22話 狡猾な罠
「それじゃあ、次はどこに行こうかしら?」
アリルが俺達に問いかけてくる。
「とりあえず、さっき言ってた『闇の城』とやらに行ってみようぜ」
「わかったわ」
「は~い」
俺の提案に二人は同意してくれた。
「じゃ、行きましょう」
「待たんかい!」
すると、聞き覚えのある声が響いてきた。
「おい、お前ら!ようやく見つけたで!」
やはりダイナだった。
体は更にアンデット化が進んでおり、ところどころに包帯を巻いている。
「あら、生きていたのね」
アリルはゴミを見るような目で冷たく言い放つ。
「当たり前や!よくも穴の中に落としてくれたなぁ」
「あんたが勝手に落ちたんでしょ」
「うぐ、それを言われると言い返せへん」
「で、何か用なの?私達は忙しいんだけど」
「ああ、そんな態度でええんか?お前らの正体周りにバラすで?」
はぁ〜、こいつは何を言い出すんだ。
「好きにすれば、別に構わないわよ」
アリルは腕組みをして堂々と言い放った。
「なっ!?ホンマに言うてんのか!?」
「ええ、それがどうしたの?」
ダイナはポカーンと立ち尽くした。
「ねぇねぇ、このおじさん誰なのぉ?」
シルフはダイナを指差して聞いた。
「こいつはな、説明するのもややこしいやつなんだ」
「ふーん」
シルフはあまり興味なさそうだ。
「まぁええわ!せっかくイフリートの居場所を教えてやろうかと思ったんやけどなぁ」
「イフリート!?」
アリルの目つきが変わった。
「知ってるのか?」
俺もダイナに尋ねる。
「ああ、ワイについて来たら教えたる」
「ここで話しなさいよ」
「それは無理や!誰が聞き耳立ててるか分からへん」
「くっ、分かったわ……」
アリルは渋々了承し、ダイナの後に続く。
「ちょっと待ってぇ」
シルフもついて来た。
しばらく歩くと、街の中心にある大きな宮殿の前で止まった。
「よし、着いたで」
「ここにいるの?」
アリルが尋ねる。
「そうや、イフリートはこの中におる」
「仕方ない、入るぞ」
俺達は扉に手をかけて中に入った。
すると、ガァン!!
鈍く重い音が響き渡る。
「くっ!!」
俺は後ろから何者かに殴られた。
「は、ハイネ!」
アリルが心配して駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「あ、ああ、なんとか……」
俺は頭を押さえながら立ち上がった。
しかし、一体誰が……
「いったい何のつもりだ!」
すると、俺達は魔族の集団に囲まれていた。
「ダイナ、ご苦労だったな。誉めてつかわす」
「おおきに!ミノスの旦那!」
その中のリーダー格、牛のような頭を持つ大柄な男がダイナを褒め称える。
身長は二メートルを超えるであろう大男で、両腕の筋肉は丸太のような太さだ。
手には巨大な斧を持っている。
「これで、我等の悲願が達成される日も近いというものだ」
ミノスは笑みを浮かべた。
「ダイナ、お前……騙したのか!?」
「騙す?眠たい事を言うなや!これが真実や!」
ダイナは吠えるように言い放つ。
「ハイネ、どいてなさい」
アリルは魔力を集中させて水の精霊術を使おうとしているようだ。
だが、魔力が集まらない。
「な、何で!?精霊術が使えないわ」
「私もダメみたいだよぉ」
アリルは驚き、シルフも自分の手を見つめている。
「どういうことだ?」
俺も不思議に思い辺りを見てみる。
「お気づきかな?ウンディーネ」
ミノスは勝ち誇ったように言い放った。
「まさか……」
アリルは唇を噛み締めて悔しそうにしている。
「その通りだ。この宮殿全体に特殊な魔法陣を敷き詰めてある。お前達の力も封じられてるだろう」
「もう打つ手があらへんやろ?お前らはここで終わりや」
ダイナは俺達に向かって嘲笑う。
魔法陣によって俺達の変装も解かれていた。
「ふざけないで!こんなところで終わってたまるものですか!」
アリルはまだ諦めていないようだった。
「へっ、威勢だけはいいんやな。さすがは四大精霊の姫様やで!」
「黙りなさい!」
アリルはダイナを睨みつける。
「ミノスの旦那!これでワイも幹部にして貰えるんやな?」
「ああ、そうだな。約束しよう」
「やったで!ワイは出世するんや!」
ダイナは飛び跳ねて喜んでいる。
だが、次の瞬間。
ブシュウッ!
ミノスは手に持った巨大な斧でダイナを切りつけた。
「ぐはぁぁぁぁ!」
「……ただし、あの世でな」
ダイナは血反吐を吐き出しながら倒れる。
「な、なんで……なんで、や?」
「笑止。いくらアンデット化して我ら魔族に近づこうとも、所詮は元人間。貴様のような薄汚いドブネズミを我が配下に加えるわけなかろう!」
ミノスが蔑むような目を向ける。
ダイナはそのまま動かなくなった。
「そんなことより、早くこいつらを捕らえろ!牢の中にぶち込んでおけ!」
「ハッ!」
大勢のミノスの配下達によって俺達はなすすべなく捕らえられる。
「くそっ!」
「こ、このっ、離しなさいよっ!」
俺とアリルは必死に抵抗するが、まったく歯が立たない。
「無駄だと言っている!大人しくしろ!」
「くっ、精霊術さえ使えたら……」
「これじゃあどうにもならないよぉ」
俺達は手足に枷をつけられ、そのまま薄暗い地下牢に連れていかれた。
「明日の儀式が楽しみだ!ハーハッハッハ!」
地下にミノスの笑い声だけが響き渡った。