20話 魔族の国
空の旅を始めて数時間後、俺達は魔族領に到着した。
「ここが魔族領か……」
俺は辺りを見渡す。
そこは、領全体が巨大な城壁に覆われた、まるで要塞のような場所だった。
「なんか、物々しい雰囲気の場所だな」
「そうね、何か出そうだわ」
俺とアリルはそんな感想を漏らす。
だが、そんな俺達にシルフが話しかけてきた。
「二人とも、早くおいでよぉ」
「ああ、悪い」
俺達はシルフの後に続いて門へと足を踏み入れた。
門の先に広がっていた光景を見て、俺達は唖然とした。
そこには大勢の人が列を作って順番が来るのを待っており、そのほとんどが武装しているのだ。
しかも頭には魔族特有の角がある。
門の中へ入る時、一人一人門番にチェックされているようだ。
「なんかやばくないか?門番の目を欺かないと」
「そうね、でも、どうやって?」
「ここは一つ、アリルの出番だろう。任せた」
「えっ、私なの?」
「そうだ、女だし、適役だと思うんだが?」
「どういう意味よ?」
「自慢の美貌で悩殺してやれ!」
「できるかぁ!」
アリルは大声で叫んだ。
「まったく、この男は……」
アリルはため息をつく。
「でも、困ったわね。変装なんて持ってないし」
「心配はいらないよぉ」
シルフがアリルに言った。
「どうして?」
「私が二人の姿を変えるからぁ」
「シルフにそんなことができるの?」
「うん、ちょっと待っててぇ」
シルフはそう言って、両手を広げる。そして、またも詠唱を始めると、風が巻き起こり、俺達を包み込んだ。
「よし、これで準備完了だよぉ!」
「これは一体?」
「見てればわかるよぉ」
シルフは得意げに言う。
やがて、風は止み、お互いの姿を確認すると、三人とも魔族の姿になっていた。
頭には立派な角が生えていて、耳が尖っている。
「へぇ、すごいな」
俺は感心しながら言った。
「まあ、これくらい楽勝だよぉ」
シルフは鼻高々だ。
「確かに、見事な変身ぶりね」
アリルも自分の姿を確認しながら、そう呟く。
「さすがシルフ!頼りになるぜ」
俺は素直に褒めた。
「でしょでしょ~」
「じゃあ、早速行こうぜ」
俺たちは並んで歩き出す。
そして門の中の列に加えって進んだ。
「次」
門番の一人がそう言い、俺達の前にいる魔族の男を指差した。
「はい」
男が返事をして前に出る。
「身分証を提示しろ」
「はい」
男は懐から一枚のカードを取り出し、門番に手渡した。
「……確認した。通ってよし」
「ありがとうございます」
そう言い残し、魔族の男は去っていった。
「次の者」
次に呼ばれたのは俺達だった。
「はーい!」
シルフは先程の魔族と同じように、カードを門番に渡す。
「……ふむ、問題ないな。通れ」
「ありがとぉ!」
俺達も無事中に入る事が出来た。
「それにしても、よく身分証なんて持ってたな?」
俺は隣にいるシルフに問いかけた。
「あぁ、それはねぇ、わかんない!」
「………………そっか」
シルフらしい答えに呆れると同時に納得する自分がいた。
「えへへぇ!」
シルフは笑って誤魔化した。
「次はどうすればいいんだ?」
領内は空まで結界が張っているせいかまだ昼なのに薄暗く、建物は全て鉄で出来ているような無機質な街だった。
すると、二人組の魔族がアリルに近づいてきた。
まさか正体がバレたのか?
そう思った時。
「おい、ねーちゃん!いい角してんじゃねーか。俺達と一杯飲まねえか?」
「そうだぜ、一緒に来いよ!」
ただのナンパだったようだ。
二人は下品な笑みを浮かべ、アリルに絡んできた。
「な、何よ、あなた達は!?」
アリルは当然、狼突く。
「うるせぇな、俺達が誘ってやってるんだから黙ってついてくりゃあいいんだよ!」
「そうそう、俺達の相手してくれりゃあ、痛い目に遭わずに済むんだからよ!」
「そんなこと誰が―――」
「わかったよぉ」
シルフが割り込んできた。
「シルフ、何をするつもりだ?」
「こうするんだよぉ」
シルフはそう言って、二人の魔族に向かって手をかざす。
すると、二人の姿が一瞬にして消えてしまった。
「「えっ?」」
二人はシルフの風魔法で遥か上空に吹き飛ばされて行った。
「うわあああっ!!」
「ひぃいいいっ!!助けてくれぇええ!!」
悲鳴を上げながら落ちていく。
「おやすみなさ~い」
シルフは笑顔で手を振りながら、落下していく二人を見送った。
そして、地上に落ちた衝撃で、二人とも気絶してしまったようだ。
「これでよしっとぉ、ちゃんと相手してあげたよぉ」
シルフは満足気に微笑んでいる。
すると、騒ぎを聞きつけて周りが騒しくなってきた。
「やばい、早く立ち去るぞ?」
俺はアリルとシルフを声をかけた。
「そ、その方が良さそうね」
「はぁい」
俺達は急いでその場を後にした。
「シルフのおかげで助かったわ」
「まあ、おかげで面倒事に巻き込まれずに済んだけどさ」
俺はため息をつく。
「とりあえず、まずは酒場で情報収集でもするか?」
「賛成だよぉ」
「私もそれがいいと思うわ」
俺達の意見が一致したところで早速行動を開始した。