それでねぇ!私、屋台とか見て回りたいんだけど、ダメかなぁ?」
シルフは上目遣いで見つめてくる。
「別に構わないぞ」
「やったぁ!ありがとぉ!ハイネ!」
シルフは嬉しそうに抱きついてきた。
「そうと決まれば私達も行きましょ、サフィラ」
「はい、お祭りなんて久しぶりなので楽しみです」
アリルとサフィラも乗り気なようだ。
「へいへい、そこの可愛いお嬢さん達!新鮮な刺身はどうだい?」
「魚料理ならうちの店が一番だよ!!」
「焼き鳥いかがですかー?」
「いらっしゃーい!!イカ焼きありますよー!!」
様々な出店が立ち並んでおり、活気に溢れている。
シルフはキョロキョロしながら歩いている。
「わぁー、美味しそうな匂いがするぅ〜」
「シルフ様、あんまり離れちゃ駄目ですよ?」
「大丈夫だよー、サフィラ!」
シルフは笑顔で言うが、心配になるのは当然だろう。
ここは人通りが多い場所なのだから。
しかし平和で賑やかなこの場所が、これから血の染まることになるとは、この時には思いもしなかった。